コンプリートしたい
貰った飴を躊躇なく口に入れると、再び俺はフィリににらまれた。
「……な、何だよ」
「貰ったものが安全か、きちんと鑑定しないとだめです。毒が入っていたりしたならどうするのですか!」
「あー、確かに。でも鑑定ってどうやるんだ?」
「……鑑定ギルドの公式なひな形がありますので、それを参考に作って……ああ、この世界の常識を一から教えないといけないというか、そして今目の前には勇者が……」
「まあまあ。この飴美味しいぞ」
そう俺が言うとフィリはじっと俺を見た。
誰のせいでこんなに私が悩んでいると思っているのですかというかのような、フィリの冷たい視線を感じたが俺は気づかなかったことにした。
そしてフィリは桜に貰った飴を手にして、
「いいですか、見ていてください魔王様。これが“鑑定”です」
フィリが手の平に飴を乗せて、何かつぶやくと、光の窓のようなものが出来て数字が表れる。
だがそれを見て俺は、
「ステータスと同じ要領か?」
「違いますよ。ひな形があってこの湯外この要素を調べるとこうですねというテンプレートが、現在登録されている範囲でおおよそ250種類ありまして、これはそのうちの一つです。もっとも才能によって使えたり使えなかったりするのもあり、通常は鑑定ギルドで適性をはかってもらい登録が必要になりますが。それでもただ使う分には問題ありません。何かを鑑定して証明の印をつけるわけではありませんから」
どうやらこの世界には鑑定士という登録制の職業があるらしい。
確かに登録された誰々の鑑定となると出所が分かり、信頼性にもつながるのだろう。
だが俺には特に必要がなかったので、その鑑定の仕方は後で教えてもらうことにした。
と、そこで桜が、
「そういえば前に私も、クッキーに毒を仕込まれたことがあったわね」
「え! 大丈夫だったのか?」
「そうじゃなかったら、今、ヒロの目の前にいる私は幽霊になるわね」
「……なるほど。どうしてそんな事に?」
「いや、ちょっと頭にきて、闇オークションやら奴隷商を幾つか潰してぐるになった山賊を大量にとらえたりしちゃったら、残党にこう、ね。でも勇者としての付随効果? だか何だかで、毒などが片っ端から消えちゃうから、大丈夫だったわ」
「どうしてそれなのに毒が入っているって気づいたんだ?」
「仕込んだ人が叫んでいたから。ば、バカな、毒が入っているのに~、という説明をしてくれて」
「分かりやすくていいな」
「そうね~」
といった話をしていると、そこでフィリの目が死んでいるのに俺が気づいた。
「フィリ、どうした?」
「……勇者と魔王がほのぼの会話している光景……ありえない」
「疲れているなら、部屋に戻って寝ていた方が良いのでは」
「誰のせいですか誰の! もうそろそろ、戦ってください!」
「えー、俺、そういうのってあまり好きじゃないんだが」
「いいから戦いなさいよぉおおおお」
フィリが涙目で俺に叫んだ。
とはいう物の俺としては、
「どうしようか、手合わせって形でいいか、桜」
「いいわよ。ちなみにヒロが負けたら私の逆ハーレム要員ね」
「……え?」
「あ、ヒロが、ヒロ一人だけじゃないと嫌っていうならそれでもいいわよ」
桜が笑いながら俺にそう言ってきた。だが、
「だ、だったら俺だってハーレム欲しいよ! ……桜を倒して、幼馴染勇者属性をコンプリートしてやる」
「奇遇ね。私も幼馴染魔王属性をコンプリートしたいわね」
と返してくる。
そしてお互いがにらみ合い距離をとる。と、
「……これは、似た者同士の幼馴染」
何かに絶望したかのようにフィリがそう呟く。
それが、戦闘開始の合図になったのだった。
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