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鬼と文蔵  作者: 美作為朝
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 文蔵は暗い夜にいつものお使いに出されていました。

 文蔵の父親は村一番の酒飲みで、そのため朝起きられず、田んぼも畑も荒れ放題で秋の実りも他の家より少なく、文蔵の家は貧しい家でした。

 それで、樽や瓶でお酒が買えず、升酒を毎晩、文蔵に隣村の親戚の家に貰いに行かせていたのです。

  文蔵は夜は暗いわ、寒いわ、怖いわ、でこのお使いが大嫌いでした。

 隣村に行くには、暗い暗い峠を一つ越えていかなければいけません。

 月も出ていない、真っ暗な夜、文蔵は怖いので、歌を唄いながら林をとおりました。

 おばあちゃんから教わっ(すずめ)の子の歌です。

「親雀が二羽でチュンチュン、小雀(こすずめ)が三羽でチュンチュンチュン」

 すると、林の奥で何かが動きました。闇の中でさらに暗い闇の塊が動いたのです。

 文蔵は驚いて、尻もちをついてしまいました。

 闇が喋りました。

「その歌を教えてください」

 その声は、変な声でした。

「誰だ」文蔵は怖さで震えながら尋ねました。

「名前の設定はまだしていません」

 闇が答えました。闇はゆっくりと文蔵の方に向かって林から出てきました。

「こ、こっちに来るな」

 闇は止まりました。文蔵が目を凝らして闇をよく見ると、それは赤鬼でした。

「鬼か?」

「名前はまだ設定出来ていません」

 それは見た目は人でしたが、たしかに鬼でした。頭には角があり、皮膚の色は真っ赤です。この寒いのに毛皮の腰巻き以外は何も着ていません。

 文蔵はたずねました。

「セッテイってなに?喧嘩する時の掛け声?」

「翻訳機の設定が間違っているかもしれません」

 鬼は、文蔵が知らない言葉ばかり使いました。

「ホンヤクキってなに?」

「地域と時差の設定を間違ったかもしれません」

 文蔵も充分物心のついた子供だったので、もうわかっていました。この世に鬼などいないことを、きっと隣村から迷い込んできた頭のおかしい者に違いありません。

「二の村のものか?」

 今度鬼は答えません。

 文蔵はよく二の村の子供と村の境界線で喧嘩をしていたので、大体二の村の人間も知っています。

「なんで、鬼の真似をしてるんだ?」

「誤った情報によって、この姿になったかもしれません」

 鬼が答えました。

「ジョウホウって、どこの坊さん?」

 暗がりの中、文蔵が鬼をよく見ると、鬼の目は全部が黒目でこの世のものとは思えませんでした。

 文蔵は急に怖くなりました、そしてこいつに関わらないほうが良さそうだと思いました。

「おれは忙しいんだ、この一の村から二の村までおとうに使いにやらされてる最中だ」 

 鬼が喋りました。

「その歌を教えてくれたら、二の村まで運んであげましょうか」   

「おまえ、俺を運ぶって荷車(にぐるま)なんか持ってないじゃないか」

 鬼が答えました。

「そんな車なんかいりません」

 なにかされそうな気がして、文蔵は身構えました。

 文蔵は急いで後ずさりしましたが、

 途端、鬼が急に大きくなりだしました。

 鬼が急に大きくなりだしました。

 鬼の巨大化は恐ろしい速さでした。

 「うわー」

 鬼は、あっという間に峠の山ほどの大きさになりました。

 「うわー」

 文蔵はふわりとした感覚をおぼえると、宙に浮かんでおりと空を飛んでいました。

 鬼は、親指と小指で文蔵の襟首を掴むと腕をすーっと動かし、文蔵を二の村まで運び、そっと置きました。

 文蔵はその間、悲鳴を上げっぱなしでしたが、着地すると悲鳴が止まりました。

 鬼は元の大きさになっていました。

「なにしたんだ、今」

「大きくなりました、運んだので、歌を教えて下さい。対価です」

「タイカ!?タイカの改新?」

 鬼がなにかを文蔵にもとめていることは、文蔵にもわかりました。どうやら、不味い(まずい)ことになったようなので、文蔵はいつもの手で切り抜けることにしました。

 走って逃げました。

 二の村の親戚の家に駆け込むと、そこで、おじさんやおばさんに今あったことを印象的なことだけかいつまんで説明しましたが、二人うとも笑うばかり、従兄弟まで文蔵は腹が減りすぎて狂っておかしくなった。と言って腹を抱えて笑う始末です。

 文蔵は、しっかりと水でめちゃくちゃ薄めた酒を貰うと、おじさんの家を出ました。

 しかし、はたと気が付きました。家に帰るには、さっきの鬼の前を通らないといけないことに。

 道のはしっこを隠れながら酒瓶を持って歩いていきましたが

 思ったとおり、鬼はさっきと全く同じ場所に同じ姿勢のまま立っていました。文蔵も大体はわかっていました。あの巨大化の技を使われると、逃げ切ることは無理です。

 文蔵は開き直ると鬼の前までやってきて言いました。

「もう一回、さっきのをやってくれたら、歌を教えてやろう」

「あなたたちは相当、底意地が悪いですね」

 この言葉は文蔵にも理解できました。

「頭がいいと言ってくれ」

 それもまた、一瞬でした。鬼は一瞬で巨大化し、山ほどの大きさになると、文蔵を指で摘んで一の村まで運びました。

 そして、またまた鬼は一の村でもとの大きさへ。

 文蔵は随分は楽をしたので、ちょっと得をした気がしました。

 そして、鬼にちゃんとばあちゃんから教わった、暇つぶしでの時しかもう歌わない、雀の歌を鬼に教えました。

 驚いたことに鬼は、一回聞いただけで歌のすべてをおぼえてしまいました。

「この歌、雀の子が増えて、ずーっと続くんだぞ」

「わかっています。指数の数列になっているんでしょう。但し、自然数にしかすぎません」

「シスウ?、スウレツ?シゼンスウ?」

 相変わらず、文蔵にはちんぷんかんぷんのことを鬼は言います。

「あなたの遺伝情報上のマスターコピーに伝えてください、その瓶に入っている飲み物ばかり飲んでいると、中枢神経に作用して微弱な快楽は得られるかもしれませんが肝臓に著しい負担をかける場合があると」

 文蔵は全然わかっていませんが、答えました。

「わかったよ」

 なぜなら、使いが遅れた場合、父親が酷く(ひどく)怒るからです。

 文蔵は、存外鬼が悪いヤツでないことにすっかり気を許し、すたすた歩いて家に帰りましたが、このことは、このままで終わりませんでした。

 文蔵の家の隣で幼馴染の娘お竹が家の格子の向こうから一部始終を見ていたのです。

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