命を刈り取る者
死神。
それは、生けし者の命を刈り取るだけの神。死を呼ぶ凶兆。
私は、そう言われ続けた。そう呼ばれ続けた。
生ある者すべては、この世界での役目を終える時、みな私と出逢った。そして、みな怯えた。
私が彼らから感じ取れたのは、死への恐怖。生への執着。
同じ種とはいえ、人によってこうも考え方が違うのかと思う時さえあった。
中には、生きることへ絶望し、「死」が永遠の眠りであることを願い命を差し出すような者たちもいた。
私のような死神なぞに、救いを求めるほどの哀しみに打ちひしがれる人間の姿は、見たくなかった。
中には、娯楽の一環として多くの命を奪いながらも、さらに欲望の赴くままに生きる愚か者たちもいた。
この世界でいくら遊べど我欲を満たせぬ者は多くいるが、繁栄を否定し殺戮の限りを尽くす人間など、他の生物から見てももはや悪でしかなかった。
私は、死神。命を刈り取る神。
刈り取られし命と魂は、また新たな命を生みだすための糧となる。
しかし、神は万能ではない。
人が生まれる場所、人が生きてゆく場所を、死神は決めることができない。
私ができるのは、ただ命を終える者たちの魂を奪うことだけ。
でも、もし人が望むのなら…
もし、苦しみながら死に臨む者に、安らかな死を与えることを望む者がいるのなら。
もし、哀しみのあまりに永遠の眠りという夢を見て、その命を投げ出す者がいるのなら。
もし、憤怒と憎悪に駆り立てられ、愚者に苦痛の鉄槌をと懇願する者がいるのなら。
私は死神の名において、命果てし者の、最期を裁こう。