ゾンビ・イズ・ベスト
空にドラゴンが飛んでいる。
こんな状況に遭遇するなんてどうかしている。
まあ空を飛んでいるだけならまだしも、そのドラゴンは俺に向かって滑空してきているではないか。
選択肢。
1.戦う
2.逃げる
3.立ち尽くす
トチ狂ったゲーム脳の人間なら負けるとわかっていても勿論、選択肢1を選ぶ。
勇者の剣やら万全の装備なのであれば俺だって恐れず立ち向かっていただろう。
しかしそんなものどこにも存在せず俺の装備はお気に入りのプリントTシャツとステテコだけである。
よって選択肢1はありえない。
大体の人間はこの状況下に置かれれば何も考えず誰よりも早く何よりも速く逃げ出すだろう。
だがしかし、それは遭遇したことがない馬鹿な人間どもがピーチクパーチクさえずっているだけの妄言でありそんなことは絶対にできない。
その証拠に今俺の足は震えあがっておりとても逃げられる状況ではない。
それに加えてちびりそうなのである!
よって選択肢2は選ばれず残った選択肢3.立ち尽くすが執行された。
我ながらに格好が悪い。
だがドラゴンというのはそれほど恐怖を懐くものであり並大抵のものでは太刀打ちできないのだ。
だから俺のとった行動は一般人の模範なのだ。遭遇した時にはあきらめて食われろ。以上。
俺の目の前にそのドラゴンは降り立ち俺の顔を覗き込む。
もちろん俺は目を合わせず下を向いている。
ドラゴンの鼻息が顔に当たり俺は二度目の死を予感する。つかもう確定だろこれ。
俺は目をつむり全身に力を入れ食べられる覚悟をした。
その瞬間鼻息はピタっと無くなり俺の頬に人間の手が触れる。ん?人間の手?
目を開くとそこには恐怖のドラゴンの姿はなく代わりに尻尾と角が生えたアメリカ人が立っていた。
「浩二!死んでいるのかと思ったよ!生きててよかった!」
そう言いながら俺の肩を揺さぶるアメリカ人。
その男の名はベンジャミン・マイケル(20)。俺はマイコーと呼んでいる。去年の冬、即売会で出会い意気投合し今でもその関係を持ち続けている数少ない友人の一人だ。
日本在住。流調に日本語をしゃべる俺には釣り合わない天才少年だ。
「浩二は人間のままなのかい?そりゃ不便だね。でもそれはそれで面白いじゃないか!」
人間のまま?不便?何言ってんだマイコ―。
いや待てよこいつのいてることが本当なら。
こいつの気がくるっていないのであれば・・・
「もしかしてその尻尾と角本物か!?」
「当り前じゃないか。浩二は何をいってるんだい。もしかして神のお告げを聞いていないとか?」
「なんだそりゃ。」
仕方ないなあと言いつつマイコ―はポケットからスマホを取り出し動画を見せてくれた。
そこには見覚えのある死神がドアップで写っていた。
「「さあ。人類諸君!世界に降りかかった黒い粉の力でこの世の何もかもが改変した!秩序は乱れ壊れ、そして忘れ去れる。君たちは自由だ!ここでは何をしても法による裁きはない。弱き者には死を!強き者には幸福を!それがこの世のルールだ。も・し。元の世界を取り戻したいというのならこの世のすべてを見つけくれ。そしたらちゃーんと元通りになるからね。これは神のお告げだ。そして僕は死神だ!せいぜい楽しませておくれよ。それでは!リビングデットに大いなる祝福を。」」
これが神のお告げだという。
間違いなくこいつは俺を生き返らせたあのむかつく死神だ。
マイコ―の話によると俺がスーパーでみた闇の正体は死神の言う黒い粉だった。
その粉は人間をみるみるうちに人外に変え世界を混乱させたのだと言う。
竜人になったマイコ―は匂いをたどりここで倒れている俺を見つけ起きるまでの間見張ってくれていたのだ。なんという友情。俺は大いに感動した。
「人外に変えたっつってもどんな風に変わったんだ?まだ起きてからお前にしか会ってないんだけど。気配もしねえし。」
「そうだねえ。簡単にいったら人間無しのファンタジーゲームって感じだね。」
「ありきたりな気もするけどそんなこともないか。」
「ゲームの中に入り込んだ気分がするねえ。」
そんなのんきなことを言ってられるか。
俺はこの世界の事を知らなすぎる。
「俺ってどれくらい眠ってた?」
「そうだね。見つけた日から数えて一カ月だね。」
「そ、そんなにも!?」
「そうだよ。揺さぶっても吠えても起きなかったんだ。」
一か月というのは予想外だ。そして俺は困惑した。
たった一日で変わってしまった世界がもう一か月もたっているのだ。
俺はこんな世界をこれから生きていけるのだろうか。
まず、俺が一体何なのかも知らない。
人類が一斉に人外になったというのなら俺も何らかのものになっているはずだ。
頭に不安と恐怖がよぎり、表情はこわばる。
そんな俺の肩に友人は手をかけてくれた。
「心配することはないさ。浩二ならきっと大丈夫。それに俺もいるじゃないか。だってそうだろ?浩二がちびりかけたドラゴンなんだぜ俺は!」
恥ずかしい事をズカズカというやつだが俺はこのとき心の底から安心しそして俺はこいつと一緒に世界を取り戻すことを決意した。
「マイコー。俺は元の世界に戻りたい。死神の言う通りならこの世界のすべてという何かを見つければいいんだろう。俺と一緒に探してくれないか。」
「もちろんだよ相棒。僕も見たい深夜アニメとやりかけのゲームがたらふく残ってるんだ!」
理由については何も触れない。俺だって読みたいライトノベルやらなんやらがたらふく残っているのだ。
世界のすべてを見つける方法なんてものは知らない。
だけど俺達ならできるという根拠のない自信と戻りたいと願う真摯な思いを胸に俺は知っているようで知らない町に向かって歩き出した。
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「まずは情報だな。」
スーパーを出て周辺を歩いて散策したのだがこれといったものは何もない。
「上から見れば何か見えるかもしれないね。」
そう言ってマイコーは竜化し背中に乗れと俺に指示した。
「かっけえなあ。俺もドラゴンになりたかったぜ。」
ドラゴンは上機嫌なようで尻尾を大きく振った。どうやら竜化状態のときはしゃべれないようだ。
ドラゴンは勢いよく飛び上がり上空で静止した。
「うおおすっげなあ!竜騎士になった気分だぜマイコー!」
それじゃあいくよと言わんばかりにマイコーは咆哮をぶちかまし、物凄いスピードで前進した。
風圧とスピードで振り落とされそうになるが必死にしがみつきながら地上を見下ろす。
そのとき俺は、新幹線の車窓から見える景色のように過ぎ去っていく地上に光るものを発見した。
ガラスでも金属でもない。もっとこう幻想的な何かを。
「マイコー。少しとまれ!気になるものがうえええええええええ!?」
音速で飛んでいたものが急停止したらどうなるか。
察しの通り俺は振り落とされそのままのスピードで地面に叩きつけられた。
どうしたものか痛みはなく体は形を保っている。
「いてててて。あいつ絶対バカだろ。後で尻尾引っ張ってやる。ん?」
そこには獣耳少女と半魚人四匹が殺伐とした雰囲気で対面していた。
獣耳少女は俺を指さし叫ぶ。
「リ、リビングデッド!!」
「はあ?」
何言ってんだこいつと思ったころには半魚人たちは各々持った武器をこちらに向け座り込んだままの俺に襲い掛かってきた。
またちびりそうになる。
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親愛なるお父さん。
私は今。
半魚人から全速力で逃げています。
「た、た、助けてぇぇぇぇ!!!!!!」
「待てよ~お嬢ちゃん。お兄さんと一緒に遊ぼうぜ~?」
「助六さん。テンプレすぎます。」
「俺も思う。実乃助は?」
「ダサい。」
「うるせえんだよ!とにかくあの娘の持っているペンダントを手に入れるぞ!!」
「魚い。」
と言った変なお魚さん達からお父さんにもらったペンダントを狙われています。
ことの八端は十分前・・・
一か月前にアルルカの村から突然見知らぬ森に転移してきてしまった私は彷徨い続けた結果この町にたどり着きました。
そこには石の建物がいっぱいで溶けない頑丈な氷がたくさんありました。
これだけ大きな町なのだからきっと村へ戻る転移門があると思い散策している時にこの変なお魚さんたちに遭遇しました。
お魚さん達は私の胸のペンダントを見てそれをくれないかとお願いしてきました。
でも私はこれはお父さんにもらったものだから駄目ですといったのです。
そしたらお魚さん達はなら力づくで奪うと言って私を捕まえようとしてきたのです。
危機を感じて私はとっさに逃げ出しました。
獣人族の中でも足がずば抜けて早いコリン種の私ですからお魚さん達はそう簡単に追いつけません。
しかし、もしもの時のことを考えてお魚さん達を少し離した後ペンダントを草むらに隠したのです。どうですか褒めてくれますか?
そのあとも何とか逃げましたお魚さん達の足はそんなに早くないのですが賢いみたいでなかなか引き離せません。
そして今に至ります。
状況はヤバいです。お魚さん達は怒っているようにも見えます。
ペンダントを隠したなんて言ったら殺されそうです。
逃げ道。逃げ道。と探しているうちに行き止まりまで来ちゃいました。
どうしましょう。絶対絶命です。
「追い詰めたぞ小娘。さっさとペンダントをよこせ!」
「よこせ!」
私の頭がパンクしそうになったとき、その方は凄まじいスピードで空から降ってきたのです。
普通なら体は水風船のようにはじけてそこで生命活動に終止符が打たれるでしょう。
ですがその方の体は形を保っていて緑色の光が体を包んでいました。
私は興奮と安心からつい叫んでしまいました。その方を指さし、
「リ、リビングデッド!!」
と。
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いかつい顔した半魚人どもは一斉に俺に飛びかかってきた。
「こんなところで会えるとはなあ!お前らぁ!八つ裂きにして宗光様のところへ首もってくぞ!」
「魚魚魚!!!!」
威勢のいいクズどもだとはならず。
またちびりそうになったわけだがあの衝撃に耐えられる体なのだ。
きっと全身が凶器のようなものなのだろう思い、拳を強く握った。
すると緑色の光が俺の拳に集まってきた。
これは何だと考えている時間はなく、俺は持てるだけの力を使い最初に突ってきたリーダーらしき半魚人の顔を殴った。
パン!
俺の拳が当たった半魚人の頭は水風船のように弾け体はそのまま俺の方に倒れこんだ。
「はあ?」
ありえなさ過ぎて驚きを隠せない俺だったがそれ以上に残りの半魚人どものいかつい顔が青ざめていてまさにホラー映画でも見てるような気分になった。
「おい。あ、あいつのパンチ見えた奴いるか・・・」
「見えなかった・・・み、実乃助は?」
「逃げるが得策。」
「よし逃げるぞ。」
そう言って逃げ出した半魚人は俺を見つけて降りてきたマイコーの下敷きになった。
竜化をといたマイコーは今ごろ下敷きにしたのに気づいたのか手のひら合わせてごめんねと言った。何かと憎めないやつだ。
「あの半魚人達は浩二のともだ・・・違うみたいだね。」
マイコーは俺が持った首なしの半魚人を見て把握したようだ。
いや半魚人には見えねえ。
「それじゃ。後ろの獣耳少女は?」
忘れていたと振り向くと獣耳少女は目を輝かせて俺を見ていた。
「お父さん。テラはようやく見つけましたよ!」
「何言ってんだあんた。そのテラっていうのがお前の名前か?」
「はい!そうです!私はアルルカ・テラって言います!」
アルルカ・テラ。
どこかでその名前を見たような気がするのだが思い出せない。
顔もどこかで・・・
「マイコー。聞いたことないか?」
「あるにはあるんだけど・・・ありえないんだよね。テラちゃん一つ質問いいかな?」
「それよりあなたはこの方のお知合いですか?」
テラは俺の袖を掴み警戒心を放ちながらマイコーをにらんでいる。
少しキュンときた。
いかん。煩悩に惑わされては!
「そ、そうだ。それと俺は登坂浩二。こいつはベンジャミン・マイケル。」
「マイケルって呼んでね。」
「マイコーじゃないのかよ。」
「浩二だけ特別。」
心底気持ち悪いと思ったが心を開いてくれているのならそれでいい。
「失礼しました。それじゃマイケルさん質問とは何ですか?」
「テラちゃん。君の出身と種族を聞きたい。」
何を言っているのかさっぱりわからなかったが黙って聞くことにした。
「私の出身はアルテナ大陸東クルーニャ・アルルカ村に住む獣人族コリン種です。」
間違いないとマイコーは頷き答える。
「アルルカ・テラはゲームキャラだ。」
まじかよ。