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地獄の新米婦警さん  作者: 閻魔の同僚
2/2

地獄の同胞

「はい朝よ〜!皆起きなさ〜い!あんまり時間が過ぎると枕下から針が飛び出してくるわよ〜」


その言葉で飛び起きる私。

私は既に死んでいるけれど、痛いのはごめんだった。


「あら貴方、随分反応が良いのねぇ。生前は何をやっていたの?」

「は!警察官であります!」

「まぁ〜!それは凄いわ!是非模範囚になってね?」

「頑張ります!」


敬礼をしつつ大声で答える私。

そんな私を牢獄の外から見つめるのは、細マッチョのイケメンオカマだった。

燃えるように赤い髪色をしていて、瞳はやや垂れ目気味。口にこれまた真っ赤な口紅をつけて、看守の服を着ていた。


「良い心意気だわ。さ、仕事の時間よ皆〜。貴方は今回始めてよねぇ。ついて来なさぁい」

「は、はい」


牢獄の鍵がガチャリと開けられ、真っ赤な紐に手首を絞められる。

オカマに連れられるままに歩いて行くと、果てにあったのは巨大な石門。


「閻魔様〜開けてくださる?」


オカマがそう言った瞬間、石門は全開に開かれる。

中は石製のとても広い円形状の大部屋で、その中心に一人、鉄でできた机と椅子に座っている赤髪の女がいた。


「どうも、昨日ぶりですね。赤鬼さん」

「もう、その名前で呼ばないでって言ったじゃない。華と呼んでちょうだい」

「まったく…」


昨日私に判決を言い渡した赤髪の裁判官は、見るからに面倒くさそうに溜息をついて頭を掻いた。

成る程、仏教の話はあまり分からないが、地獄の裁判官だから閻魔様、か。

ま、そうだよね。


「罪人、藤原霖。少しこっちに来なさい」

「は、はい!」


私は警察学校で教えられた通り、できる限り大きな声で返事をする。

閻魔様は少し顔をしかめたが、これも素直な証ですか…と言って、何も言うことはなかった。


「貴方にやって貰うのは、生きている人間の魂を抜き取る世話、現場の仕事です。これは貴方が罪人であるから任せられる仕事。多少危険ですが、生前警察官をやっていた貴方なら心配要らないでしょう」

「…死神のようなものでしょうか」

「まぁ、そうですね。人間にはそう呼ばれている様ですが、まぁその解釈でも問題ないでしょう」


ですが、と言って閻魔様は私を正面に捉える。

その顔はとても真剣で、これからする話がとても重要なものであることを思い知らされた。


「ですが。貴方達…えぇ、死神の仕事は、寿命で死を迎える者や、病によって衰弱した人間の魂を回収することではありません」


その言葉に、私は頭を傾げる。

これから死にゆく人々以外の、どんな者の魂を回収しなければならないのか。私はすぐに、それを聞いた。


「え、じゃあ誰の…」

「それは罪人の魂です」

「…罪人?」


罪人といえば、やはり、私を刺し殺したあの強盗や、誘拐犯、殺人犯、詐欺師など…一言では言い表せないほど、そのバリエーションは豊富だ。

勿論、私もその罪人の一人。


「凶悪犯の魂です。普通の生活をしていた人間は、死ぬと同時に魂が天へとやってきますが、罪人はそうではありません。そこで、悪魔に連れて行かれてしまう前に、死神が刈り取ってしまうのです」

「悪魔とは何でしょうか?」

「理非曲直を弁えない愚か者どもです。清き心を持ったモノには近づけませんが、罪人の心には簡単に付け込んできます。そうやって奴らは魂を抜き取り、食してしまうのです」


しかし、それなら罪人の魂を無くすことができて、死神の仕事も楽になるのではないのか、と私は思ってしまう。

それを見破ったのか、閻魔様は私を戒める様に、この世界のルールを語った。


「良いですか?この世には輪廻転生という仕組みがあるのです。生前の行いによって来世が決定され、罪人には三悪趣、善人には三善趣と、生まれる場所が決まっている。それは魂の浄化と贖罪の意味を持っており、それを経て、また人間へと生まれ変われるのです。それが、悪魔に喰われてしまえばどうなるか。その先は無です。悪魔に魂を喰われてしまった罪人は、その存在を完全に消滅させ、二度と生まれ変わることはありません」

「それは…悲しいですね」

「悲しいか否かはともかくとして、私達の仕事は魂を管理することです。管理すべき魂がなくなれば、それは歴とした冥界の損害です。ですから、死神には一足早く動いてもらい、魂を回収してもらうのです」


難しい話だったが、形だけは、なんとか理解することができた。

つまり、悪魔より早く、罪を犯した人の魂を吸収すること。これが、私の仕事なのだろう。


…人の魂を物のように、嫌な所だと思った。


「貴方は新人ですから、教官をつけようと思います。青鬼さん、前へ」

「…ん、分かったよ」


閻魔様の座るすぐ後ろの石門から、一人の少女が現れる。

黒を基調としたディーラー服で、腰から下はぴっちりとしたショートパンツ。

頭にはこれまた黒いシルクハット、髪の色は青色で、少し紫に近いようにも見える。

背丈は私よりも低く、所謂幼児体形だ。


「こんにちは。僕は青鬼。あ、瑠璃って呼んでくれても良いよ?」


青鬼…瑠璃さんは私の前に来て、爽やかな笑みで私を見つめた。

この、深い青の瞳…ずっと見ていると、吸い込まれそうになる。


「じゃあ、瑠璃さんと呼ばせて頂きます」

「ん。瑠璃ちゃんでも良いのに〜」

「いえ、相手は先輩ですので」

「人間の縦社会ね。嫌だなぁ」


まるで自分はその世界では生きていなかったかのような口振りだ。

瑠璃さんは私の身体を見て回り、ジロジロ、ジロジロと視線が刺さる。


「んー、結構良いスタイルだね。どこもかしこ大きくはないけど引き締まってて、顔もよく整ってる。吊り目気味だけどそこもかっこいい。僕のタイプだよ」


子供の頃から少年のように駆け回っていた私からしてみれば、その言葉はとても嬉しいものだった。

しかし、どうも私は正直な性格なようで、考えたことを口にしてしまう。


「先輩は、その…」

「ん、いや、別に同性愛者って訳じゃないよ。僕はバイセクシュアルだし、まぁ女の子も好きだけどね」

「はぁ」


バイセクシュアルとは何かわからなかったが、同性愛者じゃないということが分かっただけでも良いとした。

それにしても、落ち着きのない先輩だ。さっきから、あっちへウロウロ、こっちへウロウロ、見た目からして、享年は多分私よりも若かったのだろう。こんな小さな子が、一体何があったのか。本来警察である私が調べる事のはずなのに、そんな話は一度も聞いたことがなかった。


「…ひひ。僕はシリアルキラーだったからね。君がタイプという話は、僕の殺しには申し分ないという意味だよ」

「…連続殺人者ですか」


唯、何も言うことができずに私は黙り込む。

瑠璃さんの言うことが本当かは分からないが、犯罪者となって、こうやって地獄にいる身としては、私は何も言うことができない。

本来なら、この状況はどうするべきなのだろう。

子供の頃から好きだった刑事ドラマ。その主人公達ならどうするか。

…分からない。


「藤原霖。魂のイロハは彼女から教えてもらいなさい。装備は此方で用意します」

「はい!ありがとうございます」

「じゃ、いこっか霖ちゃん。これから仕事だからね」


私より小さい瑠璃さんが、私の手を引いて歩く。少し抵抗しようとしても、その力は意外にも強く、全力ではないとは言え驚いた。

よく見渡すと、この部屋は8角形の形で作られている。その壁一つ一つに扉があって、私は閻魔様の真後ろの扉へ連れてこられた。


「此処が僕達の扉ね。此処から現世に現界して、魂を取るんだ。今日のターゲットは宮永理子。5人殺した殺人犯だ」


ピラッ、と紙を取り出して私に見せる。

それはまるで履歴書のような作りの紙で、生年月日と住所。経歴が書かれ顔写真が貼られていた。


「人権侵害なんかじゃないよ。僕らは死神なんだからね」

「…まぁ、もう死んでますから」

「その通り」


ニヤリと笑って、私の手を引く瑠璃さん。

ドアノブを回して、一気に開く。

すると瑠璃の肩に短めの黒いマント、右手に大きな鎌を持って、私に振り向いた。


「このドアはね、僕達死神が開くと、現界するにあたって相応の装備を…!?」

「…どうしたんですか?」

「え、あ、いや…閻魔様!?」

「…そのことについては、後で此方で調べておきます。お行きなさい」


不思議に思って、私は自分の身体を見回す。

この服は…えっと…どこかで見たことあるような…


「…警察服!?」


日本人なら見慣れているであろう、青と黒の警察服。

少し撫で回してみると、警察手帳や手錠は勿論の事、警棒や警笛、なんとどこに繋がっているかも分からない警察無線まで付いていた。


「…通常点検しようかな」

「通常点検?」

「先輩が言ってました。儀式みたいなものだって」

「…早くしてね」


律儀に待ってくれる瑠璃さん。

私は装備を取り出して、その手入れをして回った。

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