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地獄の新米婦警さん  作者: 閻魔の同僚
1/2

プロローグ

カン カン カン


「判決を言い渡す。被告人、藤原霖に、一定期間の地獄での懲役刑を言い渡す」

「え…」

「被告人は、生前に殺人を犯し、罪人とはいえ人間を一人殺したが、生涯を全うする間毎日欠かさず善行を重ね、多くの人間を救った行いは賞賛に値する。連れて行きなさい」


私の横にある扉から赤鬼青鬼が現れ、私の身体を拘束する。


「ほら、来い」

「は、はい…」


手首に真っ赤な縄をつけられ、赤鬼がそれを引っ張って行く。

それによって私の足は勝手に動き、よくテレビで見る警官に補導される容疑者のような格好をさせられた。


「…あ、あの!私は…地獄行きではないのでしょうか!?」

「地獄行きは最も重い判決です。貴方はそれ程の罪を犯してはいない」

「ですが!私は殺人を犯したのですよ!」

「貴方はそれを望んではいなかった筈ですし、生前殺人事件の被害者になった者をここで罰しようとは思いません。閻魔として、妥当な判断と私は思っています。お行きなさい」

「あ、まって…」


鬼に手を引かれ連行される私。

巨大な地獄の裁判所の中で、私の判決は決まった。


事の発端は、『生前』まで遡る。







私の名前は藤原霖(ふじわらながめ)

8月17日生まれで年齢は19歳。性別は女。

身長は158cmで体重は49kg。

生前は警察官をやっていた。


その日は雲一つない晴天で、私は交番の任務についてのんびりとお茶を飲んでいた。

割と適当な先輩は、私を置いてもう何処かへ行ってしまった。拳銃を置いていくなんて、私は恐ろしくて仕方がなかった。

もう夏真っ盛りの8月で、もうすぐ私の誕生日。風鈴の音が涼しく響き、暖かい気温で思わずうとうととしている時に、あの事件は起こった。


「お、おい!警官さん!捕まえてくれ、強盗だ!」

「えっ!?」


私はすぐに飛び起きて、先輩の置いていった拳銃を片手に外へ駆け出た。本来女性警察官は持ってはならないものだけど、目に入ったので思わず持って行ってしまった。

そこには目出し帽と分厚いコートを着た、典型的な強盗装備の男。

私は拳銃を向けて威嚇をする。


「そこの貴方!止まりなさい!」

「退けこのアマ!」

「うっ!?」


私は肩を打ち付けられて強く吹き飛ぶ。

道路の上を二、三度転がった私は、ふと脇腹に激痛を感じ服をたくし上げた。


「ッ!?…くっ、ふっ…」


男の手にあったのは血塗られたナイフ。

あれで私を指したのだろう、今も脇腹からは血が流れ出て、黒いコンクリートの上を広がった。


「ごほっ…ぐ、あ…!」


私は一つ血の塊を吐いて身体に力を入れる。震える足でなんとか立ち上がった私は犯人の強盗を睨んだ。


「ぎゃあぁぁぁぁあ!誰か、助けて くれぇ!」

「退けええええ!!」


あぁ、駄目だ…このままでは私以外にも被害者が出てしまう…

カタカタと震えながら、拳銃を男に向ける。


私は指を引き金に添えた。しかし指はそこから動かない。

男がナイフを振り上げる。

怯えている暇はない。恐怖してはいられない。

私は、殺人を犯してしまうのだろたうか。

だけど、今動かなかったら、ここにいる人達はあの男の被害者になってしまうかもしれない。

意を決して、引き金を引いた。

銃声が響いて、男の背中から血が吹き出る。


これで、良かったのかな…


何故か、私の口からは微笑が漏れた。それがどうしてかは、もう覚えていない。

私の視界は、暗転した。







視界が元に戻った時、私は真っ暗な大部屋にいた。

天井はとても高く、私はその大部屋の中心に立っていて、その周りを木製の柵が囲んでいた。

見たことがある光景だ。

これは所謂、裁判所というところなのだろう。

裁判員裁判でもしているのだろうか、それにしても多すぎる観客が柵の外から私を見下ろしている。


「被告人、藤原霖。貴方は生前殺人を犯しましたね?動機は人民の防衛…認めますか?」


混乱しつつも、私は答える。


「…認めます」

「では、真偽を確かめるため、浄波璃鏡(じょうはりのかがみ)を使用します」


私の目の前に巨大な鏡が現れる。

一般的な姿見を二回り大きくしたようなその鏡からは、小さな幼児が映し出された。


「えっ…なにこれ」

「これは幼児期の貴方です。これから貴方の返答に嘘がないか、貴方の歴史を遡って行きます。余計なものは見えないようにしているので、心配しないでください」


く、私が処女だと言うことを見破ったなこの女…

道服を着た赤黒いボブカットの女。裁判官だろうか、先程から私に質問をしているのは、この女だった。


目の前の鏡の景色が移り変わる。

幼児期の私が入れ替わって、小学生程度の歳になった私が現れた。


隣にいるのは親友の白川宮古だ。幼稚園からずっと同じ学校に通って、大学を卒業してからもほぼ毎日あっていた気のおけない友人。


画面が切り替わる。


私の家族が出てきた。

誕生日会の様子だろうか、輪になって固まっている家族の真ん中に、少し大きくなった少女がいた。

例の如く、私だ。みたところ、10歳くらいの誕生日のように見える。

家族に祝福され、満面の笑みを浮かべる私。


画面が切り替わる。


中学入学の様子だ。

ガチガチに緊張している私の背を、宮古が笑って叩いた。

一瞬顔を顰める私だけど、すぐに笑顔に切り替わる。やり返すようにして宮古の背中を叩いている。


画面が切り替わる。


高校の受験に合格し、号泣する私と宮古。

私達は何時も二人で夜遅くまで勉強会をした。

それが功を奏するしたのか、結果は前述のとおりだ。

その日はずっと二人で抱き合ってわんわん泣いていた。


画面が切り替わる。


高校で宮古に彼氏ができた。

あんまり宮古と会えなくなって、私は彼氏に嫉妬した。

そのあと唯遊ばれていただけだったことを知った宮古は彼氏と別れ、久しぶりに私と夜まで遊んで、警察に補導された。


画面が切り替わる。


大学に入学して、親元を離れた。

お母さんは最後まで泣いていたけど、最終的には手を振って見送ってくれた。お父さんはお母さんを慰めていたけれど、その瞳の端に光るものがあったのを私は知っていた。

私も泣いて、荷物を担ぐ。

最後に幼い妹の頭を撫でて、家から出て行った。


画面が切り替わる。


警察官になっている私だ。

目が焼ける程の快晴の日の下で、うとうと目を擦っている。

おじさんが押しかけてきて、私はすぐに飛び起きた。

外に駆け出て、拳銃を向ける。

強盗と思わしき男にナイフで刺され、私は倒れこんだ。

私は力を振り絞って、拳銃を向け直す。

一つ銃声が鳴り響いて、私は再度倒れこんだ。


そして、鏡から映像が消える。


「うっ…ぐすっ…えぐっ、ひぐっ」


今、やっと理解した。

私は、死んでしまったのだ。あの強盗を止めようとして、力尽きて…


「…嘘は言っていないようですね。分かりました。判決に移ります」


それから、冒頭の流れだ。

私は一定期間の懲役刑を言い渡され、鬼に牢獄へと連れて行かれた。

牢獄と言っても、そんな薄暗い小屋のようなところではなくて、普通の一人用の小部屋のような所だった。


「仕事が始まるのは明日からだ。お前は一定期間ここで寝泊まりすることになるが、就寝時間以外はこの部屋の鍵は開けておく。就寝時間は11時だ。それ以降は見つけ次第強制的にここに連行させてもらう」

「は、はい。分かりました…」


鬼は牢獄の鍵をかけ、何処かへと立ち去って行く。

牢獄の右上にはご丁寧にもアナログ時計があった。時刻は12時34分。


私は、今日この日より地獄で働く亡者となった。


他の作品の合間に作ったモノです。

文字数は3,000文字程度で、軽めに書いていこうと思います。

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