5話
翌日の放課後、軽音楽部としての活動を許可された私たちは4人揃って活動場所となる第3音楽室に来ていた。
この学校は音楽室が3階から5階に1つずつある。
音楽の授業では第1(合唱)と第2(楽器実技)しか使われていない。
第1音楽室は吹奏楽、第2音楽室は合唱部が現在使用している。
そのため、今は使われていない第3音楽室が活動場所になったのだ。
…これは予想していなかった。
「汚いにもほどがあるでしょ。」
「俺も予想してなかった。」
「掃除とか面倒…。」
上から私、密、要。
「俺は軽く予想してた…。」
そして郁杜先輩。
「あの学園長だからね…嫌な予感はしてたんだ。」
まぁなんにしても、
「掃除しようか。」
荷物を廊下に置き中に入る。
教室内には4つの机と6つの椅子、3人掛けのソファが1つ、棚が1つ、ホワイトボードがある程度だった。
まず窓を全開にし、机や椅子、棚、ホワイトボードを濡れ雑巾で拭く。
拭いて綺麗になった物から廊下に出していく。
その間に密と郁杜先輩にソファをベランダに運んでもらい埃を掃ってもらう。
隣接している準備室も同じようにし部屋の中には何もない状態にしていく。
天井の埃を掃い、4人で壁、窓を拭いていく。次に床を掃き、また拭いていく。
その作業を準備室も同時にやっていた。
そして約2時間後…
廊下やベランダに出ていた机や椅子、ソファを戻して教室を見る。
「こんなものかな。」
「お疲れ様。ずいぶん綺麗になったね。」
郁杜先輩と笑いあう。
密と要は疲れ果ててソファでだらけている。
「お疲れさん。」
そう言って入ってきたのは顧問である伊織先生。
そのあとは伊織先生が差し入れに持ってきてくれた紅茶とコーヒーを飲みながら改めての自己紹介タイム。
今日はたっぷり掃除をして疲れたので後は明日、ということになった。
帰り際先生にいきなりお菓子の感想を言われたときは少しびっくりした。
なんにしても好評みたいだったのでよかった。
一昨日と同様に4人で視線を集めての下校。女子の視線がチクチク痛かった…。
翌日からは徐々に始まった授業を受けながらも、いつも通りに生活していた。
放課後には第3音楽室集合ということになっているためHR後は荷物を持って音楽室に向かう。
他の3人はすでに来ていた。昨日綺麗にした机の方にいた。
密と郁杜先輩が向かい合うように座り、要は密の隣に座っている。
私は空いている郁杜先輩の隣に座る。
「んじゃ、色々話してこうぜ!」
「それじゃあとりあえず必要な備品かな。
この学園初の軽音楽部だからね。費用は学園が出してくれるから心配しなくていいよ。」
「備品といってもアンプぐらいでいいんじゃないですか?」
「そうだね。とりあえずそれぞれのアンプは必要だとして…他に何か意見ある人いる?」
備品の他にも作詞や作曲の事について、普段の活動についての話し合いが進められた。
作詞や作曲は私と郁杜先輩でやることになった。
密と要には任せる任せない以前にセンスがないし、出来そうもないので無理。
普段の活動については月曜日から金曜日の放課後6、7時まで。
土日は基本は無しでイベント(文化祭など)前は必要に応じて行うことにした。
長期休みも月曜日から金曜日は行うことになった。
「そういえば、バンド名決まったか?」
ふと、密がそう言った。
「一応は考えたけどかっこいい系じゃないからね。」
「おう!!」
「Astilbe。花の名前で花言葉は自由って意味。」
「いいじゃん!!なんか綺麗だし!!」
「俺も良いと思うよ。」
「…優雨、途中で面倒くさくなったんだな?」
要のその言葉に郁杜先輩がえ、と軽く声を上げる。
当の私は顔を思いっきり逸らしていた。
その様子を見て、要はやっぱりと呟き、こいつ面倒くさがりな部分があるんですよ、と郁杜先輩に話していた。
そのあとも和やかに話し合いは進んでいった。
「そういえば密、ドラムどうするの?あれおじさんのよね?」
「この機に買うぞ。というわけで、明日は4人で楽器屋行こう!!」
「土曜日にこのメンツで?」
「なんか問題あるか?」
…。学校だけでなく街中でも注目を集めなきゃいけないのか。
憂鬱だ。視線にさらされないせっかくの休日なのに…。
というわけで、土曜日。
駅に10時に待ち合わせということでそれまで私は朝からいつも通りの家事と掃除を行い、気づけば9時。
さすがに準備を始めようと思い、後片付けをして自室に行く。
服は七分袖の白と薄紫のストライプシャツにシンプルな黒のベストを着て、白生地に金のチェーンと黒のリボンが付いたショーパン、黒いニーソを履く。髪の毛は薄紫色の花が飾りに付いているゴムで左横でまとめる。
白い生地に白いリボンが付いたハンドバックに財布やスマホなど必要な物を入れていく。
戸締りを確認し、薄紫色のパンプスを履いて家を出る。
駅に着くと1ヶ所だけ人口密度の高い場所が…。
そのほとんどが女性。あそこだ…。確実にあそこだ。行きたくない…。
まぁそういうわけにもいかないため、せめてあの中に行くのは拒否しようと思いスマホを取り出す。
電話しようとしたその時2つの影が遮った。
「1人で何してんの?暇なら俺らと遊ばねぇ?」
2人組のチャラチャラした男2人。ナンパだ。
しかもすごく定番のセリフ…。
「待ち合わせしているので。」
とさりげなく断っても、まだいいじゃんとか言いながら絡んでくる。
挙句には手首掴まれた。
ああ、うざい。そして気持ち悪い。
いい加減諦めてくれないかなと思っていた時だった。
「その手離してくれる?」
郁杜先輩が来てくれた。
笑ってるけどなんか若干黒いオーラを纏ってる…気のせいだよね、うん。
「さっさとその手離してねー!!俺ら君らの相手してる暇なんてないんだからさー。」
密が私と男たちの間に入り強引に腕を離させた。こちらも笑ってるけど黒いオーラが…。
「さっさとどっか行け。」
止めは要でした。いつもの声よりだいぶ低いですね…。
…皆さんなんでそんな不機嫌なの??
2人組は3コンボくらって逃げて行きました。まぁ、怖いよね。
イケメンが怒ると特に。
「優雨ちゃん大丈夫?」
「え…あっ、はい。大丈夫です。ありがとうございました。」
「ん、手首も何ともねーな。よし!!
優雨、この埋め合わせはモンブランでいいぜ♪」
「俺はガトーショコラで。」
「了解。密も要もありがと。」
そう言って私たちは笑い合った。
ただいまショッピングモールに来ています。
…どこにいても視線は集まるんですねー。視線がチクチクする。
ここは開き直るしかないわけで…気にしないことにした。
いつまでも気にしてったってしょうがないしね…。
ショッピングモールに来た理由はドラムを買う為。
本当ならわざわざショッピングモールまで来ることはなかったんだけど遊びたかったらしい。
まあ予想の範囲内。そうなるだろうと思ってた。
しかもここ最近オープンしたばっかだしね…。
遊ぶのは後にしてとりあえず楽器屋に行く。
中に入ると様々なギターやベースが並んでいる。
ドラムも何種類かあって密の目は釘付けだ。
密が悩んでいる間私たちは各店内を見て回っていた。
約20分後、そろそろかなと思い密のもとに行く。
「密、決まった?」
「ん~、これに決めた!!」
そう言って密が指差したのは紫色のドラム。
シンプルだけどかっこいい感じだ。
「んじゃ、店員さんに行ってきな。学校に届けてもらうんでしょ?」
「ああ!!月曜の4時でいいよな?」
「いいんじゃない。」
「んじゃいってくる。」
「いってらっしゃい。」
配達を頼み、ここでの買い物を済ませる。
雑貨や服、食器を見て回り、昼食を食べ、午後はゲームセンターとカラオケ。
食器を見た理由は部活でティータイムをする気満々だからだ。
伊織先生に交渉したときに言ったらしい。
結果、白地に青の細工がしてあるティーセットを買った。
ゲームセンターでは太鼓の○人やカーレースゲーム、UFOキャッチャーなどをし、記念にと4人でプリクラまで撮った。
そんな感じで1日が終わり、ただいまお風呂。
かなり歩き回ったため足を揉んでしっかりほぐす。
ゆっくりしながら明日の予定を考える。
明日は1日掃除をしようと決め、お風呂上がりに少しゆっくりして、その日は眠った。