15話
夕食後、私はリタを連れ調理場へと向かう。
「こんばんは、ハロルドさん。」
「おお、姫さん。食材の確認か?」
「ええ。何があります?」
「今日は良いベーコンとレタスが入ってるぜ。」
ベーコンとレタスか…。
「じゃあ、サンドイッチにしましょうかね。
他に何か具ありますか?」
「色々あるぜ。ツナもあるし鶏肉もある。
野菜だとキュウリ、アボカド、ニンジンなんかがいいか。
パンはどんなのがいい?焼いといてやるぜ。」
「嬉しい。じゃあ、バケットをお願いします。」
朝昼晩の食事、アフタヌーンティーのスイーツは全てハロルドさんが作っている。
ハロルドさんが特に得意なのはパスタとパンを使った料理。
他のも美味しいがその2つは特に絶品。
「任せとけ。」
「では朝6時頃来ますね。」
「おう。」
自室に戻り、今日出来たばかりの曲を楽譜に起こす。
ギター、ベース、ドラム、キーボードの楽譜を書き終わる頃には11時過ぎていた。
終わったのを見計らいリタが紅茶を差し出す。
「お疲れ様です。物凄く集中なさっておりましたね。
姫様のお好きなレモンジンジャーティーです。どうぞお飲みください。」
「ありがとう。こんな時間までごめんなさいね。」
「お気になさらないで下さい。
姫様のお世話は私にとって最高の幸せなのですから。」
リタが良い笑顔で言い放つ。…最高の幸せは言いすぎじゃないかしら。
「…そう。」
「はい♪お風呂の準備をしてきますね。
姫様は暫しごゆっくりなさってください。」
では、といい、リタは浴室へと向かう。
私はソファに移動し、近づいてきたメーアを抱き上げる。
膝に乗せ撫でていると、メーアがスリスリとすり寄ってくる。
(もっと撫でて、主。)
「へっ?」
(どうしたの、主?)
メーアが首を傾げながら見上げてくる。
「…メーア、話せるの?」
(う~ん、話すとはちょっと違うかな。
僕達はこの能力をテレパシーって呼んでるよ。)
「どうして今まで話さなかったの?」
(ん~、ここからは話が長くなっちゃうんだ。
続きはお風呂に入ったあとにしよう?)
「分かったわ。」
メーアとの話が一旦終わると、すぐにリタが浴室から出てきた。
「姫様~準備が整いましたよ。」
「ありがとう、リタ。今日はもう大丈夫よ。お疲れ様。」
「では、明日は5時半頃に参りますね。お休みなさいませ。」
リタが一礼して部屋を出ていく。
私はメーアを抱き上げ、浴室へと向かった。
メーアと共にゆっくりと温まり、用意されていたネグリジェを着る。
科学世界の家でも寝るときはネグリジェだけどこっちの世界の奴は何故か全部胸元がざっくり開いてる。
これはどう考えても意図的よね。誰のセンスなの?
髪を乾かしながらそんな疑問を思い浮かべる。
メーアもしっかり乾かし、ベッドへと向かう。
キングサイズのベッドにメーアを抱き上げたまま入る。
(僕もこっちでいいの?)
「大丈夫よ。話の続き聞かせてくれる?」
(うん。えっと、僕達がブルーベアという種類で珍しいって事は王様達が言ってたから大丈夫だよね?)
「ええ。あまり分かっていないというのも言っていたわね。」
(僕達はねあまり人間が好きじゃないんだ。)
メーアからきっかけとなる昔話を聞く。
今から何百年も昔。戦時中の話だ。
各国の争いはどんどん激化し1人の国王が魔物たちを捕え始めた。
捕えられた魔物は洗脳魔法をかけられ、人間たちの争いに巻き込まれた。
ブルーベアも例外ではなく捕えられ、たくさんの魔物の命は散っていった。
(魔物は確かに人間達を襲ったりする凶暴なのもいるけど、皆がそうじゃない。
ドラゴン達もそうだよ。)
「ドラゴンって、実在するの?」
ドラゴンについての言い伝えは残っているが現代で見たことがあるものはいないため、人々にとっては伝説という存在になっている。
(勿論実在してるよ。4種類いるんだけど、主分かる?)
「ウェールズ、サクソン、ワイバーン、ヴリトラよね?」
(正解。ウェールズとサクソンは比較的温厚。
ワイバーンはちょっと気性が激しいけど下手なこと言わなきゃ大丈夫。
厄介なのはヴリトラ。)
「邪龍だものね。」
(あいつらは悪意の塊。相手できるのは同じ龍達だけだよ。)
ドラゴンは魔物たちの頂点に君臨する。
他の魔物たちは差がありすぎて相手にもならないそうだ。
(でも、僕達はドラゴン達を止めることだけはできるよ。
ブルーベアにも色々タイプが居るんだ。
攻撃特化型、防御特化型、万能型、大きく分けてこの3種類。
僕は防御特化型。攻撃魔法もいくつか使えるけどね。
だからね、主は僕が絶対守るよ‼)
メーアがまっすぐな瞳で私を見上げてくる。
「ふふっ、ありがとうメーア。」
(えへへ。)
その後も、メーアから色々な話を聞いた。
戦時中の魔物狩りを治めたのはヴリトラ以外のドラゴン達であること。
治めた後はディアボロの森や洞窟の奥深くに身を隠したこと。
ブルーベアもディアボロの森奥深くに居ること。
(テレパシーを使わなかったのはね、初めの2週間は見極め期間だから。
ちゃんと主を見極めて付いていくか決めるんだ。
それで、付いていかないと決めたらそのまま姿を消し、2度とその人の前には現れない。
でも、付いていくと決めたら主を守ることに命を懸けるんだ。)
「そう、なの…。
本当にありがとう、メーア。傍にいてくれて。」
(えへへ、僕ね今すごく幸せだよ‼
そうだ、主に来てほしい場所があるんだ。…来てくれる?)
「勿論よ。」
(でもね、その場所には主しか連れていけないんだ。
僕達ブルーベアの主しか連れていけない。勿論危険はないよ。僕が守るから。)
「大丈夫よメーア。お父様やレイス達は私が説得するわ。
そうね、明日は郁杜先輩たちに楽譜を渡したいし、いきなり学校を休むと心配されるから火曜日でいいかな?」
(うん‼ありがとう主。)
その日はメーアを抱きながら眠った。