13話
テスト2日目、国語と化学の2教科を終え、本来の授業を受ける。
テスト返却は来週のようだ。
いつものメンバーでお昼を済ませ、午後の授業を受ける。
HR後は体育祭に向けての代表委員会があるため拓斗君と移動する。
レオンとガイの2人には心配されたが30分ぐらいだと言えば、メーアを連れていくことを条件に渋々ながらも了承してくれた。
メーアは強固な結界を張ることが出来、嘘や悪意に敏感に反応する。
そのために条件に出されたのだ。
集合場所となっている教室に入り、郁杜先輩や生徒会の方々と挨拶を交わす。
委員会の内容は体育祭の係や種目、組み分けについてだ。
組み分けは今、くじ引きで決めることになる。
その結果、
赤組…3-1、2-4、1-1
青組…3-3、2-1、1-2
黄組…3-2、2-5、1-4
緑組…3-4、2-2、1-3
紫組…3-5、2-3、1-5
となった。
私や郁杜先輩は紫組だ。
組み分けが決まった後に、係や種目が書かれたプリントが渡され説明を受け、
来週の金曜日の放課後までに提出するようにと言われた。
委員会終了後、望月先輩に捕まった。
「なんですか?」
「そんな訝しげな視線を向けんじゃねぇよ。」
望月先輩はそう言いながら同じような視線をメーアに向けている。
「何か文句でも?」
「お前学園長に何言った?最近いつにも増して上機嫌で怖いんだが…。」
思い当たる節はある。
姫であることを自覚し、妖の存在を知り、世界を行き来し始めたのは今月。
報告したのは今週の初めだ。
「…特に何か言った覚えはありませんよ。メーアの事くらいです。」
「ガアゥ!!」
「そうか。…その熊は「メーアです。危険はありません。」…分かった。」
「失礼します。」
メーアを抱っこしたまま郁杜先輩と部室へ向かう。
「やっぱりメーアは注目を集めるね。」
「まぁ、小熊ですからね。」
「そういえば、体育祭に親御さんは来るの?」
「…どうでしょう。両親は何かと多忙なので。」
なんせ一国の王と王妃ですしね。
…来るとしたら目立つこと間違いなしね。
「郁杜先輩はどうなんですか?」
「両親は来ないけど、妹達が友達と来るって言ってたかな。」
「妹、達?」
「うん。双子なんだ。今中3。来年花ノ宮受けるって言ってたから。
…どうしてああ育ったのか未だにわからないんだよね。」
「?」
郁杜先輩の妹さんか…。
容姿端麗はまず間違いないとして、どんな子たちなんだろう?
「まぁ、うちの妹達は置いといて、作詞作曲の方はどう?」
「1曲は作り終わっています。今2曲目の作詞が終わったところです。」
「結構順調だね。俺は2曲も作り終わったんだけど、聞いてもらえるかな?」
「もちろん。」
部室に入ると3人は大人しく練習していた。
「密と要が練習してる…。」
「何かあったの?」
私、郁杜先輩の順で軽く呆然としながら呟く。
2曲は既に出来上がっているため、約2週間前に楽譜は渡してあるものの、密と要は部活では言わなきゃ練習しようとしない。
それが今日は、何も言ってないのに自主的に取り組んでいる。
「先程伊織先生がいらっしゃいまして、学園長から体育祭でライブをするよう話がされた様です。」
「なるほど。だから焦って練習し始めたってことかな、密?」
「…その通り。」
…学園長、絶対面白がってる。
まぁ言われたからにはやるしかないわけで、とりあえず練習を中断し、郁杜先輩の新曲を聴くことにする。
ロック調の曲だった。題名は「翼」。
「かっこいいじゃん!!郁杜ナイス!!」
「難しそうだけど、いいんじゃないすか?」
「まだロック調の曲ってないし私は良いと思いますよ。
ただ歌い切れるか心配ですけど…。」
「優雨ちゃんなら出来ると思うよ。練習は必要だろうけど。
レオンはどう思う?」
「私も良いと思いますよ。」
「じゃあ、来週までに譜面におこしてくるよ。」
新曲の話はこれで終わりにし、体育祭について話す。
「ライブって言っても私たちまだ1回も合わせたことないけど、どうします?」
今のところ完成している曲は2曲。
私が作詞作曲した「Astilbe」。
郁杜先輩が作詞作曲した「Days」。
どちらもPOP系の曲だ。
「とりあえず今の出来栄えを確認しようか。
俺は2曲共もう弾ける。あとは合わせてみての微調整程度かな。」
「私は歌詞は完璧です。あとは、音程の確認と微調整だけです。」
「俺はAstilbeの方は弾ける。Daysはあとサビ部分と暗譜がまだ微妙…。」
「レオンは渡したばっかりだからしょうがないとして、密は?」
「俺は…ごめんなさい!!どっちもビミョーです!!」
数秒の沈黙後…私、郁杜先輩、要の溜息が揃った。
「密、冗談も程々にしなさいよ…。」
「兄貴…。」
「楽譜渡してから結構立ってるよな?密。」
「ヒッ!!…はい、本当に申し訳ありませんでした。
どうかお許しを郁杜様!!」
郁杜先輩から漂ったブラックオーラに密は縮こまる。
…怒った時のレイスみたい。
軽音楽部の中で怒ったら1番怖いのは間違いなく郁杜先輩だ。
「今から頑張っても部活時間だけで出来ますかね?
再来週からは体育祭練習とかの放課後活動入ってきますし…。」
「…泊まり込みでやるか。」
「泊まり込みって?」
「俺の家スタジオあるんだ。
ドラムやアンプも置いてあるし、完全防音だから夜中までやってても平気。
金曜の夜から日曜までの2泊3日でどうかな?」
スタジオって…。響谷財閥凄い過ぎる…。さすが大企業。
私が言えることじゃないけど。
「…郁杜先輩の家見てみてぇ。」
「それじゃあ、4人とも来る?
両親は今海外だからいないし。妹もいるから優雨ちゃんも来れるだろうし。」
「それは来週ですか?」
「そうだね。今日じゃ急過ぎるし、再来週だとギリギリすぎるでしょ?」
「分かりました。
それと密言っておくけど、体育祭終了までティータイムは無しだからね?」
「うっす…。」
ということは、お父様たちの説得頑張らなきゃいけないかな…。
「姫様、ガイは如何致しますか?」
「…そっか。一緒の方がいいわよね?」
「はい。」
「私が郁杜先輩に話しておくわ。」
そのあと3人は練習を再開し、私は郁杜先輩にガイの事を話しておく。
その日の夜。
ガイに事の次第を説明し、オレガノへと向かう。
鏡を通り抜けると城の4階居住区の廊下に出る。
前回は同じく居住区にある応接室だったが、今回からはここに通じるようにしてもらったのだ。
城は7階構造になっている。
地下2階には罪人などを捕える牢がある。
今では罪を犯すものはほとんどいないが、戦争があった時代には重要視されていたためかなり広く造られている。
地下1階は武器庫や宝物庫などの倉庫。
1階には、玄関、大広間、庭園、訓練場、測定室など。
2階は客室、応接室、研究部、調理場、隊員達のための食堂がある。
3階は謁見の間と書庫、特別使用人の私室。
特別使用人とは、レイスやリタなどの王族専属の執事や侍女の事。
4階は王族の居住区になっていて、私室やダイニングルーム、大浴場などもあり、客室も数部屋設置されている。
応接室などもあるが4階以上は王族の他には信頼できる者や使用人など許可された者しか立ち入ることは出来ない。
5階は展望室となっている。
各階の移動にはエレベーターを使う。中央、東、西に1つずつ設置されている。
エレベーターからは庭園が良く見えるようになっている。
1階ごとの高さがかなりあるため、見晴らしはかなり良い。
謁見の間や地下2階から4階までのエレベーター、玄関の前には騎士隊や魔術隊の隊員達が立ち、巡回も交代で行っている。
ただし、4階の担当は王に認められた者でなくてはならない。
4階以上には魔法を張り巡らせているため異常があればすぐにわかるが、念のため巡回なども行っている。
廊下に出ると、リタとレイスが立っていた。
「「おかえりなさいませ。」」
私はリタに連れられ、私室に行き着替えを済ませる。
レイスは調理場へ、ガイとレオンはそれぞれの隊舎へと向かった。
騎士隊、魔術隊、使用人には敷地内にそれぞれ宿舎があり、部屋が与えられているのだ。
今日は、ピンク色のドレスを着せられた。
ダイニングルームに入ると、既に揃っていて、挨拶をし、席に着く。
食事を楽しみ、食後のティータイムの時に部活の事を話すことにした。
予想通り反対されたものの、ガイとレオンをちゃんと連れて行くことと、向こうの家族には女の子が2人いるということを主張しなんとか説き伏せることができた。