12話
翌日、テスト前日ということで授業はほぼ自習。
ガイはなんとか読み書きは問題がない程度には出来るようになった。
そして理系は全く問題がない。文系は全く駄目だが…。
レオンはこちらの勉強を大抵は理解できたらしい。
まだ1週間も経ってないんだけど…覚えが早いとかの域じゃないよね?
放課後は部活停止のため家でみっちり勉強。
要も加わり、私とレオンで2人に教え込んだ。
テスト1日目。花ノ宮は中間は2日、期末は4日にわけて行う。
部活停止については中間は前日、期末は1週間前からになっている。
今日は数学と現代社会と英語の3教科。
そのため午前中で終了だ。
午後、私の家にはガイとレオンはもちろん、要と凛、密と郁杜先輩まで集まっていた。
これからこのメンバーで勉強会だ。
「あー…もうやだー。部活したいー!!」
「凛、明日で終わるから頑張ろう?」
「むー…。」
凛は渋々ながらノートにむかう。
「もう無理!!俺は今日で力尽きた!!」
騒ぎ始めた要に私は鋭い視線を向け言い放つ。
「口動かしてる暇あるなら勉強しなさい。」
「…。はい、ごめんなさい。」
要は大人しく勉強を再開する。
約2時間半が経過したところで休憩のため紅茶の準備をする。
冷蔵庫を見ると中に見覚えのない箱があった。
中を見てみるとアップルパイが1ホール丸々あった。
確実にリタの仕業…。
こちらで普段通りに生活することは許されたものの、掃除や洗濯については日中にリタがやってくれている。
おそらく勉強会を見越して用意しておいてくれたのだろう。
ご丁寧に箱には国花であるオレガノの花が記されていた。
せっかくだから頂こう。
パイを適当に切り分け、バニラアイスを添えハーブも一緒に盛り付ける。
紅茶はシンプルにブラックティーにした。
レオンや郁杜先輩に手伝ってもらいテーブルに運んで行く。
みんなで紅茶を飲み一息つく。
凛や要、密、ガイを見ると完全にまったりムードになっている。
この後ちゃんと勉強するのかな?この4人…。
「そういや、ガイはなんか部活はいんねぇのか?」
ふと、密が聞く。
ガイは、あー、と言いながらこちら(私とレオン)にちらちらと視線を投げかける。
「まぁ、やることあるからな。」
「やることって??」
要も加わりだした。
「えっと…それはそのー…。」
「私とガイは目的があってこの国に来たので。目的はまだいえませんが…。
私は部活に入った方が何かと都合がいいので入ることにしたのですが、
ガイに部活に入られると熱中して目的を忘れかねないので。」
レオンはにこりと微笑みながらフォローに入る。
フォローというかただ事実を言っているだけだけど。
話し合って放課後は、ガイには学園内の見回り、レオンには私の傍についてもらうことになった。
「へぇ~…。」
密達が話している間私は郁杜先輩が気になっていた。
昨日から時々考え込んでいる様子が見られるのだ。
こちらの科学世界の存在は魔法世界にとっては周知の事実。
(それでも行き来することはほとんどできないが…。)
だが、魔法世界の存在は科学世界ではほとんど知られていない。
知っているのはほんの一握りの人たちだけだ。
それは妖怪の血をひいている者たちの方が多いが、一族の当主のみという場合が多い。
最初は気にならなかったが、だんだん郁杜先輩に気付かれたかもしれないという疑念が強くなっていた。
休憩も終わり勉強を再開。
最初の方は要や凛がグダグダいっていたが今は大人しく勉強している。
私もとりあえず勉強に取り組むことにした。
不安な個所を重点的にこなしていく。
分からない部分は郁杜先輩に聞き、何とか理解することができた。
私は6時頃まで勉強に取り組み、夕食の準備をすることにした。
人数が多いためメニューはカレーにサラダ、フルーツヨーグルトを作ることにした。
米をいつもより多めに炊き、カレーの具材を切っていく。
煮込んでいるうちにサラダを作る。
レタスを適当な大きさにちぎり、キャベツを千切りにしていく。
ゆで卵は半分、トマトは8等分にし1つずつ乗せ、コーンも適当に乗せ、サラダはこれで完成。
白桃や黄桃、みかんなどの缶詰を開け、桃類は適当な大きさに切る。
大きめのボールにヨーグルトと混ぜ合わせて入れる。
缶詰の汁も適量入れ混ぜ合わせ小さい器に適当に盛っていく。
15分ほど煮込んだらルーを入れかき混ぜていく。
ルーが溶けたら、ご飯を適当によそい、カレーをかけていく。
出来あがったものをレオンやガイにダイニングテーブルに運んでもらう。
「ごめんね、優雨ちゃん。
こんなご馳走になっちゃって。」
「気にしないでください。」
「優雨おかわり!!」
「…要、もう少し落ち着いて食べなさい。」
おかわりのカレーを渡しながら落ちつける。
「へーい。」
そして話題は来月にある体育祭に移る。
「そういえば6月1日に体育祭ありますよね?」
「いいねぇ、体育祭!!」
「黙れ脳筋。」
「んだと!?」
「事実でしょ?」
奮起する要に凛がニッコリ笑顔で言い放ち、いつものケンカが始まる。
「食事のときくらい落ち着きなさい。」
「「だってこいつが!!」」
「分かったから落ち着きなさい。」
つい溜息がでる。
「優雨ちゃん、母親みたいだね。」
郁杜先輩がクスクス笑いながら言葉を掛けてくる。
「嬉しくないんですが…。」
「体育祭かぁ…。今年はどんな無茶ぶりかねぇ…。」
密がふと呟く。
「無茶ぶりって?」
郁杜先輩と密が説明を始める。
「毎年最後の競技がね、ちょっと無茶ぶりなんだよ。」
「そうそう。しかも何するかは毎年違って、分かるのは競技が始まる直前。」
「学園長の発案で生徒は全員強制参加。」
「去年は超障害物競走だったな…。」
「超?」
「ああ、障害物の規模が半端じゃねぇんだよ…。」
密の目が遠くなってる…。
「レアすぎる…。」
凛も同じことを思ってたみたいだ。
「半端じゃないって、どういうことですか?」
「早食い、難問クイズ、射的、VS動物、芸披露とかを街中でやったんだよ。
時間も2時間確保されて優勝者には豪華賞品も用意されてるんだ。
去年の優勝者はキラ先輩だったかな?」
「だなー。キラさんは最強すぎる…。」
突っ込みどころ満載過ぎるんだけど…。VS動物って戦うの?しかも2時間も…。
憂鬱になってきた…。
「…そのキラ先輩って誰何すか?」
ガイが質問をする。
「前任の生徒会長だよ。キラ・ルヴィエ先輩。成績優秀、運動神経抜群、まさに完璧な人だったよ。」
…キラ・ルヴィエ?キラ君?
「…-い。おーい、優雨どうしたー?」
「え?ああ、何?」
「何じゃねぇよ。いきなりぼーっとしてどうした?」
密の声に気付けば皆の視線が集まっていた。
「なんでもないよ。」
そうか?と納得してなさそうだったが言い切って元の話題に戻させた。
そのあとも賑やかに時間は過ぎて言った。
8時ごろに解散し、その日の勉強会は終わった。
「姫様、どうかされたのですか?
キラ・ルヴィエという名前がでてから考え込まれていたでしょう?
何か気になることでも?」
皆が帰った後、レオンがすぐにそう聞いてきた。
「えっとね、エドガー様は知ってるのよね?」
「先王の弟君のエドガー・エアハート様ですか?
お会いしたことはありませんが…。
たしか科学世界の令嬢と結婚し、そのままこちらの世界で生活しているとお聞きしましたが。」
「そのとおりよ。キラ・ルヴィエはエドガー様の孫。つまり、私のはとこよ。」
「!?…なるほど、だから先ほど考え込まれていたのですね。」
「ええ。キラ君も知ってるし、幼いころだけど面識もあるわ。
まさか、日本にいるとは思わなかったけれど…。」
懐かしいな…。
それから私は幼いころの思い出に浸っていた。