10話
翌日の早朝、昨日でGWは明け、今日から学校。
私は5時に目を覚まし、制服に着替える。
リタに髪を整えられ、王城内の調理場に直行。
昨日の夜リタに朝にお弁当を作るために調理場を借りたいということをお願いしていたのだ。
調理場には専属のシェフが数人、朝食の下ごしらえをしている。
そこにリタにつづき入っていく。
リタは1人の男性に近づき、紹介していく。
「姫様、この方は料理長のハロルド・グーディメルさんです。
少々厳ついですが面白い方なんですよ。」
リタが姫様と言葉を発した瞬間、周りの目が一斉にこちらを向く。
その目は驚愕の視線に染まっている。
「初めまして、ユウ・エアハートです。
お願いを聞いて頂きありがとうございます。」
私は周りを気にせず笑顔付きで挨拶をする。
「そ、そんなこと仰らなくても大丈夫ですよ!!」
かなり恐縮しているようだ。テンパリ過ぎて噛んでいる。
大柄で厳つい外見には似合わない態度だ。
「無理に敬語を使おうとしなくても大丈夫ですよ。
普通に接してくれると嬉しいのですが…。」
滅多に産まれない姫に普通に接するのは無理かもしれないが期待を込めてそう言ってみる。
「おもしれえ姫さんだ。俺の事はハロルドと呼んで下せえ。
今後ともよろしくお願いしますよ、姫さん。」
…面白いはこちらのセリフだ。
「よろしくお願いします。」
そのあとは、他の人たちとも話し、少しずつだが普通に話してくれるようになった。
私は、材料を受け取り、おかずを作っていく。
今日は、鶏の唐揚げに胡麻風味の卵焼き、アスパラと人参のベーコン巻、ポテトサラダにプチトマト、茹でたブロッコリーを詰めていく。
炊いておいて貰ったご飯も詰め、後は冷めるのを待つだけ。
気付けば6時45分を過ぎていて、そろそろ朝食の時間だった。
私が7時半には家を出るため朝食の時間を7時に早めてもらったのだ。
これからは基本金曜日の夜から月曜日の朝まではこちらにいるが、それ以外は今までと変わらずあっちの家で暮らすことになった。
父様達にはかなり反対されたが私が押し切った。
ガイとレオンもあっちの家で寝泊まりするため、レイスが魔法で家の造り(内部)を変えていたりもしていた。
服に関しても、あまり変わらない(王城内は基本正装のため中世のヨーロッパのように思えるが)ので問題はない。
そう考えながらダイニングルームに向かう。
中にはみんな揃っていて挨拶を交わす。
セシルがすごく眠そうだ。
楽しく朝食の時間を過ごす。
普通食事は1時間ほどかけて摂るのだが、さすがに無理なため25分ほどで済ませ、挨拶をし、退室する。
扉の前に控えていたリタと共に調理室に戻り、お弁当の蓋を閉め、それを持って(持ったのはリタだが)私の部屋へと急ぐ。
部屋の前には制服姿のガイとレオンがいた。
お弁当を見た瞬間驚愕していたが、次の瞬間には笑顔でお礼を言われた。
2人を連れて中に入り、鏡の前に立つ。
行き来をするためには条件がある。
1つ目は、鏡。
2つ目は、特殊な術式が施してある物を所持、または身につけること。
3つ目は、コード。
つまり、鏡がある場所で、術式が施してある物を持ち、コードを知っている事。
コードはそれぞれの国で違っていて、誰か1人でも知っていれば可能になる。
私はサファイアのイアリング、ガイは赤の石のブレスレット、レオンは青い石のブレスレットにそれぞれ施してある。
ガイとレオンのブレスレットは魔武器と呼ばれていて、魔力を流すとそれぞれ大剣と杖になる。
科学世界で何かあった時体術だけでは頼りないため、魔武器を与えられたらしい。
杖はあってもなくても良いが、あった方が術が強力になるため念のためだ。
鏡に触れ、自宅を思い浮かべコードを唱える。
「輝きのオレガノ、尊き姫。」
輝きを放ち、あちらの世界と繋がる。
鏡を通り抜けると自宅の玄関に出た。
世界の繋がりを切るためshutと唱える。
家を出て、2人に挟まれながら歩く。
この時点で目立ちまくりだ。主に髪色のせいで…。
まぁそれを気にしていたらきりがないので気にしないことにする。
というか今更だけど、郁杜先輩の事お坊ちゃんとか執事本当にいるんだとか思える立場じゃなかったんだな…。
はぁ…。それにしても、
「あのコードはやめてほしい…。」
横の2人に苦笑される。
「しょうがないですよ。姫は尊き者とされているんですから。」
「それは知っているけど、自分で言っても聞いているだけでも恥ずかしい…。」
2人に愚痴りながら歩いているとすぐに校門についた。
そしていつものように(?)後ろから呼ばれる。
「優雨…。」
後ろを振り向くと口をぽかんと開けた凛と蛍夏がいた。
2人は仲良くなってから、朝途中で合流して一緒に来るようになっていた。
「おはよう、2人とも。
えーっと、私の横の2人ははとこ。そしてこの子はメーア。」
一緒に暮らすため怪しまれない関係性を説明するため、こちらの世界でははとこ同士という設定にした。
メーアは底が深い籠に水色のタオルを敷いた物で連れてきている。
ブルーベアは人の悪意がわかるらしく悪意を持って近づいてくると警戒するため連れてきた方がいいとなったのだ。
「外人?…小熊?」
「うん。赤髪がガイ・ベランジュ、青髪がレオン・エルヴィユ。
今日から転入してくる事になったの。」
「よろしく。」
「よろしくお願いします。」
2人が挨拶をする。
「え?あ、あたしは見吉蛍夏、よろしく。」
「優雨の親友の春宮凛でーす。」
「2人とも同じクラスなの。…私が特に仲よくしてる2人。」
後半は、2人が笑顔を張り付け様子を窺っていたため凛達に聞こえないぐらいの声量で話す。
そのまま校舎までは一緒に行き、私たちは学園長室に行くため下駄箱で別れた。
学園長室前に来た。
学園長は魔法世界を知っているらしく父様の友人でもあるらしい。
そのため一応挨拶に来たのだが、普段の学園長を知らないため不安に駆られる。
集会などの時には厳格な感じの人なんだが、郁杜先輩によると全く違うらしい。
意を決してノックし一声かけ入室する。
「おお、来ると思っていたよ、ユウ・エアハート王女。」
ふと、他の人間には感じない違和感を感じた。
「こちらではその呼び方はやめて頂けますか、学園長。」
「悪かったね、東雲君。
護衛の2人も歓迎するよ。ガイ・ベランジュ君、レオン・エルヴィユ君。」
2人が軽く会釈をする。
「同じクラスがいいんだよね?席は東雲君の後ろに作っておいたからね。」
「ありがとうございます、学園長。
…1つお願いしたい事があるのですが、聞いて貰えますでしょうか?」
「言ってごらん。」
「この子の学園への立ち入りを許してもらいたいのですが。
ブルーベアのメーアと言います。」
「ほう…。良いだろう、教師陣を通して通達してもらおう。
キャメル色の青い鈴付きのチョーカーを付けた小熊を見ても驚かないように、とね。」
「ありがとうございます。」
「今、北見先生を呼ぶから待っていてくれるかな?」
そう言われ、待っていると、数分後に北見先生が学園長室へ入ってきた。
「この2人は君のクラスへの転校生だ。東雲君のはとこのようだからね。
頼みましたよ、北見先生。」
北見先生は転校生と言われ驚愕していた。
外人っていうことも含まれているとは思うが…。
「そういうことは事前に仰って頂けますか、学園長。」
…何も知らなかったのか。
この短時間で学園長のイメージがかなり崩れた。
どうやら、厄介でマイペースな自由人で、面白いことが大好きそうだ。
「フフ、まあいいじゃないか。
ほらもう時間が迫っているよ。行かなくていいのかい?」
北見先生は1度溜息をつき、私たちに行こうかと声を掛けてきた。
それに応じるように私は北見先生に近づいた。
北見先生から順に退出していく。
廊下に出て歩き始めると、私は先生にお疲れ様ですと声をかけた。
教室に行くまでに、2人とメーアの紹介をした。