9話
翌朝、5時半に起こしに来たリタと挨拶を交わし、着替えを行う。
今日は黄色のドレスにミュール、髪は下ろしたままでカロライナジャスミンの花飾りをつけられた。
7時からは朝食、それまでは紅茶を飲みながらリタとおしゃべりを楽しむ。
朝食を済ませると部屋にレイスがやってきて、今日の予定を告げる。
今日は9時から午前中一杯魔法実技。
午後は自由でいいとの事だったので、2時から3時はテスト勉強に充てる事にして、4時からは王城内にある書庫に案内してもらうことになった。
魔法実技では風属性の中級魔法をマスターする事ができた。
上級魔法の練習中に時間が来てしまったので今日はこれで終了。
昼食を済ませ少し休み、テスト勉強に取り組む。
最初ということで5教科で範囲も狭いので結構楽だったりする。
勉強を終わらせ、アフタヌーンティーを楽しんでいると、レイスが2人の青年を連れて入ってきた。
「姫様、この2人はこれから姫様の護衛を務める者達です。」
青年たちが1歩前に出て口を開く。
「ガイ・ベランジュです。」
「レオン・エルヴィユと申します。」
「「よろしくお願いいたします。」」
えーっと…?
「…レイス、護衛って?」
「姫様のです。花ノ宮学園の手続きも行っておきました。」
…いやいや。え?あっちで護衛付きで過ごすの…?
ガイは赤髪赤目、レオンは青髪紫目だよ…?
私あっちでどれだけ目立たなければいけないの…?
「いや…あっちで護衛なんて必要ないんじゃ…。」
今現在レイスに鋭く睨まれております。…怖いです、レイスさん。
「姫様…ご自分のお立場をきちんとご理解ください。
科学世界へ渡る魔法は王族が管理しているため使えるのは許可された者だけですが、欲望に目が眩んだ貴族共(屑共)が姫様を狙い刺客を送ってくる可能性が大いにあるのです。
この2人は身元もはっきりし信用できる優秀な者たちです。
どこから情報が漏れるとも分かりませんし、1人にすることは絶対に出来ないのです。
…お解り頂けますでしょうか?」
「は、はい!!」
声裏返ったよ!!怖すぎる…。鬼…いや魔王だ…。
「えーっと、じゃあ、よろしくお願いします。」
私が頭を下げたことにガイとレオンの2人は戸惑っていたけど私は構わず、メーアの事も紹介する。
「姫様、このあとからこの2人をつけますのでよろしくお願いします。」
「分かった。それじゃあまだ時間あるし一緒にお茶しようか。」
私が笑顔で言い放つと、2人は再度戸惑っていたが少々強引に座らせた。
2人は公爵家の出らしく将来は家を継ぐそうだ。
ガイは騎士科、レオンは魔術科を卒業し、この春からそれぞれ騎士隊と魔術隊に入ったらしい。
私の護衛選抜の際に2人は私と同い年ということもあって選ばれたらしい。
私は2人に2つお願いをした。
1つ、正式な場以外では敬語を使わず、姫様呼びを禁止。
様付けも無しで呼び捨てで呼ぶこと。
2つ、科学世界では必要最低限の事は文句を言わずやらせること。
1つ目に関しては、かなり渋っていたが科学世界の方では守ってくれるらしい。
レオンは元々敬語口調らしく、それは拒否された。
2つ目も渋々ながら納得してくれた。
この時間話していてガイは元気青年、レオンは大人っぽく落ち着いている印象を受けた。
時間になり、書庫に案内してもらう。
同行者はメーア、リタ、ガイ、レオン。
王城の書庫には魔術書などがたくさんあるため、光属性のものを探そうと思ったのだ。
書庫は広く膨大な量があった。
3人に手伝って貰いながら探すことにした。
魔術書は属性ごとに並んでいたためすぐに見つかった。
光属性と闇属性の魔術書は6冊ずつしかなかった。
王族であれば持ち出しOKだったため、その6冊を部屋に持っていくことにした。
自分で運ぼうとすると6冊ともガイに奪われた。
持てるといっても、レイス様に怒られるやらお願いは科学世界限定なのでと譲ってくれなかった。
部屋に戻るとまだ5時前だった。
ふと思った事を聞いてみる。
「ガイとレオンってGW明けから転入?してくるんだよね?」
「GWが何かは存じませんが、この休み明けからは同じクラスに転入することが決まっております。」
「9日から2日間中間テストだよ?今日4日であと今日含め5日しかないけど大丈夫?」
「…大丈夫じゃないですね。」
「あー…俺死んだ。」
私たちの間に沈黙が流れる。
「言葉は?」
「…話すことについては魔法があるので大丈夫ですが、読み書きは無理ですね。」
またもや沈黙…。
「これは…。
今から勉強しようか?」
「よろしくお願い致します。」
「すいません姫!!俺無理ッス!!」
「やる前から断念!?
…ガイ、せめて読み書きは覚えて。」
「…努力します。」
というわけで、日本語講座を開くことになった。
夕食ギリギリまで行い、レオンはひらがな、カタカナ、簡単な漢字を読み書きできるようにはなった。
だが、ガイはひらがなとカタカナは出来たものの漢字が全くできない。
魔法世界の読み書きは基本英語だ。
まれにフランス語やイタリア語もあるが…。
だからテストでは英語は全く問題ないだろう。
だが、国語がかなり絶望的…。
レオンはこの調子でいけば現代文の部分は何とかなる。
だがレオンでも古典は無理だ。
とりあえず明日もみっちり教えることになり、私は頭の中で計画を立てていた。
勉強の資料として中学の時の教科書をそのまま2人に貸し、漢字辞典もそれぞれに渡しておいた。
翌日、午前中は9時から魔法実技を行った。
その際に水属性魔法の教師役として魔術隊隊長のディオ・ノディエを紹介された。
ディオは金髪に銀目の物腰柔らかな優しい男性という感じだった。
珍しい闇属性の魔法適性を持ち、魔術隊で1番の能力を持っているらしい。
午前中はディオに水属性魔法の初級から中級の魔法を教わった。
午後は昨日に引き続き、科学世界の方の勉強を教えることになった。
レオンが漢字までスラスラと書き始めた時にはすごく驚いた。
一晩で相当勉強したらしい。
そのため、ガイには漢字、レオンには化学を教えることになった。
レオンに中学校の教科書を貸す。
すると、驚くほどスルスルと中身を理解していく。
アフタヌーンティーの頃には中2までの内容を覚えきっていた。
それに対しガイは、未だに漢字に苦戦。
簡単な漢字は何とかなったが中学の漢字に入ると全然だめだった。
見た目外人だしなんとかなるか、と思い国語の部分はそこまでにすることにした。
3人でティータイムを楽しみ、ゆっくり休憩する。
1時間ほど休み、勉強を再開する。
ガイは数学、レオンは化学の続きに取り組んでいる。
ガイは意外なことに数学が得意だったようでスルスルと理解していく。
驚異の理解力を見せ、その日のうちに今の範囲までの勉強を終えてしまった。
私が茫然としていると、
「ガイは極端なんですよ。」
とレオンが言った。
…極端にもほどがあるでしょう。
そういうレオンも化学を1日で終わらせてしまった。
翌日も同じように過ごし、ガイは漢字以外の読み書きと数学、化学は完璧といえるほどになった。レオンは古典以外は完璧。
この3日で分かったことは、ガイは完璧な理系、レオンは万能型であること。
夕食を終えた後は部屋で魔術書を読みあさる。
6冊しかないが、1冊の内容が濃いためなかなか進めない。
光と闇の魔術書は初級が1冊、中級が1冊、上級が2冊、神級が2冊とあった。
他の属性と比べかなり難しい。だがその分かなり強力な事が分かった。
一昨日は初級の1冊、昨日と今日は中級の1冊を読み、時間はかかったもののなんとか理解することができた。
寝室に行く前にリタに明日の朝についてお願いしておく。
リタは意外にあっさりと認めてくれた。
私は明日からの学園生活の事を考えながら眠りに就いた。