三日目 残り少ない命を糧に……
残り少ない命を糧に……
美亜は満足に動けなくなってしまった。
「あ、あはは。ごめんねぇ。なんか、心配させちゃったみたいでさ」
今日も元気に笑っていた美亜。
だが、今日の笑いはちょっとばかし切なかった。
「心配したとかの問題じゃねぇよ! 体は大丈夫なのかよ」
俺はそっぽを向きながら言う。
美亜を見ると何だかどうしようもなくやるせない気分になるからだ。
「あはは。見ての通りダメダメだねぇ。体が動かないや」
笑っているが悲しく聞こえたのは俺だけだろうか。
「ったく。死ぬならさっさと死にやがれ」
「全くだよう。だけど、私にも心残りがあるわけですよ」
心残りか。
「なんだよ。心残りって」
「えっと……笑わない?」
「ああ、笑わないよ」
「私ね。私の家に行きたいの」
は?
家に行きたい?
「どこにあるんだよ」
「え?」
「どこにその家があるんだよ」
俺は美亜の方を見る。美亜は驚いていた。
「なんで、驚く必要がある」
「だって、笑わないから。みんな笑ったのに。信五は笑わないから」
なんで、笑う必要がある。
人の夢を笑うのは重罪だ。少なくとも俺はそう思っている。
「そんなことでか。で? どこにあるんだよ」
俺は美亜が寝ているベットに腰掛けて聞いた。
「この街の東にあるみたいなの。ただ、番地が思い出せなくて……」
そりゃあ、大変そうだ。
「あー、なんだ。俺が連れてってやろうか?」
俺は気づけばそんなことをいていた。
「え? だって、私歩けないよ?」
「馬鹿だなぁ。おぶっていくんだよ」
「だって、番地わかんないよ?」
「ったく。そんなもん端から回ればいいだろ?」
俺は美亜の頬を摩る。
美亜は目から大量の涙を流し泣いていた。
「バカ、泣く必要がどこにあるんだよ」
俺は苦笑しながらそんなことを言っていた。
ったく。喜怒哀楽が出すぎてんだよお前は。
「うん。うん。ありがとう」
俺は美亜をおぶって外に出た。
「さぶくないか?」
俺が聞くとうんと美亜の声が耳元に聞こえる。
「そうか。じゃあ、行くぞ」
俺はジャンプで屋根に乗り駆け出す。
確か、東側だったな。
俺は一気に飛び上がり東側まで走る。
そして一軒一軒美亜に見てもらい記憶と合致するか聞く。
「これで三十軒っと」
俺はホントに端から見ていった。
美亜は申し訳なさそうに言うがそんなことは微塵も感じなかった。
「ここはどうだ?」
「ううん。ダメ。見たことないよ」
そろそろ三時間が経つ。
「少し、休むか」
そう言って近くの公園の遊具に乗っかり俺の股の間に美亜を座らせ美亜を風から守るようにした。
「ごめんね。家、見つからないね」
今日の美亜はよく謝る。
「何謝ってんだ。これは俺がしたくてしてんだから謝んな。それより大丈夫か?」
俺は弱々しくなってしまった美亜に問いかける。
「うん。大丈夫だよ。暖かいね、信五は」
全く、何を言っているんだか。
「さて、休んだし、家を探しに行くか」
「うん。そうだね」
美亜を再びおぶって走り出す。
それから何十軒も回った。そして、どれも違った。
「こ、ここが最後だ。どうだ?」
美亜に聞くと美亜はゆっくりと顔を上げ家を見てこう言った。
「ここだ。ここだよ。私の家」
俺の肩に暖かい水滴が垂れた。
「おいおい。泣くなよ。このバカ」
「バカ言うなぁ」
顔をくしゃくしゃにして泣く美亜。
「どうやらここは売られてるみたいだな」
家には売り物件と書いてあった。
「今日はもう暗いしここで一泊するか」
「うん。そうだね」
美亜は頷き俺の背中に顔をくっつける。
俺は家の中に入りベットがないか探した。
簡素だがベットらしいものがあったのでそこに美亜を寝かす。
「さぶくないか?」
俺か聞くと美亜は目を開け俺をみた。
「ちょっと寒いかな、心が」
どうやって暖めろって言うんだよ、そんなもん。
俺は困ってあたふたしているともう一つ注文された。
「私の抱いて?」
「は?」
俺の思考は一瞬止まり何を言っているのかわからなかった。
「だから、私を抱いてよ。早くぅ。寒いぃ」
珍しく甘えてくる美亜に俺は仕方なく一緒にベットに入って美亜を抱いた。
「どうだ? あったかいか?」
「うん。あったかいよ。ありがとうね」
そう言って美亜は寝てしまった。
俺は一瞬死んでしまったのではないかと思ったが息をしていたので生きているだろう。
明日は問題の日。
美亜の余命最終日だ。
俺は明日どうするのだろう。
だが、そんなのはもうどうでもよかった。
こいつとはそういう契約だ。
死んだら全てを忘れる。そう言ったのは俺じゃないか。
そうだ。こいつが死んだら俺はこいつといた記憶を全て忘れて何もかもなかったかのように生きていくんだ。
俺は、コイツのことを何とも思っちゃいないのだから。
その夜、俺はなぜか涙を流しながら寝ていたのだった。




