一日目 始まりの出会い
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始まりの出会い
神をも恐れず世界をも壊す男がいた。
これは後に最弱の神と手を組み最強の階段を歩いた神谷信五の十五の時の物語である。
俺はいつものようにヤクザの取立てを追い払い組を潰していた。
「チッ。この程度でヤクザ名乗ってんじゃねぇよ」
俺は最後の一人をなぶってから地面に叩きつけその場を後にする。
「いやぁ。君、強いね」
不意に声をかけられ振り向く。
「誰だ、テメェ」
そこにいたのは女性だった。
「おやおや。名前を聞きたいならそっちが先に名乗ったら?」
最初に思ったのはいけ好かない女だ。
「まあ、君のことは知ってるんだけどね。神谷信五くん」
女性は珍しい真っ黒の髪をなびかせながら言う。
「俺はテメェの事を知らない。さっさと名乗れ」
俺は睨むように女性を見る。
「おうおう。怖い目をしないでくれよぉ。私は金津美亜。ちなみに十七だよ」
歳は聞いてねぇよと言いたかったがあえて言わなかった。
言ったところで面白くないからだ。
「で? なんのようだ? お前もほかの奴らと同じで俺を利用しようと思ってるのか?」
「どうしてそう思うの?」
俺はポケットに手を入れため息をする。
「俺に近づいてくるのは大概がどっかの研究所の奴らか、昔潰した組の奴らだからだよ」
「へぇー。君も大変なんだね」
君もという言葉に疑問を覚えた。
『も』ということはこの女も俺と同じなのか。
バカな。俺と同じな奴がいてたまるか。
「私ね。もうすぐ死ぬんだ。あと四日だって」
俺はその場で固まった。
人が死ぬところは何度も見た。戦争の地に俺は一人で行っていたからだ。
だが、どうしても人死ぬところは慣れない。
「なんで、死ぬんだよ」
「ん? なーんか。病気みたい。やだよねぇ、人って死が迫ると急に何か残したいって思っちゃうんだよ」
「じじぃかテメェは」
あははと笑う美亜。
「私のことは美亜って呼んでよ。そうそう、それで私は最後に私と一緒に最後までいてくれる人を探してるんだよ。どう? 私と最後までいてくれる?」
俺はしばし考えた。普通ならこういう話は殴りの一発でも入れて追い返すのだが相手はもうすぐ死んじまうやつだ。
「やっぱ、ダメだよねぇ。わはは、わかってはいたんだけどやっぱり最後は最強とかと一緒がいいじゃん? だから、探してたんだけどまさか年下だとは思わなかったなぁ」
そう言って美亜は悲しそうな顔を無理やり笑顔にしていた。
「ホントに死んじまうのか?」
俺は訪ねた。もし、これで死ぬと答えたらどうしようかとも思ったがそんなのはどっかに追いやった。
「うん。死ぬよ。派手に死んじゃうよ」
「は、派手に死ぬのか?」
「うん。もう、最後は君のせいにして死んじゃうよ」
俺はため息を吐いていた。
どうやら、俺の中で決意が固まったらしい。
「いいよ。一緒にいてやる。ただし、死んだら俺はお前の事を完全に忘れる。いいな?」
「えー。忘れないでよぉ。まあ、いいや。じゃあ、よろしくね。信五くん」
「信五くんはやめろ。信五でいい」
ニコッと笑った美亜を見て俺は小っ恥ずかしくなりスタスタと先に歩き出した。
「あ、待ってよぉ~」
美亜が俺の腕にしがみつき一緒に歩き出した。
「お、おい。抱きつくな!」
「あれれ? 恥ずかしがっての? あはは。可愛い~」
こいつはホントに死んでいくやつなのか? 一瞬そう思ったが呆れて俺は家まで歩き出した。
「信五の家ボロいね」
「うっせ。買い換えるのが面倒なだけだ」
「買い換えなくても改築すればいいのに」
俺は反論できなかった。
買い換えるのも改築もしようと思えばできる。金はあるし自分ですればいい。
だが、面倒なのだ。家なんてみんな同じであって要は使いようが違うだけなのだ。
「ねぇねぇ。今日のご飯何?」
こいつ、まさか俺んちに居座る気か?
「お前は帰れよ」
「私、せっかく集中治療室から抜け出したのにこんどは抜けられないよぉ」
てか、抜けてくんなよ!
俺は呆れ果て声にもならない叫びを上げていた。
「飯はない。食いたきゃ作れ」
美亜はムスっとした顔になり俺に物言わぬ訴えを放つ。
「わかったよ。作ればいいんだろ? ったく」
俺はだんだんめんどくさくなり冷蔵庫にあった生肉を無造作にフライパンに入れ焼き始めた。
「何作ってんの?」
「レーション」
「肉じゃあできないと思うなぁ」
俺のおふざけにも真面目に答えている美亜。
「ホントは?」
「ただ肉を焼いてるだけだ」
ふーんと興味なさそうに言う美亜。
俺が肉を焼いている最中美亜は俺の背中にぴったりくっついて料理が出来上がるのを待ち望んでいた。
「まだぁ?」
「もうちょっと待て。肉ってのは焼き加減がだな……」
美亜は俺の話を真面目に聞いていて俺がああだこうだと言うと頷き返してくれたり、返事をくれた。
こんなのは久々だ。
大概はみんな俺を怪物のように見る。
別にそんなのはどうでもいい。ただ、つまらなかった。相手にするのもされるのもつまらなかった。
だが、今日に限っては違うらしい。
「ねえ。神様って信じる?」
肉を食べながら美亜はそんなことを聞いてきた。
「は? 信じねぇよ。信じたところで戦えねぇし、弱そうだしな」
美亜はあははと笑い話を続ける。
「私はねぇ。信じてるんだ」
「なんでだ?」
「だって、信じてればこの病気治りそうじゃん?」
ああ、そういうことか。
病人は神に願うと聞いたことがある。
俺は体質上風邪を引いたことがないのでどういうものなのかわからない。だが、こいつはあと四日で死んでしまうのだ。そりゃあ、神頼みもしたくなるのだろう。
「ねえ。私、悪いことしたかな?」
美亜は肉を食べる手を止めうつむく。
俺は美亜にかける言葉が見つからず意気揚々と言った。
「知るかよ。俺は今日お前に会ったばかりだからな。過去のことは知ったことか。だけど、きっとお前は何もしちゃいねぇよ。世界は理不尽の塊だからな。そういうこともあるさ」
美亜は顔を上げ俺の顔をまじまじと見ていた。
「な、なんだよ」
さすがの俺も何かミスったのかと言った記憶の前後を探るが問題はなかった。
「そうだよね。信五の言うとおりだよ。そっか、悪いのは私じゃなくて世界の方だったのか。あはは。そうかそうか」
そう言って美亜は笑顔になった。
どうやら俺は間違ったことは言っていなかったようだな。
「ねえ」
「なんだよ」
さっきから質問ばっかだ。
「信五さ。明日はどこ行く?」
俺は呆れてものも言えなかった。
「お前、病人なんじゃないのかよ……」




