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第38話 それは無自覚な感情×秘密結社のお誘い

 少し時間が経ち。互いに落ち着きを取り戻した頃。俺は気になっていたことを聞いてみる事にした。


「ねぇミラちゃん。俺ってもしかして、まずい局面にいる?」


 オブラートに包むことなく直接的に聞いてみたけど、途端に彼女の表情は少し緊張感に包まれていく。スカイブルーの瞳に不安の色が現れる。でもその視線は俺から外れる事はなく、ただただ真っすぐ見つめられていた。


 この部屋は出入口が1つ。外から鍵をかけるタイプだ。窓は1つ。鉄格子がしてあって出れない。部屋全体に守護魔法がかけられていて、ちょっとやそっとじゃ壊れない。そして出入口の扉の外には人の気配。

 

 この部屋は病室ではある。でもこれは、逃げられないような『独房』も兼ねている。俺は今、逃げられない場所に監視されている状況だ。


 俺の問いに一度小さく息を吐き、覚悟を決めたように口を開いた。


「はい。非常に重要な局面です」


 短くも、その言葉には底知れぬ重みがあった。


「そうだよねー」


 ミラちゃんがここまで覚悟をする必要があるほどの事が、この先に待っている。


 でも全く不安はない。大切な人が側にいてくれるのだから。


「不安はなさそうですね」


「フフフ、ミラちゃんがいてくれるからね。大抵の事は受け止められるから大丈夫だよ!」


「本当に……エドガー君らしい」


 胸を張って答えれば少しだけ呆れたように笑ってくれた。でもこれでピリついた空気は薄れた。


 俺はとうに覚悟は決まっている。


「では本題に入りますね。私は、とある組織に属しています。一般にはもちろんの事、騎士団や王親衛隊、王室さえも存在すらも知られていない秘密結社。見ての通りここは病室であり、隔離された独房のような場所。アナタはこの世界の機密に触れてしまった。『ドラグーン・バレー』、そしてアルベルトという『対峙した敵』についてです。まぁアルベルトについては秘密結社どうこうの前に、エドガー君の敵でありましたが。どちらにせよ、この機密は外に漏らすわけにはいきません。選択肢は【秘密結社に入り、四六時中監視されながら命を落とすかもしれない程の危険度の高い特殊任務に当たる】、もしくは【入らない】かの2択。今すぐに決めなくとも──」


「入るよー!」


 俺の即答に少し驚いたような表情を浮かべて固まるミラちゃん。大きな目をまん丸にして、ジッと俺を見つめる。どこかホッとしたようで、でも複雑な感情が入り交じった表情。なんとなくその気持ちはわかる。


「大切な人がいてくれる。それだけで危険度が高かろうが、不安も心配もなければ怖くもない。それにさ、そんな危険な任務にミラちゃんが関わっているのを知ったのに何もできずにいるのは嫌なんだ。ミラちゃんは強いよ。でも心配なんだ」


 自分がいれば助けになれるとか、そんな大それたことは何も思っていない。ただこれは俺の我儘だ。大切な人が危険な目に合うかもしれないのに、じっとしていられない。


「……こんな時まで人の心配ですか。まったく、お人よしが過ぎます」


「俺はそんな良い人じゃないよ。大切な人、限定だよ」


「はぁ……私も似たようなものです。本当ならあなたをこちらの世界に関わってほしくない。ある意味ではもう関わっていたとしても、危険な目には合ってほしくない。そう思っています。でもだからこそ気持ちが理解できる。…いいんですね、本当に。覚悟がいりますよ」


「うん! 大丈夫! それに自分のためでもあるんだ。宿敵を倒して家族の敵を討った、あの日の真実も知れた……でも謎は増えてばっかりで、この日のために準備してきたのに釈然としない。メチャクチャもやもやしてるんだ。だからその組織に入って、謎の答えを探し求めたい。危険だろうと関係ない。俺が前に進むためにも、そうしたいんだ。覚悟はできてる。でも入団動機としては弱いかな?」



 家族のために敵を討とうと思った。でも今は違う。俺自身が納得するために、答えを知るために前に進みたい。


「エドガー君らしいですね。良いと思いますよ」


 そんな答えを聞いてミラちゃんは微笑んでくれた。いつものように全てを包み込む笑顔で。


 しかし1つ懸念は。


「でも唯一不安なのが俺の実力不足かなー。たぶんミラちゃんとかフレイ君がアルベルトと戦ったら苦戦しつつも真っ向から倒せたかもしれないし、フリューゲルさんだったら苦戦すらせずに倒せたかもしれない」


 最後にトリスタン達を相手にしている時のフリューゲルさんは、いい意味で同じ人間だとは思えなかった。ユニークスキルという特殊な力を持っている同士でもこれほどまでに実力が離れているのかと、まざまざと見せつけられた形となった。英雄という異名は伊達ではない。真実に近づくのなら、強くならないと。


「なら私が一緒に鍛錬をしてあげますよ。ヴァルフリート家直伝の鍛錬、厳しくしてあげるので覚悟しておいてくださいね」


「アハハ……お手柔らかにお願いね~」


 やる気に満ちてくれているのは良いが、果たして俺はその鍛錬に耐えきれるのだろうか。田舎村の独学と名家直伝ではレベルは雲泥の差だろう。鍛錬は嫌いではないが少しだけ怖い。


 目が爛々と輝くミラちゃんは可愛くもあり、この先の事が少しだけ不安になった。頑張れ俺。


 コンコンッ─


 明るくなった空気の中、部屋の扉がノックされた。


「どうぞ入ってください」


 ミラちゃんが答えると扉は開き、そこにはフリューゲルさんがいた。なぜか知らないが凄くにこやかだ。


「フリューゲル副隊長! 助けてくれてありがとうございました!」


「お礼なんていいんだ。俺達がもっと早く悪事の尻尾を掴めていれば君たちに危害が加わることはなかったし、被害者ももっと少なかっただろうから。でも君達は持ちこたえてくれたし、監禁されていた人はみんな無事に救助した。君たちが通信してくれたおかげで動くことができてた。こちらこそ、ありがとう! それに個人的には……青春の一場面を見れて満足したぞ」


「青春……? なんかありましたっけ?」


「無自覚かー。でもそれが良い」


 仏のような笑顔で頷くフリューゲルさん。何だかわからないけど満足したようでよかった。ミラちゃんも首をかしげている。可愛い。


「では本題に入ろうか──秘密結社について」


 空気が引き締まった。柔らかい笑顔のままだけど自然と背筋が伸びる思いだ。体が痛くて伸ばせないけど。

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