第27話 開戦×今の実力
それを決戦の合図に全力で地面を蹴る。同時にエアライドを発動させて風を纏い、アルベルトに目掛けて飛んだ。
注げるだけのマナをつぎ込む。体力には自信があるけど持久戦なんてものは考えない。常に全力を維持していないと一瞬で終わってしまう、戦う前からそんな危機感が直感的に感じられたから。
勝負は一度きり。絶対に当てる。
剣の間合いに入る前に闇が迫るが急加速、急転換し振り切ってアルベルトの背後に回る。少し無茶な動きで骨が軋みそうだけどこのくらい無茶をしないと生きてきた意味がない。耐えてくれ、俺の体。
速度を維持し、剣を突き立てて斬りこむ。アルベルトは一瞬目見開き驚きつつも反応し体を反転させる。だがガードするにも完全には間に合いそうにない。闇も追い付けていない。
弓矢と並んで、スピードには絶対の自信がある。
これは騎士団の中でもそうだ。たとえフリューゲルさんを相手にしてもこの点は勝っていると自負している。
このままなら当たる!と期待していた刹那、どこからか現れた闇がアルベルトの体を引っ張り、俺にまっすぐ相対する形になる。無理やり向き直したことでバランスは不安定であるが、俺の直線的な剣術を対処するには十分すぎる構えだ。
不安定ながらも剣でガードされる。ガッシャ─という甲高い金属音が響き、火花が散る。だがエアライドで勢いがついている剣撃の重さに耐えきれず、アルベルトの状態が少し仰け反る。弾かれた剣を左右に横薙ぎし連撃を叩き込む。
それにアルベルトが応戦し、剣戟が戦場を支配する。
どうやって闇を操っているのかは知らないが、操作系魔法の類は考えなしに使えるようなものではない。考えさせる時間をなくせば闇は易々とこちらに向かってこないはず。そう思って踏み込んでみたが読み通りで、剣戟の最中は闇の動きが単調になり鈍く、読みやすくなった。
だがそんなものを抜きにしても剣術はアルベルトの方が一枚も二枚も上手で、エアライドのおかげでスピードだけは優位に取れていても技と力の差は歴然。次第にバランスを取り戻すごとに一撃の重さと剣戟で差が出始めて俺のものを凌駕し、叩き落していく。
頬を剣先が掠る。雨に混じり、生暖かい血が垂れた。
(ファーストコンタクトは潮時だ)
これ以上はこの距離でやるのは無理と判断し、前蹴りで距離を取る。瞬時に10メートル程離れ、剣の間合いから離れた瞬間に闇が牙を向いてきた。少し間合いと時間があれば別の攻撃手段が飛んでくる。あちらも俺を休ませる気はないようだ。
すかさず矢をセット。マナを込めて射る。同時の風属性魔法【アローレイン】を発動。前方からは俺が放った矢が迫り、上空からは魔法で作られた矢が雨の様に降り注ぐ。
闇はやはり実体があるようで、矢が直撃するとダメージが入ったように弾け飛ぶ。闇の隙間を縫ってアルベルトに向かった矢は、とんでもない反応速度を持って剣で対処されて直撃には至らず。マナで強化された矢を10メートル程度しか離れていないのに、全て剣で対処するなんてどんな反射神経をしているのか。必中も読まれていては対処されるとはいえ、規格外だ。アローレインも全て対処。一撃たりとも入らない。
中途半端な距離にいては後手に回るばかりだ。息を入れたいから一旦距離を取るために上空へと飛んだ。伸びてきていた闇は途中で追うのをやめて、アルベルトの脚元に戻っていく。どうやら無限に伸びてくるわけではなさそうだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……想像以上だね。でも──」
雨に混じり汗が滴り降りる。肺が少し苦しい。でも、まだ全然やれる。
アルベルトも少しだけ呼吸が荒くなっている。
人間離れしている強さだけど、人間ではある。
同じように疲労する。少しだけ安心したよ。敵は化け物ではなく人間なのだと思えたから。しかしその瞳の殺気と闘志は増していくばかりで、復讐心を当てられている事を喜んでいるかのように狂気的な笑顔を見せる。肌にプレッシャーが纏わりつく。
油断したらすぐそこに死が待っている。
鍛錬でもエアライドを長時間使った事はあるけど、戦闘しながらマナを高出力で維持となるとやはり勝手が違う。剣戟で全身のあらゆる筋肉や骨が悲鳴を上げる寸前だったけど、それに加えてこの疲労感。どちらにせよ長期戦なんてものは望めない。
そして見立て通り、俺の方が分が悪い。
攻撃が通らない。剣も弓矢も魔法も。少し正面からずらした程度では対応される。何者かはわからないけども、あれだけの事をしでかす相手だ。これほどの実力は想定内だ。
だからこそ、一度のチャンスで決めなくてはいけない。
「ここからは、荒々しくいくぞ……!」
「来いよ、生き残り」
絶対なる決意を固め、その身に風を感じながら急加速。円を描くようにアルベルトの周りを高速飛行。
『アローレイン』、『ゲイルカッター』を同時に発動させ、全方向から攻撃を向ける。魔法で生み出された刃と矢が視界いっぱいに広がり、一斉に動き出す。
糸のような雨を切り裂き、アルベルトへと向かっていくが、闇と剣による強固な防御によって全てが叩き落された。散り散りになった武器が地面に突き刺さり、雨に濡れた地面をえぐり、割れんばかりの衝撃と土煙が広がる。
魔法攻撃が消えた瞬間、ドンッ!ドンッ!─という鈍い破裂音が連続で起きると共に、目がくらむような爆炎が巻き起こり、今の物とは比べ物にならない衝撃波が戦場を駆け巡る。
爆薬を仕掛けていた矢が空中で爆発したのだ。狙い通りの場所で爆発してもらうため、爆発前に闇によって破壊されないように魔法攻撃を囮にして同時に射った。
「魔法が効かないと見るやいなや物理か。この程度では……っ!」
言葉を遮ってまで驚くのも無理はない。奴が目にしたのは、爆炎の中を突っ切り背後を取り、剣を振るう俺の姿なのだから。
視界がクリアになった瞬間に、少し驚いたようなアルベルトと視線が交錯した。
あぁ、俺も驚きだよ。
爆発の衝撃で互いが視界外になった一瞬を狙って、背後に周り、首に向けて剣を振るうという作戦だったからね。なんで視線が合うのか。どんな読みだよ。
フレイ君の魔法攻撃程ではないがぼちぼちの量の火薬を使っているから、無防備に受けたら飛竜の装甲にもダメージを与えられるほどにはある。普通なら防御魔法でもないと乗り切れない。しかし残念ながら、この程度では倒す事はできないとわかりきっていた。ほんの数分しか剣を交えていないが、そんな甘い相手ではない。だからこそ、これはあくまでも布石。
礫が返ってきた瞬間、加速してアルベルトの背後に回り、そのまま加速し爆炎に突っ込みながら剣を振るった、と、いうところで視界がクリアになり視線が交錯。もう少しくらい隙ができているかもしれないと思っていたけど、読まれていないにしても敏感に俺の動きを察知して動いてきた。経験からなる戦いにおける嗅覚、シックスセンスとでもいうべきか。戦場で相対しているだけでも背筋が凍るほどに恐ろしい。
でも完全なるガードには間に合わない!
マナを込めた剣を迷わず振った。このままなら一撃目は完全に入らなくともガードを崩し、二撃目で攻撃が入る。深手にならずともダメージを与えられる。
だが──振る直前に見てしまった。気づいてしまった。
アルベルトの表情がニヤリと不敵に笑い、自らガードを下げて首に隙を作ったのだ。
理解できない。
底知れぬ恐怖が一瞬で全身を駆け巡る。熱くなっていた血が一気に冷め、全身が冷たくなっていくかの様にさえ思えた。
俺の剣は、吸い込まれるアルベルトの首に向かっていく。このまま直撃で斬れば、奴の首は吹き飛ぶ。俺の勝ち…のはずなのに絶対にそうならないという確信が芽生えた。
その刹那──。
「ッガァッ?!」
首に剣が触れる直前。剣と首との間に、オーラのような半透明の黒い何かが入る。背筋がぞっと寒気が走るがマナの気配を感じた。
剣は奴の肌に食い込むことなくその場で弾かれ、火花が舞った。まるで鈍らで金属を斬りつけたかのように。こちらから攻撃したのに歯が立たず、全ての手ごたえが自分に返ってきた。
全身を吹き飛ばすかのような衝撃波と痛みが右手に走り、ギュイッ─と金属同士がぶつかるような甲高い音が響くと同時に衝撃に耐えきれず剣から手を離し、宙を舞った。俺自身もなにか巨大なものに引かれたかのように弾き飛ばされ、地面を転がる。
腕に激痛が走り、吹き飛ばされる。視線が合ったアルベルトは満足げに、心底嬉しそうに不敵に笑っていた。
何が起こったのか理解できないがとにかく痛すぎる。鋭いような鈍いような、種類すらもわからない痛みで息が詰まり呼吸ができない。受け身を取って態勢を整えようにも何度も地面にぶつかり、衝撃が襲い、痛みが全身を覆う。途中でゴーグルも割れて、弾け飛んだ。
でも敵から視線だけは絶対に外さない。俺の武器の1つはこの『目』だから。見えている限りはまだ対応できる。だからこそ逸らした瞬間…殺される。
涙で歪んだ視界に、アルベルトが地面を蹴る動作に入るのが見えた。同時に闇も蠢く。
死が迫る。
(動け!!! 動き続けろっ!!!)
ここで終わるわけにはいかない。歯を食いしばって、エアライドの出力を最大まで上げる。
一陣の風が体に纏う。
不安定ながらも体が急上昇。バランスなにもあったものではない。飛んでいるのではなく、吹き飛ばされているかのような不格好さで空へ。闇が掠めるぎりぎりで回避。
無理な態勢で上がったせいで骨が軋み、変に内臓を圧迫して苦しい。
それでも射程圏からは離れられた─はずだった。




