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第15話 ミネルバ代表の見解×村を滅ぼした存在



「それはさておき。彼から話がある。スターリースカイ、俺に言った事をニックに言ってくれ。俺はコーヒーでも淹れておく」


「ありがとう。ミルク多めで頼む」


 フレイ君は棚の方へ行き、コーヒーを入れる準備を始めた。兄弟って感じで和むなぁ。


「ミネルバ代表しての話か……なるほど。面白そうだ。遠慮せず、何でも聞いてくれていいぞ」


 先ほどまで光を失っていた瞳は爛々と輝いていて真剣そのもの。表情は心底楽し気ににこやか。フレイ君の様子から、きっとつまらない質問ではないと感じてくれたのかもしれない。


 俺もその意思に応えて、自分の人生をぶつける覚悟を持って心を決めよう。


 先ほどフレイ君に話したことを、フリューゲルさんにも話した。


「どうか知っている事があったら教えてください! お願いします!」


「……なるほどね。ちょっと待っててくれ」


 少しの沈黙の後、フリューゲルさんは立ち上がると棚から1つの古びたファイルを取り出し、開いて眺めた。何もしゃべらず、真剣な眼差しで読み漁り、あるページに入った時に手を止め、食い入るようにそのページを見続ける。


 一体何を見ているのか、どんな答えが返って来るのか。不安と緊張で高まった心臓の音が耳をつんざく。


「君があの、唯一の生き残りの少年か……」


 少ししてパタンッとファイルを閉じ、真っすぐと視線を向けてきた。


「あの飛竜災害の時、救命信号を受けて真っ先に向かったのは、たまたま近くを通っていたミネルバだった。だが飛竜との共生を謳い、それを信条に生きてきたのにバハムートの出現を予期できず、注意喚起もできなかったのは我々の責任だ。ミネルバを代表して謝罪したい。申し訳なかった! 俺達の力不足だった」


 深々と頭を下げるフリューゲルさんとその隣で同じように頭を下げるフレイ君。


「2人ともやめてくださいよ! ミネルバが悪いなんて誰も思っていません! あんなの…誰も悪くない」


 飛竜と1番距離が近い人達ではあるが、あれを予期するのは無理だろう。だって人為的なものなんだ。あのローブの人間たちが何かしたに違いない。そんなものを予期できる方がおかしい。飛竜と距離が近いというだけでミネルバの人たちが謝るのは間違ってる。


「バハムートが確認されたのは、トロス村の災害が初めてだ。君の言う通り、あれがそのローブの人間たちが起こした人為的なものだとしても、バハムートというあれほどの巨体が移動していたならば気づいていなくてはいけない事だった。痕跡も見つける事が出来ず、気づくことすらもできなかったのは我々の力不足と言わざるを得ない」


 俺は飛竜の専門家ではない。だからその痕跡や兆しを発見する苦労もわからないが、ミネルバで見つける事が出来ないのなら誰であろうと無理だと思っている。


 でもフリューゲルさんはそうは思っていない。心底申し訳なさと、力不足を悔やんでいる。それはきっと責任感であり、一種の使命だと思っているからなのだろう。ミネルバにとって、飛竜関係はそれほどまでに重い事。逆にこっちが申し訳ないくらい、全てを背負わせてしまっている。


「そして……本当なら君の謎には全て答えたい所だが……それは無理だ」


 眉間にしわを寄せ、こちらが申し訳なそうなほどの心苦しそうな表情を浮かべて言葉を絞り出してくれた。


 本当に誠実で良い人柄だ。俺なんかのためにこんなに苦しそうな表情を浮かべてくれている。実力だけではなくこういう面があるからこそ、英雄と呼ばれて慕われているのだろう。


 でもその誠実さがわかってしまうからこそ、この答えが重く、辛い。


「まず飛竜を操る人間だが、それは我々ミネルバではない。我々はあくまでも共生を目的としていて、強制的に従わせたりするのは禁忌としている。魔法学でも習う【魔物使い《ビースト・テイマー》】という項目があるが、飛竜を操ったという例は聞いた事はない。飛竜を操るのは不可能だと言わざるを得ない。ローブの人間についても残念ながら情報はなく、あの災害について人為的な介入が行われたという痕跡も証拠は発見されておらず、自然災害だというのがスカイ国全体での見解だ。巷で噂の『ドラグーン・バレー』と言われているが、それもミネルバではない。実在するかどうかも、我々にはわからない。これがミネルバ代表としての答えだ。君は本当のことを言ってくれていると思うが、何も見つかっていない。すまない」


「……そう、ですか。フリューゲルさんの誠実さは十分に伝わったので……十分です」


 仕方がない。


 真実に近付けるとは思っていなかったし仕方がないとは思うけど、こうも簡単に空振りだとドッと落ち込むな。そんなに甘いものではないと何度も言い聞かせてきたけども、成果がないのは精神的にきつい。


 するとライナーが軽く肩を叩いてくれた。落ち込んでいるのが自分で思っている以上に全身から現れてしまっていたようだ。


「スターリースカイ君、2人だけで話そう。みんなはすまないが、ロビーで待っていてくれ」


 何を話すのだろうか。想像もつかない。


 全員が部屋から出て行ったのを確認すると、フリューゲルさんがさっきまで見ていたファイルを差し出してきた。


「これは、トロス村を襲った飛竜災害に関する報告書と資料だ。疑うわけではなかったが、念のために確認をとらせてもらったよ。君の事が写真付きで載っていた」


 見せてくれたページには、救出された直後の酷くやつれた8歳の俺の写真とその状況が載っていた。あの時の俺ってこんな感じの顔だったんだ。鏡を見る時は当分先だったからわからなかったけど、屍みたいな表情だな。


 そりゃまだこの時は『希望』に会う前だからね。


「この表情から君は自分であちらの世界に行ってしまうのではないかと、誰しもが心配していた。前を向いてここまで来るのに、俺達では知ることのできないような苦悩や葛藤があったろう。まずは……よく生きてくれた。生き続けてここまで来てくれた。それだけでも君は立派だ」


 『立派』、か…。


 その言葉を聞いた瞬間、心の中から溜まっていた思いがあふれ出た。嬉しいや誇らしいと感情なのか、この思いをなんて言い表せばいいのかはわからないけど、少しだけ『報われた』。そう思えた。


「ありがとうございます。俺一人じゃ無理でした。友人と大切な人がいたから生きれました」


「ベルクマン君と、ヴァルフリートさんの所のミラ・フライハイトさんの事だね。試験会場で見させてもらったし、あの後に簡単な素行調査で調べさせてもらった。嗅ぎまわれるのは好きではないと思うが、決まりだから勘弁してほしい。それにしても、良い人達に恵まれたね」


「えぇ。復讐に生きる僕には、過ぎた人たちです」


 復讐という黒い感情が生きる気力になっている、到底まっとうな生き方ではない俺を、蔑むことも咎める事もせず、そのまま受け入れて一緒にいてくれている。俺なんかと比べる事すら烏滸がましいほどに、人間性ができた人たちだ。


「そんな自分を卑下するものじゃないさ。君の生きる理由になっているんだから、決して悪い事ではないと僕は思うがね。それに僕から見れば、君は復讐だけで生きているとは思ってないよ。周りには素晴らしい人が囲っていて、その中で君は良い表情で目を輝かせていた。それが何よりの証拠さ」


「そうかも、しれませんね。確かに心境に変化はありますが……僕にはそれがよくわからない」


「今はそれでいいんだ。そのうちわかるさ」


 この人もまた、そんな俺を受け入れてくれた。俺は周りの人の恵まれている。心底そう思う。


 そんな事を思っているとフリューゲルさんは指を鳴らした。俺とフリューゲルさんを囲むように周囲に魔法陣が発生。これは確か─。


「結界魔法だ。飛竜調査隊の隊長の部屋ともなれば盗聴や盗撮については警戒はしているが、念には念を入れてね。この魔法陣の中での話は誰にも聞こえないし、見えない」


「何のためにですか?」


「詫びと言っては何だが、飛竜調査隊としてバハムートについて公表できていない情報の1つを君に教えるためだ。少しだけ『真実』に近づく話にもなるから心して聞いてほしい」


 『真実に近づく』。言葉を理解したと同時に心臓がドクッと跳ね上がる。あの日の出来事が脳裏に流れ、気が付けば手を固く握りしめていた。


 フリューゲルさんと会ってまだ数分しか経っていないけど、この人がここまで前置きした上で嘘の情報をくれるとは思っていないという信頼感がある。王都に来て良かった。


 自然と背筋が伸びる。全身が強張ってしまっている。


「そんなに畏まらないで聞いてほしい、と言っても無理だとは思う。けど今から話すことは、まだ確証がない憶測の域を出ない話だから誰にも言わないでくれ。友人にも大切な人にも」


「勿論です。僕の不用意な発言で、みんなをごたごたに巻き込みたくはありませんからね」


「フフフ、その発言もまた、君の心境の変化から来るものだと思っているよ。頑張って生きてその名の通り、大切な人の星空になれるように前に進んでくれ」


「はい……!!」


 眩しいほどの笑顔と輝く言葉に、胸の中がじんわりと熱くなった。初めて会ったばかりの俺にこんなにも心配をかけてくれる。人生いろいろあるけど、本当に出会う人には恵まれている。


 たしかに感じる心境の変化。その変化に戸惑いつつもその言葉の通り、俺は前を向いて歩いていかなくてはいけない。真実にたどり着くために。


「では話すぞ。心して聞いてくれ」


 真剣の眼差しへと変化し、場の空気が少し震えた。

 まだまだ謎の多いバハムートについて、いったいどんな事を聞かされるのか。




「バハムートは──【飛竜種ではない】。そんな疑いが強まっている。というより、調査隊の中ではアレは飛竜ではないとほぼ結論付けている」


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