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最底辺のクズですが、二度寝がしたいので「神の再来」を演じることにしました ~不純な動機で祈ったら全人類に号泣され、世界教皇への退路が物理的に断たれた件~  作者: 朝比奈ミナ
第1章 聖女爆誕編

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第05話:汚した地図と、血を流さない国境線

「――聖女リリアーヌよ。我が国の積年の悩みである、隣国との領土問題。この膠着状態を打破する『聖断』を仰ぎたい」


 玉座の間。

 この国の王であるおじい……もとい、国王陛下が、深刻な顔で私を見下ろしていた。

 私の前には、広大な大陸の地図が広げられている。


(……いや、知らんがな)


 私は、立ったまま寝るための「アイドリング状態」に入っていた。

 最近、カイルさんが「聖女様は常に神の世界を注視しておられる(※白目を剥いているだけ)」と吹聴しているおかげで、公の場で意識を飛ばしていてもバレないというライフハックを習得したのだ。


「リリアーヌ様、お疲れのところ申し訳ありません」


 隣に控えるセレナ――今や私の「筆頭弟子(自称)」を名乗る彼女が、キラキラした目で私にコーヒーを差し出してきた。


「聖女様の脳を活性化させるため、私が厳選した魔力回復のハーブ入りコーヒーですわ! さあ、一服して、あのおろかな隣国の王を黙らせる神託を!」


(あ、コーヒーだ。助かる。これ飲んでシャキッと……)


 受け取ろうとした、その時だった。

 三日間、例の「永劫の鎮魂床(拷問ベッド)」で寝たせいで、指先の感覚がまだ死んでいたらしい。


「あ」


 手が滑った。

 カップが宙を舞い、中身の真っ黒な液体が、広げられた地図の「最も争いが激しい係争地」のど真ん中に、バシャァァァ! とぶちまけられた。


(…………終わった。国家機密の地図を汚した。今度こそ、今度こそ不敬罪でクビ……いや、打ち首だわ……)


 真っ黒なコーヒーのシミが、隣国との国境線を無慈悲に塗りつぶしていく。

 私はあまりの絶望に、カップを持ったまま硬直した。

 ……が、周囲の反応は、私の期待(処刑)とは真逆の方向に突き抜けた。


「……っ!! な、なんという……!!」


 カイルさんが、地図を凝視して震えだした。


「皆様、見なさい! 聖女様は、コーヒーをこぼしたのではない! 『血を流さずして、国境線を無効化ブラックアウト』されたのだ!!」


(はぁぁ!?)


「ご覧ください! このシミの形……これは、この地に眠る古代の巨大な湖を指し示している……! 聖女様は、この不毛な土地の奪い合いに終止符を打つべく、『土地ではなく、地下水脈を共有せよ』とおっしゃっているのです!」


 カイルさんの「神解釈」のエンジンが、レッドゾーンまで回転を上げる。

 すると、今まで黙っていた王室賢者のメイメイ(見た目幼女、中身ババア)が、眼鏡をクイッと上げた。


「……ほう。それだけじゃないわね。このシミが隣国の首都に向けて『跳ねて』いる。これは、『あちらの王を招いて茶会を開け』という暗喩。つまり、武力ではなく経済同盟による懐柔を提案しているのよ。……フン、相変わらず底知れない女ね」


「まあ! なんて平和的、かつ狡猾な(失礼、慈愛に満ちた)戦略でしょう!」


 セレナが手を叩いて喜ぶ。

 隣で国王も、「おおお……! 争う土地をコーヒーで塗りつぶす(=黒歴史にする)というのか。なんとウィットに富んだ解決策だ!」と涙ぐんでいる。


(違う。ただ手が滑っただけ。掃除して、マジで)


 私は必死に、シミを拭き取ろうとして、手近にあった白い布――実は隣国の親善大使から贈られた高級な儀礼用の旗――でゴシゴシと地図を擦った。

 すると、コーヒーと布の摩擦で、地図の上に奇妙な「白い空白」が生まれた。


「…………あっ。……あ、あ、あ……!!」


 カイル団長の叫び声が、大ホールに轟く。


「……見たか! 『白い空白』! これこそが聖女様の真の狙い! 係争地をどっちの国のものでもない『中立の自由貿易特区』にせよという神託だ! コーヒーの黒と、布の白……つまり『白黒つけないことの美徳』を我々に教えてくださったのだ!!」


「「「「おおおおおーーーーッ!!」」」」


 拍手喝采。

 もはや誰も私の声など聞いていない。


 翌週、この「コーヒーのシミ事件」は『漆黒の和平協定』として歴史に名を残し、隣国の王はリリアーヌの「深い知略」に恐れをなして、即座に和平案を飲んだという。


 リリアーヌは、自分の部屋で「……シミ、取れなかったな」とぼんやり考えながら、新しい金貨の山を眺めていた。

 金は増えるが、ニートへの道は、またしてもコーヒー一杯分遠ざかったのである。

第5話、お読みいただきありがとうございました!


「手が滑ってコーヒーをこぼす」という大失態が、

軍師、賢者、国王の三者三様の「神解釈」によって、

歴史的な和平案に化けてしまいました。


・リリアーヌ:やべ、汚した

・カイル:中立特区の提案だ!

・メイメイ:経済同盟の暗喩ね

・国王:なんてウィットに富んでいるんだ!


この「全肯定ループ」こそが、リリアーヌを追い詰める最強の武器です。

本人は一刻も早く隠居したいのに、

気づけば「大陸の守護者」としての地位が固まっていく皮肉。


「リリアーヌの不運(幸運)が面白すぎる!」

「次はどんなやらかしが見られるの?」

と思われた方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いします!


次回、ついに平和になった係争地で「聖女様を称える記念碑」が

建てられることになります。

そのデザインを任されたリリアーヌが描いた「適当な落書き」が、

またしても世界を揺るがすことに……!?

お楽しみに!

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