表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最底辺のクズですが、二度寝がしたいので「神の再来」を演じることにしました ~不純な動機で祈ったら全人類に号泣され、世界教皇への退路が物理的に断たれた件~  作者: 朝比奈ミナ
第1章 聖女爆誕編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/13

第03話:満腹宣言は、殲滅の合図

「……うぷっ。……もう、無理。一歩も動けない……」


 私は、純白のシルクが敷かれた長テーブルの上で、力なくスプーンを落とした。

 目の前には、かつて見たこともないような山盛りの豪華客船……じゃなくて、豪華料理の残骸。

 最高級和牛のステーキ(異世界版)、金粉が振りかけられた謎の巨大魚のポワレ、バケツ一杯分のフォアグラ、そして直径五十センチはある特大デコレーションケーキ。


(死ぬ。これ、幸せすぎて死ぬんじゃなくて、物理的に胃袋が破裂して死ぬやつだわ……)


 最初は歓喜していた。

 金貨三枚どころか、一食で金貨十枚はくだらないであろうフルコース。

 だが、カイルさんをはじめとする神官たちが「これぞ聖なる供物!」「邪神の空腹を肩代わりされる聖女様を応援しろ!」と、わんこそばのような勢いで料理を運んでくるのだ。


 もはや拷問である。

 私は脂汗を流しながら、テーブルに突っ伏した。


「……はぁ、はぁ。もう……もういい……。これ以上は、一ミリも、受け付けない……。残ったのは、全部……片付けて……(処分して……)」


 私の精一杯の、敗北宣言だった。

 「もう食べられません、残りは捨ててください、寝かせてください」という意味だ。


 だが、その言葉が落ちた瞬間。

 食堂の空気が、凍りついた。


「…………今、なんと?」


 カイルさんが、震える声で聞き返してくる。


「ですから……もう、終わり。これ以上、食べる必要なんて……ないんです……。残ったカスは、一匹残らず……消し去って……(片付けて、早く私を一人にして……)」


 私は意識が朦朧とする中で、そう付け加えた。

 その時だった。


 食堂の重厚な扉が、爆音と共に蹴破られた。


「――御意ぎょいッ!! リリアーヌ様、その御言葉、確かにたまわりましたッ!!」


 現れたのは、銀髪をポニーテールに結い上げた、氷の彫像のように美しい少女騎士だった。

 彼女はカイルさんすら突き飛ばす勢いで私の元へ駆け寄り、床に激しく膝を突く。


「……え、誰?」


「近衛騎士団、一番隊隊長ファラ! たった今、修行(滝行)より戻り、聖女様の福音を拝聴いたしました!」


 ファラと呼ばれた少女は、狂気すら宿った澄んだ瞳で私を見上げた。

 その体からは、物理的に壁がピキピキと鳴るほどの凄まじい殺気……じゃなくて、魔力が溢れ出している。


「『もうこれ以上、邪神に供物を捧げる(=魔王軍の横暴を許す)必要はない』……。『残ったカス(=魔王軍の残党)は一匹残らず消し去れ』……! なんと、なんと苛烈で、慈悲深い殲滅宣告おことばでしょうか!」


「はぁ? せんめつ……?」


「騎士団長カイルよ! 何をボサッとしている! 聖女様は、ご自身がすべての呪い(料理)を胃に収めることで、邪神との契約を無理やり上書きされたのだ! 今の邪神は満腹で動けぬ状態……つまり、魔王軍を根絶やしにする絶好の好機! リリアーヌ様は、自ら泥を被ることで、我々に『剣を抜け』と命じておられるのだ!!」


「……っ!! そうか、そういうことだったのかッ!!」


 カイルさんが、ガバッと顔を上げた。

 待って。全然そういうことじゃない。私はただ、脂っこいもの食べすぎて気持ち悪いだけなの。


「『一ミリも受け付けない』……それは、悪に対する一切の妥協を排するという聖女様の鋼の意志! ファラよ、すぐに出撃せよ! 聖女様が食事じょうかを終えられた今、我らに敗北の文字はないッ!!」


「ははっ! 聖女リリアーヌ様の名において、大陸北部の魔王領を地図から消し去って参ります!!」


「ちょっと待って!! 話を聞いて!!」


 叫ぼうとしたが、不運にも特大デコレーションケーキの生クリームが喉に詰まって、盛大にむせた。


「ゴフッ、ゲホッ! オエェ……ッ!!」


 胃の内容物が逆流しそうになる苦しみ。

 だが、それを見たファラは、感極まったように叫んだ。


「……おお! あえて醜態を晒すことで、『吐き気がするほどに世界は汚れている』と表現されるとは! その怒り、このファラ、我が魂に刻みました! 一匹も、肉片一つ残さず、浄化して参りますわーーッ!!」


 シュンッ、という風切り音を残し、ファラが窓から飛び出していった。

 ここは三階だぞ。


 遠くで、「聖女様のために死ねーーッ!!」という彼女の叫び声と、爆発音が聞こえた。


(……おかしい)


 私は、テーブルに突っ伏したまま、涙を流した。

 お腹がいっぱいで苦しいだけなのに、なぜか隣国の魔王軍が滅亡の危機に瀕している。


「リリアーヌ様、どうかご安心を。貴女の『吐き気』が収まる頃には、世界から悪は消え去っていることでしょう」


 カイルさんが、私の背中を優しくさすってくれる。

 その手が、死ぬほど重い。


(……もう、誰でもいいから、私を殺して……。いや、殺さないで……。ただ、静かに寝かせて……)


 リリアーヌの胃もたれが完治する頃、王国には「魔王軍主力、謎の全滅」という報せが届くことになるのだが――。

 それは、彼女にとってさらなる「多忙」という名の地獄の始まりに過ぎなかった。

第3話、いかがでしたでしょうか?


新キャラ・ファラの登場により、勘違いのベクトルが

「内政・宗教」から「軍事・暴力」へと拡張されました!

リリアーヌが食べ過ぎて吐きそうになっているだけなのに、

それが「世界への怒り」に変換される絶望感。


・リリアーヌ:ゲロを吐きそう

・ファラ:血の雨を降らせる


この見事なシンクロニシティこそが、本作の醍醐味です。


「ファラの暴走をもっと見たい!」

「次はどんなゲスな一言が奇跡を起こすのか気になる!」

と思われた方は、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価】を!


次回、ついにあの「エリート聖女」が、

リリアーヌの化けの皮を剥ぎにやってきます。

……が、もちろん返り討ち(勘違い)に合う予感しかありません。

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ