交代、してはいない。4
別に吐き出せと要求したわけではないのだが。
八足馬は目の前に吐き出された某哺乳類の死骸を一瞥し、直ぐにそれを捕食したニシキヘビの一種へ視線を戻した。
正常な捕食行動。有り勝ちな食物連鎖。それを咎める意思がイニレファスキにある筈もない。
蛇は食後にストレスを与えると飲み込んだものを吐き出すことがあるという。
大きな獲物の分の重みを減らして身軽くなり、逃げ易くする為だとか。
吐き出されたものは既に一部が消化され、異臭を放ち始めていることもあり、同一個体が再び食べることはないという情報もあったが、それを「無駄になった」と嘆く理由が「あとは蠅の餌になるだけだ」と言うのには、その記事を読んだ当時、カナンはそうした価値観もあるとスルーすることが出来ず溜息をついたものだ。
――――という回顧は、後日、イニレファスキからこの日の出来事を雑談で聞いた時のカナンの反応で、現時点ではまだ何も知らない。
[ホーム]に巨大蛇が生息していることも(そこまで事細かに生態系――[ホーム]の全容を把握していない(但し魔獣以外)。必要に応じて都度都度? 基本は放任。「そんなんだから○×いたの!?なことになんのにな~」と愉快犯に腐されたこともあるが、あれはあれでカナンの有り様を否定しているわけではないのでスルーした)。
コミック表現的な汗をだらだら流しているように見えなくもない表情のニシキヘビ擬きに、蛇の詳しい生態を知らないイニレファスキが勿体ないから食べれば?と首を軽く振って促すと、何故だかはいはいはいとでも頷いているかのように頭を高速上下させて再び丸飲みを始めた。
再食はしないのではないのか?
とイニレファスキが知る筈もなく、元々ニシキヘビ擬きに用があったわけでもない為(ただの散歩途中)、邪魔したなとばかりに身を翻して草原を駆け去っていった。
……………………なんだったんだ。
とニシキヘビ擬きが思ったかどうかは知る由もなし。
もっとも、直後のご当人は獲物を飲み込むことに忙しく、去った脅威を気に掛けるどころではなかったが。
このニシキヘビ擬きが実は既に魔獣化していたことをイニレファスキが知ったのは、カナンに雑談として聞かせている、その最中にだった。
関心が薄過ぎたことに加え接触が僅かな時間であったことで、一々正体を察するまでに意識が向かなかったらしい。
カナンとイニレファスキの会話に割って入ってネタばらしをしたのは、馬と蛇の遣り取りを漫然と眺めていた遍在の精霊だ。
良くも悪くも彼らの目は何処にでもある。
彼らが言うには、ニシキヘビ擬きが獲物を吐き出したのは、単純に上位存在を目前にしてそのプレッシャーに負けただけらしい。
イニレファスキはそれを聞いても、そういうこともあるか、と特に気にする様子もない。
別段、イニレファスキに限らない。霊獣達は野生生物の為に己の "気配" を穏便に偽装するような過剰な気遣いはしない。
ニシキヘビ擬きより遥かに小さい存在でも平然と彼らに相対する者はいる。
個体差。気質差。性格差。まあ、色々だ。




