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俺のステータスがとどまることを知らない。

作者: 軌黒鍵々

 魔物やダンジョンが突如として現れてから約1000年。

 人類はスキルや魔力など、魔物に抗う力を身につけて生き延びてきた。


 そして人類は、戦いに優れた者たちを集めて《ギルド》と呼ばれる組織を作り上げた。

 ダンジョンの探索、魔物の討伐、時には国同士の戦争にまで介入する巨大組織。

 今やギルドは、王や貴族ですら無視できぬ存在となっていた。


 ――だが、ギルドに入る冒険者は誰しもが強者というわけではない。


 俺、レン・クラウスもそのうちの一人だった。


 どうやったら冒険者として活躍することができるのか? 結局は才能だ。強いスキルを持っていたら活躍できるし、弱いスキルを持っていたら全くと言っていいほど活躍することはできない。





「よくここまで一緒についてきてくれた。死人を出さずにここまでこれたのはみんなのおかげだ」


 C級ダンジョン「鉄蛇の巣窟」の第9層。攻略難度はさほど高くないはずだが、俺にとってはここに至るまでが限界に近かった。さすがにそろそろ、引き上げを...。


「よし、じゃあこのまま最終層へ行くぞ。作戦は昨日話したとおりだ」


ん? 作戦なんて俺聞いてないんだけど。

――はぁ、最終層まで持つかな、俺の体力……。


「レン、お前が前に出ろ。索敵はお前の役目だ」


いやいや、俺の役目って荷物持ちじゃなかったのか?

短剣しか持ってない俺が、最前線ってどういうことだ。


「え、えっと、了解です……」


俺の加入しているギルドは【夕凪の翼】――C級冒険者を中心に、結成されている小規模ギルドだ。ダンジョン攻略数やメンバーのランクなどからなるギルドランキングでは18位中10位とまさに中堅。

ギルドの方針は「生き残ること第一、無理はするな」。

……なのに、なぜか俺は最前線に立たされる。理不尽だ。


「そんなに心配するな。もしなにかあったら俺がすぐ助ける」


「あ、ありがとうございます」


 俺を唯一慰めている男がこのギルド唯一のBランク冒険者でリーダーのグレンだ。俺は鑑定スキルを持ってないからどれほどの強さなのかはわからないが実力は確かだ。


 俺がもたもたしているうちに他のメンバーたちから冷たい目線が飛んでくる。

 大丈夫。何かあったらグレンさんが助けてくれるはずだ。俺は一人で第10層へ向かった。


 第10層の階段を降りると、 そこには既に10体を超えるスライムが。


「うわっ、こ、これは……」


 小さな唸り声を上げながら、スライムたちが俺を取り囲む。


 短剣を握りしめ、覚悟を決める。

 俺にできることはただ一つ――斬る、蹴る、そして可能な限り生き延びること。


「ええいっ!」


 ザシュッ、ザシュッ!

 短剣の先がスライムに突き刺さる。


「よし、まずは一体目...」


 連携を取ってくる前に、俺は素早く体を左右に揺らしながら次々とスライムに切りかかる。斬り続けること30分。


「はぁ、はぁ。こんな俺でも...なんとか倒したぞ」


 すでに体力の限界を超えていた。


 腕は鉛のように重く、呼吸は荒く、足元もふらつく。

 ――あれ、グレンたちは……?


 ふと周囲を見回すが、仲間の姿は見当たらない。

 階段を降りたときから、誰もついてきていないようだ。


 「グレン……?」


 俺の声は、ダンジョンの湿った空気に吸い込まれ、遠くまで響いた。

 ――まさか、迷子に……?いや、そんなはずは……。


 その瞬間、薄暗い空間に機械音のような声が鳴り響いた。


【ダンジョン第10層攻略により、第11層が解放されました】


 ――えっ? な、何だこれ……?


暗闇の中、ゆっくりと影が動いた。次の瞬間、巨大な角を持つ獣が俺の前に立ち塞がる。


 ミノタウロス――C級どころか、軽くB級以上――いや、グレンでも一人で倒すのは難しいレベルだ。


「うわああっ!」


 後退しようにも、背後は壁。逃げ場はない。


 ――くそ……なんで、俺一人……?


 そのとき、状況が急に理解できた。


 そうか、グレンたちは俺をはめたのだ。

 この第11層があることを知っていて、俺にだけ作戦を教えなかったのだ。

 ギルドでダンジョンを攻略すれば経験値は高い。参加していないメンバーでも少しは経験値をもらえる。

 ――つまり、俺を囮にして、ほかのメンバーが安全に経験値を稼ぐためだ……。


 怒りと恐怖が一気に込み上げる。だが、逃げるわけにはいかない。

 目の前のミノタウロスが唸り声を上げ、角を振りかぶる。


「くそ……仕方ない、俺がやるしかない!」


 限界を超えた体に鞭を打ち、短剣を握り直す。が、こんな俺がかなうわけもない。


 角が振り下ろされ衝撃で地面が割れる音が響き、風圧で体が吹き飛ばされる。


 「ぐっ……あ、ああっ!」


 背中を強烈な痛みが走る。短剣を握る手も震え、体は地面に倒れ込みそうになる。

 ――これで終わりだ。俺の命はここまでだ――直感で、死を悟る。


 だが、最後の力を振り絞り、俺は短剣を握った手を振り上げる。

 せめて一撃――いや、一瞬でも抵抗してやる


 ザシュッ!


 俺の力のほとんどすべてを込めた一振りが、ミノタウロスの脚に深く突き刺さる。


 ――その瞬間、頭上から機械音のような声が響いた。


《経験値獲得 レベルが1アップしました》

《レベルが10になったことでスキル『スキルツリー』を獲得しました。行動不能により、自動で経験値が割り振られます。》


 スキルツリー? 経験値? 一体何のことだ? 


 意識が途切れる寸前、頭の中で妙な光景が浮かんだ。


 数字や枝のような図形が、視界の隅でチカチカと光っている。


――はっ……


 俺は急に呼吸が荒くなり、意識を取り戻した。

 体中が痛くて動きもままならない。だが、視界の先――暗闇の中で、巨大な角を振りかぶるミノタウロスが確かに迫ってきている。


 ――くそ……ここで、俺、死ぬのか……?


 短剣は握っているが、腕の力がまるで入らない。足も鉛のように重く、後退することすらやっとだ。


 ――こんなところで、死ぬわけには……


 ここで俺の記憶は途切れた。


 気づくと、天井があった。


「……っ、ここは……?」


 身体を起こそうとした瞬間、激痛が走った。


「っ、ぐ……!」


 全身が鉛のように重い。特に右腕と左足、それから背中の痛みがひどい。骨がいってたのは間違いなさそうだった。


「ようやく目を覚ましたか。……死んだかと思ったぞ」


 低い声がして、視線を向けると、目の前にはグレンがいた。


「グ、グレンさん。無事だったんですね」


「この前はすまなかったな。まだ倒しきれていない魔物が襲ってきてな。お前だけで対処させるつもりはなかったんだが……まさか、ここまで追い詰められるとは思わなかった」


 本当は俺を裏切ろうとしたくせに……はめやがって、許さねぇ。


「……グレンさん、どうして俺だけを?」


「……まぁ、そういう言い方もできるな。でも、命を助けたのは俺だ。感謝しろ」


 感謝? 冗談じゃない。

 お前が笑顔で俺を置き去りにしようとしたあの瞬間、俺の命は紙一重だったんだぞ!


「ところで聞いたか? 俺たちの実力が認められて、ギルドランクが上がるそうだ。……良かったな、レン」


「……良かったですね、グレンさん」


 俺は唇を噛みしめながら、力なくそう答える。


「一週間の休暇をやるからそれまでに体を休めておけよ」


 グレンはそう告げると、まるで俺の返事などどうでもいいといった風に、さっさと踵を返した。


 ――ランクアップ。

 冒険者にとっては名誉であり、自分たちの力を他ギルドに証明することができる。ま、グレンたちが証明する力なんて無いけどな。


 ……それよりも。


「スキルツリー、だっけ。あの時はそうやって聞こえたけど……」


 あのミノタウロスとの死闘の最中、確かに頭の中に響いた。

 《スキルツリーを獲得しました》――そう、間違いなく。


 俺は試しに、頭の中で意識を集中してみた。

 「スキルツリー」と念じる。


 瞬間、視界の奥に奇妙な光景が広がった。


 ――枝分かれする線、並んだアイコン、そして数字の羅列。

 木のように広がった光の幹から、スキル名らしきものが枝のように伸びている。


「……っ、な、なんだこれ……本当にスキルツリー?」


 光の枝の一つには《体力強化Ⅰ》、別の枝には《短剣術強化Ⅰ》と書かれている。

 さらに奥の枝には《鑑定眼》や《隠密行動》なんて、今まで自分には縁のなかったスキルまで。


「俺……今までスキルなんて全然使えなかったのに……」


 まさか、自動で経験値が割り振られた結果……これが開いたってことなのか?


 指を伸ばすように意識を向けると、枝が淡く光り、

《スキル取得条件:スキルポイント1》

 という表示が浮かび上がった。


「スキルポイント……? まるでゲームのステ振りみたいだな」


 経験値が、そのままスキルポイントに変換される……ということだろうか。

 だとすれば、俺はミノタウロスとの戦闘でレベルが上がって、ポイントを得たってことになる。


「……とりあえず、今取得したスキルを見てみるか」


 意識を集中させると、光の枝のひとつ――《体力強化Ⅰ》がぼんやりと輝いている。

 どうやら、これがすでに自動で振られたスキルらしい。


《体力強化Ⅰ:基礎体力を常時+10》


「……って、たったこれだけか?」


 俺は思わず天井を仰いだ。

 ミノタウロス相手に死にかけて、奇跡的に生き延びて……その報酬がこれだけ?

 まるで運営にナメられてるゲーム初心者の気分だ。


 いや、でも考えるんだ。本来なら、レベルアップ時に「どこにポイントを振るか」を自分で選べる仕組み。

 だが俺は気絶していたせいで、勝手に《体力強化Ⅰ》に振られてしまった――。


「……ってことは、次にレベルが上がったら……自分で解放する能力を選べるのか?」


 俺は光の幹をたどるように意識を伸ばしてみる。

 すると《体力強化Ⅰ》から三つの枝が派生しているのが見えた。


 一つは《攻撃力強化Ⅰ》――条件はスキルポイント1。

 一つは《防御力強化Ⅰ》――これもスキルポイント1。

 そしてもう一つ……《鑑定眼》。必要スキルポイント3。


「……やっぱり」


 攻撃力と防御力は、冒険者なら誰もが欲しがる基礎スキルだ。

 だが《鑑定眼》だけは明らかに異質で、必要コストも跳ね上がっている。


「つまり、それだけ貴重スキルってことか」


 考えてみれば当然だ。

 未知の魔物の弱点を即座に見抜けたり、ダンジョンの罠やアイテムの真価を見破れたり……

 《鑑定》があれば、戦闘力以上のメリットがある。


「……でもポイント3か。簡単には取らせてもらえないってわけだな」


 俺は光の枝を眺めながら、自然と口元が歪むのを感じた。

 攻撃力や防御力を取れば、きっと冒険者としては順当な強化になる。

 けど、俺に本当に必要なのは……。


「冒険者として駆け上がっていくにはやっぱり鑑定眼だよな」


 俺は心の中でそう呟き、枝の奥に揺らめく《鑑定眼》の文字を睨みつけた。


 俺は、急いでダンジョンへ向かう準備をした。


 魔狼ダンジョン。全15階層からなるD級ダンジョンだ。14階層までは余裕で突破できるが、問題は最後の15階層だ。


 ブラックウルフ。速さと鋭い爪が特徴的な魔物。

 体躯は通常の魔狼の二回りは大きく、全身を覆う黒い毛皮は剣をも弾く硬度を誇る。

 そして何より厄介なのは――群れを統率する知能を持っていることだった。


《感覚共有》チームを統制するギルドリーダーなら誰もが欲しがるスキルだ。


 本当はもっと簡単なダンジョンに挑みたかったが、スキルポイントを得られなかったら時間と体力の浪費に終わる。逆にあまりにも攻略が難しいダンジョンだと俺が攻略することができなくなる。つまり強すぎず弱すぎないこのダンジョンが俺にピッタリというわけだ。


「できるだけ早く討伐したいところだが...」


 すでに14階層までは突破している。残るは15階層。ここまでで1スキルポイントは獲得済みだ。できれば、ここでもう1ポイント稼ぎたい。


「……近いな」


 魔物の気配がする。近づいていくと3匹のブラック・ウルフが姿を現した。俺はロングソードを構え、敵の攻撃に備えた。


 ロングソードの強みは長さを活かした間合いの制圧と重みを乗せた破壊力。


 逆に弱みは重量による取り回しの鈍さと、狭い場所での扱いづらさ。


 つまりは素早く小さい敵とは相性が最悪ということになる。――だが、それは…ロングソードに何も施さない場合だ。


 もし、この剣に魔力を込めたら?


 重さはそのままに、刃の振り抜きは軽くなる。圧縮された魔力が刀身を纏い、鋼鉄をも断ち切る刃に変わるのだ。


 ロングソードの欠点を補い、利点だけを強化した一撃――それこそが俺の戦い方だ。


 ブラック・ウルフたちは牙を剥き、低く唸り声を上げながら同時に飛びかかってきた。


 一匹は正面から、もう一匹は側面から、そして最後の一匹は背後を狙って回り込む。


「群れで狩るのは狼の本能か……だが――」


 俺は魔力を纏わせたロングソードを振り抜いた。刃が迫る一匹を斬り裂く。硬度を誇る黒毛も、魔力を込めた刃の前では紙同然だった。


 問題はここからだ。


 ブラック・ウルフは《感覚共有》によって仲間の経験をそのまま共有する。つまり、いま俺が放った斬撃は全員が体感したということになる。二度目は通用しない。


 残る二匹は間合いを測り、迂闊に飛びかかってこようとはしなかった。――あきらかに、最初の一撃を学習した動きだ。


 二匹のブラック・ウルフが同時に弾けた。


 俺はロングソードを横薙ぎに振り抜いた。魔力を纏った刃が一匹の爪を弾き飛ばす。


 ――しかし。


 もう一匹の爪が、俺の防御の死角を抉るように迫ってきていた。

 気付いた瞬間には遅く、鋭い痛みが肩口を走る。


「ぐっ……!」


 さすがにノーダメで攻略は難しいか...。体力強化Ⅰのおかげでなんとか致命傷は避けれた。


――痛みをこらえ、俺は踏み込み直す。


 二匹のブラック・ウルフは、再び牙を剥き、爪を振り上げて襲いかかってきた。

 だが、俺はもう一度同じ方法では斬れないことを知っている。


 ロングソードに込めた魔力を最大限に圧縮する。刃先から閃光のような斬撃が放たれ、空気を裂く音が響いた。


 魔力の斬撃――物理では届かない距離の敵にも届く。正面の一匹の胸を打ち抜き、衝撃で吹き飛ばす。


 なんてかっこよく言っているがこれは剣術において基礎中の基礎。何もできない俺にとっては奥義みたいなものだけど。


《スキルポイント獲得 合計ポイントが2になりました》


お、やっと来たか。


――スキルポイントが2になったところで、俺は呼吸を整えながら意識を集中させる。

光の幹を辿り、《鑑定眼》の枝に意識を伸ばす。


《スキルポイントを2消費して、スキル『鑑定眼』を習得しました――》


 ん? なにか変わったか?? 別に何も変わってないような...。スキルってこういうものなのか...? 自分でも鑑定してみるか。


 心のなかでそっと呟く。


 《名 前》 レン

 職業・・・戦士

 レベル・・・12

 体 力・・・50+10(60)

 魔 力・・・20

 攻撃力・・・15

 耐久力・・・10

 素早さ・・・15

 知 力・・・20

 スキル・・スキルツリー


「これが俺のステータス...」


 なるほど。全くわからん。


 ステータスの基準を知らないからこれが高いのか低いのかわからない。どうせ、自分のことだし低いんだろうけど。


「とりあえず、無事に鑑定眼をゲットしたことだし、ブラックウルフの毛皮でも売りに行くか」


 俺はブラックウルフの毛皮を回収して地上に戻った。


―――――――――――――――――――――


 《名 前》 レン

 職業・・・戦士

 レベル・・・12

 体 力・・・50+10(60)

 魔 力・・・20

 攻撃力・・・15

 耐久力・・・10

 素早さ・・・15

 知 力・・・20

 スキル・・スキルツリー

 

デモ作品です。100ptを超えたら長編を書こうと思います。

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― 新着の感想 ―
 読みやすくテンポの良い文章で、サクサクと楽しめました。  特に「スキルがスキルツリーになっている」という発想が面白く、今後どう展開していくのか期待しています。  ただ、世界観については少し分かりに…
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