とんでもファーストキス
柳瀬三洋は、中学2年の美術部員。髪は後ろの下でお団子結び。制服が汚れないようにエプロンをしている。放課後美術室で部活中だが、絵はそっちのけで、窓を開けてグラウンドにいるサッカー部員を眺めたいた。
「あ~、田中先輩カッコいい」
スラリとした体形の田中先輩は、長めの髪を一結びしている。汗がきらりと光る。卒業間近で、たまたま参加したようだ。ラッキー♡。
ガラ!
突然、ドアが開いた。振り返ると、壁に張り付いている男子がいる。ドアの窓から、女子の先輩達が走っていくのが見えた。男子は同じクラスの優木君だ。
「優木君どうしたの?」(3年生が引退して、美術部は私しかいない)
「先輩に追われてて、逃げてるところ。卒業記念に、キスさせろとか、」
ゾッ、「とんでも先輩だね。汗」(セクハラでは。優木君は学年一の美形だもんね)
田中先輩は、軽めのイケメンで、優木君は、正統派で硬派なイケメンといった感じ。
「お前は何してんの?」
「サッカー部の田中先輩を鑑賞してたのよ」
二人で窓の外を眺める。
「お前も、田中先輩のこと好きなの?。あの人、各学年に彼女いるとか聞いた」
「性格はね。あの顔とスタイルが好みなのよ。美が芸術を掻き立てるのよ!」力説する。
(自分が、イケメンに縁がないのは分かってるし、見てるだけだから害は無し。同じ学年の女子マネも彼女だけど、体つき見てればまあ…)
先輩にタオルを差し出している彼女は、中学生なのにナイスバディだった。
「優木君も彼女作ればいいじゃん」
「今は彼女作る気全くない!」
優木は、我関せずで外を見る三洋を見て、その手があったかと考えた。
「お前、俺に全く興味ないから、俺の彼女のフリをしてくれ」
突然の申し出!「いやいや、あの先輩に睨まれて何のメリットがあるのよ」
「お前、イケメン好きなんだろ」
「全然好みじゃないし」
「だからだよ」
(おかしなことになってきた!汗)
「もう帰るから」
「俺も帰る」
廊下を歩く二人。
「ちょっと、ついてこないでよ」
「あ!いた。優木く~ん」
追いかけていた女子先輩が、前から手を振って現れた!。その友達も。こっそり逃げようとする三洋の後ろ襟を、優木は捕まえる。
「こら、待て」
「ぐえ」
三洋の首がしまる。優木は、三洋の肩に手を置き引き戻す。
「先輩すいません。僕彼女いるので」出来立てほやほやの「僕がベタ惚れなんですよ」
そう言うと、優木は三洋の頭にチュっとキスをした。周りは凍り付く。
こいつ!(私の平穏な日々を)
(私はこの日から、全校女子から殺意を感じるようになった。)
「どうしてくれるのよ!」
「僕が守るよ」
歯をキラリと光らせ、優木は嘘くさい笑顔を浮かべる。
◇
優木は、女子先輩に聞いてみた。
「田中先輩はどうですか?」
「あいつは、人としてダメよ!」
意外とまともな答えが返ってきた。
(自分は?)