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後編




「以前は助けていただきありがとうございました」


顔面が無事のまま対面した金髪男が、深く頭を下げる。

連れている娘は男の背後に隠れていた。


律儀な男だなぁ、と幽霊令嬢は思う。どうせ誰も見ていないのだから、なかった事にすればいいのに。


ここは森の端っこの比較的安全だと思われる場所。普段は来る事もないが金髪男に頼まれてここまで来た。


「貴方のおかげで娘も元気になりました。女神さまのお導きに感謝を捧げると共に、お礼をさせて下さい」


幽霊令嬢は金髪男からお金を頂いた。

出かける事があったら女神さまを奉る神殿でお布施しよう。


「私の名前はドゥリー。娘はティシカといいます。お名前を伺っても?」

「幽霊令嬢とお呼び下さい。名前呼びは不要です」

「では幽霊令嬢さんとお呼びしますね。幽霊令嬢さんからスキルの発動を感じますが、やはりその状態の理由と言うのは」


「私のスキルの力です」


「やはりそうですか。女神の愛に感謝を。ティシカも」

ドゥリー達は幽霊令嬢に向かって祈りを捧げた。


「魔獣に齧られたお腹は大丈夫ですか?」

「ええ、もうすっかり。違和感もありません。回復魔法がお上手なんですね」


魔獣に齧られて運ばれて行ったのを助けたのだが調子は良さそうだ。


「パパを助けてくれてありがとう」


娘のティシカちゃんが恥じらいながらお礼を言う。五歳くらいかな?可愛いね。


「お礼にパパあげる」


娘よ。それはいかがなものか。


「お金、少なかったよね。顔はいいし、何でもしてくれるよ?ママが言ってた」

ママーーーーーー!!

「ママはパパの事、いらないって。誰かに高く売るって。パパ凄いお金になるよ」

「ティシカっ!」

「・・ドゥリーさん、大丈夫ですよ。ティシカちゃん」

「なぁに?」

「私は幽霊です。お金はあまり必要ないんですよ」

「え?じゃあパパの体?」

「いりません」

ママーーーー!!どういう教育したんですかぁぁぁぁ!!

「ママ、パパいらないって出ていっちゃったから、パパ貰っても大丈夫だよ」


パパ泣いてます。

滝のような涙です。

私はどうしたらいいのでしょか?

女神さま、助けて下さい。








ーーーー




ティシカちゃんともっと話したかった私は、生き物と物体を通さない結界を張った。


その中に三メートルほど伸びた茎の先に巨大な葉っぱをつけた植物を一本植えて、その下にテーブルと椅子を置き、カップを三つ出せばカフェの出来上がり。


娘を抱えた憂い顔のドゥリーさんは、珍しげに結界の中を見ながら席に座ってくれた。


生き物達は綺麗で弱った獲物が好物なので、これでは補食したいモノ達からすれば格好の餌だろうなぁと思う。


冒険者で成功しているような腕っぷしの強さを持っていたからいいものを、これで貧弱ならこの場にもいなかっただろうし、会う事もなかったはずだ。



そしてじっくりと事情を聞いてみた。



そして分かったのは、このパパさん何でもしてあげる尽くす系の男だったらしく、搾取系のママさんとの相性は最悪だったようだ。


初めは美人なママさんの要求に答える事が出来て、感謝をされてとても嬉しかったらしい。

毎日ニコニコ。デートに食事。そして子供も生まれて順風満帆。

冒険者としても成功していたのでお金にも困ってなかった。


だが、だんだんと要求は高くなっていった。


服に家に宝石、色々と購入したが満足せず、直ぐに次を要求。

購入できない事が続くと、何で買えないのかと責められ続けた。


愛する人を幸せに出来ない自分が悪い、と反省するドゥリーさんを見て育ったティシカちゃん。

そして娘が病気になるとママは他の男と一緒になって出て行った。


で、今ここにいると。


「私が欲しいならいつでも言って下さい。差し出せるものは、ほとんどありませんが頑張ります」

「目が病んでますよ。ドゥリーさん。いりませんから」

「そうですよね。私なんて価値がありませんよねっ・・」

「いや、価値がありすぎるから売られそうになってましたよね。あなた」

そして買いたい人は沢山いたと。


下を向いたままフルフルと肩を震わせるドゥリーさん。やっぱり危険だ。危険すぎる。


こんな状態のまま歩かせたら、森の魔獣には生きたまま齧られ、街の者達からは別の意味で食い散らかされる。


娘の病気を治そうとする気迫で身を守っていたのかもしれないが今は震える小鹿ちゃんだ。


乙女小説の王子様役とホラー小説の配役が完全消滅し、大人の人妻小説の到来です。ありがとうございます。


誰も望んでません。


「ならわたしをあげる。パパより高くなるってママが言ってた」

キラキラした瞳で言ってくるティシカちゃん。

ママが喜んだから高いのが嬉しいんだね。ああ、可愛いけど言ってる内容はえぐい。

生きてたら胃がパーンする所だった。

私は何も言わず、そっとティシカちゃんの頭を撫でた。


「ちなみに二人のスキルを聞いてもいいですか」

「わたしが綺麗な瞳で、パパが綺麗な髪だよ」

「そうなんですね。女神さまの愛に感謝を」

穏やかそうなスキルで安心した。女神さまの愛に優劣をつける事は出来ないが、それでも言葉は心を癒す。

あ~良かったぁ。


「わたし、光で浄化する事が出来るんだよ」


綺麗な瞳かぁ、どんな効果があるんだろ。

見るだけで笑顔にさせやすくなるとかかな。


「ここに来る時にね、えいっ、て出来たの。パパは光の剣でね、助けてくれたんだ。ねぇ?パパ」


綺麗な髪は光の剣がでるんだ。そうなんだ。

丁度、金髪だからそれの延長かな?

光の浄化と光の剣って聖女と勇者の専用魔法だったはずだけど気のせい?

え?ドゥリーさん、何、その潤んだ瞳は。色っぽいんですけど。


「お伽噺って・・知ってますか?」


それを聞いたときオワタと頭の中で思ってしまった。


異界から来る魔物を倒す事が出来る、女神の子達の物語を知らない者などいないからだ。


「今日、光の剣を出す事が出来ました。私の年齢は二十五歳で娘は五歳です。前任の聖女は若くしてお亡くなりになったのでしょうね」




ーーーー




女神の世界、ルビークリスタには昔から伝わる物語があった。


百年一度、異界から溢れ出る魔物達を、勇者、聖女、聖騎士、聖拳士、聖魔導士が力を合わせ打ち破ってきた、と。

その者達はスキルに名を刻む。

聖なる愛すべき女神の子であると。



もしかして女神さま、今回スキルに名前を付けるの失敗しちゃいましたか!?

それ致命的なんですけど!

生き物って名前がとっても重要で、それだけで大事にされたりする訳なんですけど、それがなかったら普通に育てられるだけで特別な事なんてほとんどありません。


まさか今回の聖なる者達は全員危険な目にあってるとかいいませんよね!?



・・あってました・・



エントリーNo.3 

スキル滑るの聖騎士フランシスさん。

豪商の家に生まれ、嫡男として大事に育てられていたが、母親が亡くなり、しばらくすると父親は後妻を迎え入れた。

それから弟や妹が生まれ、命の危険を感じるようになる。


後妻からは疎まれ様々な嫌がらせを受けた。だが何とか自前の出来の良さを武器に、周囲からの信頼と実績を勝ち取って、跡取りの地位を守ってきたが、横領の濡れ衣をきせられ、周囲の目は一変。犯罪者扱いを受け、誰からも信じてもらえなかった。


そして今回、家から引きずり出され、この森の付近を馬車で移動中、護衛していた冒険者に襟首捕まれて捨てられたそうだ。


命からがら逃げてきて魔獣から足を齧られ、光の盾出現。


フランシスさんの口癖は、どうせ俺なんて、です。



エントリーNo.4

スキル小花の聖拳士ガルシアさん。

村の農家の三女に生まれ、成長するごとに体格もよくなり、しっかり者の働ける女性に成長した。


すぐに婚約者もできて、街に一緒に働きに来たそうだが、その婚約者の方は中々仕事がうまくいかなかったそうだ。その分、自分が頑張らないと、とやってしまった結果、めっちゃ成功。


周りに褒められたらしい。

そしてその分、婚約者に恨まれた。


目立てば目立つほど婚約者の方は比較され、貶され、馬鹿にされ、自尊心を失い酒に溺れ、女に溺れた。


そして暗い顔をした婚約者に、そんなに自分一人でできるなら一人でやれ、と森に捨てられ、魔獣に腕を齧られた。光の拳出現。


ガルシアさんの口癖は、私は人を幸せにする事が出来ない、です。



エントリーNo.5

スキル脇道の聖魔導士ユベリムさん。

二十歳の頃、一目惚れした女性が忘れられず、二十二歳の頃に告白したが、考えさせて欲しい、と保留にされた。

商業ギルドで働きながら初恋の人の答えを待っていたが、その後その人は貴族のお方との結婚が決まった。


仕事の後、居酒屋で自棄酒を飲んでいたら、知らない男達に連れ去られ倉庫外でリンチを受ける。


暴力を振るわれ、その最中に聞いたのは、付きまといをされて困っていると貴族の男性が女性から相談を受けたという話だった。


付きまといなどしていない、と言っても暴行は続き、最後には森の中に捨てられてしまった。


自分は女性の、いいように使える男だったんだな。そして貴族は、相談女に騙された哀れな男だ。


魔獣から囲まれ齧られた時に光魔法が出現。


ユベリムさんの口癖は、これで満足か?です。



全員、回復魔法で助けました。



物凄い短時間でこれだけの人達が集まってしまったので、気持ち的にはドン引いてます。

女神さまの愛の深さというか、執念といいますか、絶対助けろという、さらなる圧力を感じます。


女神の子である皆様を蔑ろにするはずありません。


一部、やっちゃった人達がいましたが、それは知らなかったからでしょう。


通常、生き物が何をしていても女神さまは見守っていてくれます。


しかし今回は特別な子が緊急事態だったという訳です。


依怙贔屓というなかれ。そもそもこう言う事が起こる事も想定して、幽霊としての力を使えるようにしたんでしょう。


幽霊としての力って何ぞや?とは自分でも思いますが、女神さまからの愛の証に疑問を持ってはいけません。そういうものだと納得するのが義務なのです。


ええ、疑う事は許されません。

文句のある者は女神さまの愛を捨てればいいだけなので。簡単でしょ。



三人は戦う事はできないと言っています。

それはそうですよね、騎士でも拳士でも魔導士でもないのですから、魔獣だって怖かったに違いありません。


私は暖かい場所で再出発をしたらどうかと、故郷の国を勧めました。


転移魔法があるので直ぐにいけます。


三人は頷き合って、行くことにした、と言ってきました。


心の傷をゆっくりと癒してらして下さい。

そしてもし戦う事を決心なされたら、呼んでください。直ぐに駆けつけます。ええ一瞬で。

「ないです」

そうですか、残念です。





ーーーー




「ティシカちゃんとドゥリーさんも後で行かれますか?」


他の三人と違って森で捨てられた訳ではなかったので、二人は後回しにさせてもらっていた。


捨てられたのは森ではなくママですからね。


ママに捨てらるというのも大問題ですが、直ぐに命に関わる心配はなさそうなので、時間をかけても良いと判断しました。


三人を送り届けた後も、待っていた二人に聞いてみると。


「いいえ、借金があるのでいきません」

世知辛い世の中です。ドゥリーさんの真顔が怖い。

「借金はかえさないと駄目なんだよ?ママが言ってた」

何を売って返すつもりだったんですかママーーー!


もう転移してさっさとお金になるものを採って来よう。森の奥に価値のありそうな魔石や宝石の原石があったから、売って借金返済です。


他にもお金になるような物は沢山あるから、利益を出して美味しいものを食べて、気持ちも前向きになれば、体力だって付いて元気になる。


そうすれば儚げ美人のドゥリーさんもムキムキの男前になって、女神さまも安心できるようになるだろう。


異界の魔物の事は心配いりません。


女神さまは私に倒せと仰せのようなので、粛々とそれに従うまでです。


だからここに来なくてもいいんですよ?

万事おまかせ下さい。


「では、お金の返済は幽霊令嬢さんにします。今後ともよろしくお願いします」

「おねがいします。幽霊さん」


「いえ、話聞いてます?返済しましたけど、お金を返してもらう必要はないですからね」

女神さまから叱られます。

「なら体で返せと、そういう事ですね。恥ずかしいですけどどうぞ」

「服のボタンを外さない。顔を赤らめない。素早く上から縫い付けますよ」

「幽霊さん、こっち見て」

キラキラ瞳のティシカちゃん。スカートを少し持ち上げて、キャッと笑った。


いや、可愛い。可愛いけどなんだこのモヤモヤ感。


勇者と聖女と幽霊と、始まる前に終わった物語。


「私も異界の魔物と戦います。下僕(勇者)として」

「ママーーーーー!!」


教育をしなおしてくだっさい!!








おわり


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