008-身の丈
「ん...」
身体が重い。
重いだけじゃなくて、痛...
「はあっ!?」
飛び起きる。
目を開けると、知らない部屋だった。
「どこ...ここ...?」
『お目覚めになりましたか』
唐突に声が聞こえて、私は身を震わせた。
すぐにスピーカーからだと気付いて、過剰に反応した自分が恥ずかしくなった。
『驚かせてしまったようですね、申し訳ございません。私の名前は、戦略軍事産業統括管理AI『オーロラ』です』
「ここは、どこですか」
私はまず最初にそれを聞いた。
だが、オーロラは答えない。
私が疑問に思っていると、扉が開いて見覚えのある人が入ってきた。
「あっ!」
あの時会ったニンゲンの男の人だ。
けれど、どうしてここにいるんだろうか?
「目が覚めたか」
『シン様、ここがどこかと説明を求められましたが、どうされますか?』
「お前が言うまでも無いだろ、ここは俺の乗艦にして、第零警備艦隊の旗艦、アバター級の中だ」
「アバター...復元したんですね」
なんだかよくわからないけれど、この人はノーザン・ライツの熱心なファンらしい。
あの機体に、この船。
全部、ノーザン・ライツ関連のものだ。
「復元も何も、隠されてたのを整備してアップデートしただけなんだがな」
『10年前の装備を最新のものに換装するのは大変でした』
「10年前の骨董品で敵に立ち向かった勇敢な少女もいるんだぞ?」
そう言うと、シンとかいうニンゲンは私に目を向けてきた。
どう返していいかわからずに、私は固まる。
「アレは、大戦で活躍した機体、スワローエッジのプロモーション用機体として戦後に製造された『SW-02 メタモルフォーシス』だ。駆動系は10年前から変わっていないし、整備もろくにされていない、マニュアルは現行のものとは大きく違う。よく動かせたな?」
「その...死にそうになって、そしたら時間が遅くなって...」
どう説明したらいいかわからなくて、私は混乱する。
「やっぱりな」
『ええ、間違いありません』
え、今ので通じたの?
私は目をぱちくりとさせて、驚く。
だけど、その後に続いた言葉よりびっくりするものもなかった。
「君は、アールシア王家の傍系のアザミナで間違いないと分かった、ありがとう」
「ま、待って」
アールシアって言うと、ファーストコンタクト時にノーザン・ライツに嫁いだ未亡人二人の事だ。
ルルシア様と、ネムリー様。
あの二人と、私が同じ血筋? あり得ない。
「私はアザミ・レクシアです、アールシア王家に関係なんて無いはずです」
「巧妙に隠蔽されてただけだ、おかげで探すのに苦労した」
『暗殺を恐れ、当時のアールシア傍系は子孫の名を変えたようですね』
訳がわからない。
もし私がそれだったとして、私になんの価値があるの?
「君は、時間が遅く見えると言っただろう? その能力は、通常獣人族の遺伝子にはない力だ」
「そう...なんですか?」
『はい。それに加え、血統であっても直系に受け継がれる可能性は0.01%以下、隔世遺伝で発現するようです』
そんな力が、私に...
でも、だったら...
「だったら、どうするんですか? 私に戦えって、そう言うんですか?」
「いや、強制はしない。俺たちは君...傍系の忘れ形見を確認しに来ただけで、君が戦うかどうかは、君自身が決める事だ」
私は視線を下に逸らして、両手を握りしめた。
戦う?
そんな事、できる訳がない。
あんなに無様だったのに、英雄みたいに...
「...私は、ノーザン・ライツに憧れてたんです。でも、私は英雄みたいに戦えない、だから...やめます」
軽い気持ちで飛び出した訳じゃない。
でも、戦う者として私は...あまりにも無様だった。
勇猛果敢な戦士にはなれない。
「なんだ、俺みたいになりたいなら、とっくに合格だ。そもそも俺は、前に出て戦うタイプじゃないしな」
「あなたはノーザン・ライツではないでしょう」
私は彼を睨み付ける。
やっぱり、昨日の機体に乗ってたのはこのニンゲンだ。
ノーザン・ライツじゃない。
「...そうだ、確かに俺はノーザン・ライツではないな」
「だったら、とやかく言わないでください。ノーザン・ライツのファンなら、彼のことを尊重してください」
『...どうされますか?』
「俺はこれでいいけどな」
私は改めて部屋を見渡す。
お手洗いや洗面台があったり、衣装棚や鏡なども見受けられた。
ちょっとした一室だ。
「で、どうするんだ? 言っておくが、帰りたいなら帰ってもいいんだぞ」
「帰れるの!? ...んですか!?」
つい口調が崩れて、慌てて修正する。
それを見て、シンと呼ばれたニンゲンはおかしそうに笑う。
何がおかしいのか?
「地上にも基地があるからな、君が戦う気になったなら、そこに機体を用意してある。来なくても別に構わない」
「...どうしてそこまで...」
「本来、覚醒...君の力は王族にしかないものだ、それもごく低確率で。指揮官としては、喉から手が出るほど欲しい力だよ」
本当は、別の理由を求めてた。
君はヒーローになれる、とか。
君の事が気に入っ...何考えてるんだ、私。
「だったら...帰ります」
軽く踏み出した一歩は、コールタールのような泥沼へ沈んだ。
足を引っこ抜くなら、今しかないんだ。
私はそう決意して、キッパリと断った。
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