017-ひとりの戦い
パイロットスーツに着替えた私は、アバターの格納庫でシンと話をしていた。
「今回の作戦を説明する......サイズは合ってるか」
「合ってます」
いつ測ったのか知らないけれど、今回はしっかりパイロットスーツが用意されていた。
オーロラの話によると、『継続して180時間動作する生命維持装置と、発信機によって救助も見込めます! ただしシールドはないので、脱出装置についているスラスターパックを背負って避けてください!』との事だった。
ムチャ言うなぁ.....
「そいつは白兵戦も出来る。武術の心得は無いだろうが......物理的な衝撃には強い。戦いたければ、それを着たまま敵艦に飛び込むんだな」
「.....やりませんよね?」
「ああ、普通ならな」
何故か私は、「お前ならやりそう」と思われているらしい。
不名誉極まりないけど....仕方ないのかな?
「今回お前は、フルークリッター......20機を連れて、アステロイドベルトに潜む敵を攻略する」
フルークリッター、急いで端末で調べると、いくつか型式番号が並ぶ上に説明が出てくる。
『フルークリッターは、第二次キロマイア攻略戦における戦線の拡大により、ドローンによる独立行動のために開発された自律機体である』
…..これ、もしかして。
「....私、必要ないのでは?」
「訓練の側面があるのは確かだ、だが、フルークリッター全機が何らかの妨害でロストした場合、君がいるだけで敵は反撃に出れなくなる」
「.....そうなんですか?」
「敵がまだ残っているのに出撃すると、背面から奇襲されるぞ」
「....そう、ですよね」
シンは私の端末に、何か動画を送ってきた。
再生すると、岩塊の立体モデルと、中央に何か構造物のある動画が出た。
「それがアステロイドベルトの様子だ。中央の基地は囮だと思っていい、敵は岩塊に潜んでいる」
「.......!」
という事は、有利は最初からあちらにあるって事だ。
私は息を飲む。
訓練がわりとはいえ、油断できない戦いだ。
「敵に悟られないように、こちらは艦載機用のワープフィールドジェネレーターで君たちを送り込む。帰り道は送り狼に注意しろ」
「はい」
送り狼.....追撃の事だ。
向こうもエスクワイアがいるだろうし、それに気を付けろって事かも。
「作戦開始まであと15分、トイレは済ませたか?」
「勿論です!」
デリカシーのない奴! そう思いつつ、私はヘルメットを被る。
ノイズキャンセリング機能が、シンの軽口を打ち消した。
『......これでもフレンドリーに話しているつもりだが、君がそれを望むなら仕方ないか』
直後、シンはインカムを取り出して話しかけてきた。
それは、さっきの口調とは打って変わって冷たかった。
怒らせたかな、私は不安になった。
しかし、
『.....冗談だ』
そう言うと、シンは去っていく。
「オーロラ、俺はやっぱり.....」
『警戒されているだけでは?』
そんな会話が、ヘルメット越しにわずかに聞こえた。
どういう人物なのか、全く想像できない。
考える事を諦め、私は梯子を伝ってアストランティアに乗り込む。
スーツに直接ベルトを装着して固定し、キャノピーを下げた。
「......翼よ」
呟くと、メインシステムが起動する。
開いていた翼が畳まれるのが見える。
発進してから開くのだ。
「こちら、えーと......」
『君のコールサインはまだ設定されていない、決めてくれ』
「.......」
コールサインなんて考えたこともないし....
「そのままでいいです、アストランティアで」
「長いな......ウルフでいいか?」
「ウルフ...? 意味は分からないですけど、それでお願いします!」
ウルフ....何だかいい響きに思えた。
「コールサイン、ウルフ! 発進します!」
『滑走路R-11を割り当てます、衝撃に備えてください』
「えっ?」
直後。
足元ごと、アストランティアが高速で動き出した。
準備していなかったので、舌を噛んでしまった。
「台座ごと.....!?」
『この船は大きいんでな、台座ごと機体を移動させて、距離に縛られない艦載機の高速展開が出来るんだ』
迷路みたいな通路を、高速で色々な場所に上がったり下がったり、行ったり来たりしながら、アストランティアは一つの場所に辿り着く。
「ここは....?」
『アバター下部に繋がる滑走路だ、準備は出来てるな?』
「は、はい。コール、デルフィニウム!」
『機体チェック、オールグリーン、トランスファーフレームオンライン』
「スラスター出力上げます」
スロットルを中くらいにまで引き上げる。
それと同時に、機体は一瞬で加速する。
原理はよくわからないけど、機体と滑走路は、電磁石で固定されていて、それで加速を稼ぐらしい。
随分旧式な仕組みだとは思う。
反重力システムで機体を浮かせればいいような....
「どうして反重力で加速させないんですかー?」
『その機体が旧式だからに決まってるだろう、R-11のエアロックを開けろ!』
旧式の機体?
これで....?
宇宙空間に飛び出したアストランティアは、そのまま私の意思に従って、アバターの艦首に向けて旋回する。
スラスターの出力を下げて、旋回性を上げる。
背後を振り向くと、画面に数十の表示が映っている。
あれがフルークリッターらしい。
『Fluke Ritter FRT-061 ”Buzzard”です』
「いいです、性能は分かりませんから....」
何か知りたいなと思った思考を拾って、デルフィニウムが説明を表示してくれる。
用語は分からないので、慌てて表示を消す。
「両翼展開!」
翼を広げて、アストランティアは艦首に回り込む。
『指定位置に整列する、オートマチック操作に切り替えろ』
「はい」
細かい操作はデルフィニウムが代わりにやってくれる。
周囲に、まるで翼のようにフルークリッターが布陣した。
『空間変曲軸線安定、ワープフィールドを生成します』
一瞬、空間が歪んだような気がした。
直後、スロットルレバーが勝手に動き、フルークリッターと共にそこに飛び込んだ。
「わぁああああああああッ!?!?」
とんでもない速度で、訳の分からない空間を飛んだアストランティアは、直後に宇宙空間へと放り出された。
視界の端で、操縦が手動に切り替わる。
『心の準備はいいな?』
「.....はい!」
私は操縦桿を握り締め、フルークリッターと共にアステロイドベルトへと侵入した。
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