012-アストランティア
何やってんだろ、私。
連絡した私は、やってきた小型シャトルでそのまま宇宙に飛ばされた。
衝撃とかもなかったし、物凄く高価なシャトルだというのはすぐに分かった。
でも、その後が問題だった。
「これが君の機体だ、名をアストランティア」
「.....この間の機体じゃないんですか?」
「あんなオンボロで戦えるわけないだろ」
何やら大仰な機体が、私の前に置かれていた。
この間のシンプルなやつと違って、でっかい砲身が両側から見えている。
「.....これ、量産機じゃないですよね?」
「勿論」
「....壊したら弁償ですか?」
「直せばいいだけだろ」
話が通じない。
私はてっきり、量産機のパイロットとして勧誘を受けたと思ってたんだけど....
「シンさん.....その、私にそんな価値は....」
「ある。俺がそう感じた」
「......」
大体、マニュアルやガイダンスのようなものもなくて、どうやって戦えというんだろう?
そんな私の様子を感じ取ったのか、シンは口を開いた。
「この機体にはデルフィニウムという名前のAIが積まれているからな、お前の脳波を読み取って複雑な操作をアシストする」
「....そうなんですか」
じゃあ、誰が乗っても変わらないわけだ。
私は安堵する。
「スロットルと操縦桿、武器については人間の管理項目なので、そこはまぁ自分で何とかするんだ」
「.......ちょっと待ってください」
味方に撃ったらどう責任を取れば....
「ほら行け、後がつかえてる」
「後なんて....」
「ほら行け行け、直掩は任せろ」
半ば押されるようにして、私はキャノピーを開けてコックピットに入り込む。
何か機構があるのか、この間乗った機体よりコックピットが狭いような気がする。
「あの....これ、どうやって起動すればいいんですか!?」
「あー悪い、『翼よ』って言えば起動する。パスワードと声紋が合ってないと使えないから、君の専用機だ」
「私の.......翼よ!」
コックピットの計器に光が灯る。
同時に、窓に重なるようにディスプレイが出て、『戦術支援AI:Delphinium』という表示が一瞬映る。
『アストランティア、起動成功。以後認証声紋を記憶します』
「えっと、これからどうすれば....」
シンに聞こうとしたその時、勝手にキャノピーが閉まった。
困惑する私に、画面の表示が切り替わる。
《シートベルトを装着してください》
「わ、分かってる」
シートベルトをつける。
お腹の辺りを固定するやつじゃなくて、スーツに装着するものらしいけど、
「デルフィニウム、私のサイズに合うスーツがなかったんですが、これでも大丈夫ですか?」
私服で戦場に出るような形だけど、許してくれるかな。
『問題ありません、座席後方にある簡易ヘルメットの装着を推奨します』
「...うん」
このヘルメット、狼獣人用だ。
備品のはずなのに、なぜかピッタリ合った。
案内された通りにサイドボタンを操作してフェイスガードを下げる。
『ヘルメットをつけたな』
「シンさん...」
『もう後戻りは出来ないぞ、いいんだな?』
私は目を閉じる。
瞼の裏に、色んな事が過ぎる。
お父さんの死、お母さんの優しさ、アルバイトの大変さ、友人たちの無邪気な笑い、財布を盗まれた喪失感、全てを手放したくなった失望感。
でも。
リスクには、リターンがある。
「はい!」
『よし来た、カタパルト展開!』
『電磁加速スラスター準備完了』
「エンジン起動します!」
手順は同じだ。
ゆっくりとスロットルを引き上げて、すぐに低出力に戻す。
この間はその手順も知らなかったけど、軍事ファン向けの動画で勉強したからいける!
『3、2、1、発信許可アクティブ、出撃してください』
「行きます!」
スロットルを最大まで引き上げて、操縦桿をニュートラルから若干引いた。
少し浮き上がった機体は、意味のわからない加速を受けて宇宙空間に放り出された。
「な、何、何!?」
『機体を安定させて下さい』
「ど、どうやれば!」
『お任せください』
ガイドが出るけど、出来るわけないじゃん!
深呼吸するけど、目の前の回転は収まらない。
あの時の、時間が遅くなるやつはどこ行ったの!?
『落ち着くんだ、アザミ君』
「落ち着くなんて、どうやって!」
『ここは戦場だが、その機体は未登録のボギー。まずはスロットルを低出力にしろ』
「...はい」
私はスロットルレバーを最低出力にする。
『上下の位置を把握するんだ、左右の方向転換はデルフィニウムがやってくれる』
「上下の位置...」
私は回る景色の中に、赤く光る星を見た。
あれが上...って事にしよう!
その途端、機体の回転がゆっくりになった。
『急な方向転換は角速度の減少を招く、そうやって減速するんだ』
「...はい!」
『そいつの最高速度は光速の四倍だからな、気を付けろよ』
「...えっ?」
『あと、君のその能力を、俺の妻は「覚醒」と呼んでいたな』
情報量が多い!
とはいえ、どこに意識を向ければいいかはわかった。
「...覚醒!」
その瞬間、世界が広がった。
自分という殻から抜け出したようだ、どこまでも飛んで行ける気がする。
周囲を見渡せば、全てがゆっくりに見えた。
『俺が出るまでに片付けろ、じゃないと、邪魔だからな』
「はい!」
機体の速度を、限界まで上げる。
時間は私の望むだけ引き伸ばされて、上がった速度でも全く困らない。
「うおぉおおおおおお!」
気付いたら、叫んでいた。
一瞬で、私の機体...アストランティアは、撃ち合っていた敵の真正面に迫る。
大きい、私にやれるかな?
だけど、そんな不安は今はどうでもいい。
私は不安を振り切って、操縦桿から手を伸ばした。
面白いと感じたら、感想を書いていってください!
出来れば、ブクマや高評価などもお願いします。
レビューなどは、書きたいと思ったら書いてくださるととても嬉しいです。
どのような感想・レビューでもお待ちしております!
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




