001-踏みにじられた憧憬
世界は、憧れは、自分のイメージするようには動かない。
それを知ったのは、ずっと昔の事だ。
『英雄にして我らが王、ノーザン・ライツの記録映像がこちらです』
幼いころに見たドキュメンタリー映像。
その向こうでは、見たこともない船が、星空で撃ち合っていた。
その中でたった一機で戦う、人型の機体。
まるで、その機体には、それに乗る私達の王様には。
攻撃は疾風のように。
防御は城塞のように。
弱点なんて、ないかのようだった。
「せんせー、ライツ様に会ってみたいです!」
「ふふ、いつか会えますよ」
無邪気に、無知に叫んだ私に。
保育園の先生はそう言った。
私はいつか、ノーザン・ライツという男に会ってみたかった。
.....会って、ある事を伝えたくて.....
だが、
それを父親に話した私は、失望と絶望、そして無情感に包まれることになる。
「何を言っているんだ、ノーザン・ライツ様は十年前に逝去されたんだぞ」
「あなた、いい加減にしてください。少しは子供の夢を....」
「死んだものを死んだと言って何が悪いのだ、俺だって生きていてほしかった.......だが、いつまでも妄想に浸ってはいられないだろう?」
私の憧れは。
いとも容易く踏み躙られた。
ノーザン・ライツは既に死んでいて。
私は彼に会う事も出来ないし、思いも伝えられないと。
そして。
憧れは、またも踏み躙られる――――
「暇だなぁ」
私は呟く。
風が頬を撫で、正午に向けて昇り始めた太陽が、刻々と私の見下ろすビル群に影を作っていく。
いや、影を作るのはビルだけじゃない。
空を飛ぶ貨物船が、点々と街並みに影を作る。
「またサボリか!?」
「やばっ!?」
その時。
後ろから声がかかる。
慌てて振り向くと、そこには船が浮かんでいた。
標準型、もっとも流通しているタイプの小型輸送船だ。
それでも大きいのだが。
「シラーおじさん!」
「進級できねぇぞ!? 送ってってやるよ」
シラーおじさん、民間の輸送会社で働くおじさんで、いつもここを通る人だ。
すっかり失念してた....
「ごめんなさい....」
「いーんだよ、人生ってのは生きたいように生きりゃあ」
「はい....」
ごめんなさい。
私は心の中でも謝る。
シラーおじさんのような生き方は、私にはできないから。
生きたいように生きるって、どうすればいいんだろう?
「今日は学校じゃねえだろ?」
「はい....社会科見学で、博物館に」
私はあの場所が嫌いだ。
あの場所に行くと、憧れを意識せずにはいられないから。
「懐かしいなぁ、小さい頃はよくあそこに行ってただろう、アザミは」
「......うん」
無邪気な憧れを抱えて。
私の英雄だった彼への思いを、憧れを、願いを。
だけど、それは叶わなかった。
だから嫌い。
「ねぇおじさん、好きに生きるってどういうこと?」
「お前は、俺の船に乗らないって選択肢もあった。乗らなかったら、学校に行かなくてもよかったんだぜ」
「あっ......」
「ま、俺もそうだ。会社勤めなんだしな、お前を迎えに行かないって選択肢もあった。だけど俺は好きに生きたかったから、頼まれてもいないのにお前を迎えに行ったんだ」
「...........」
それに何て返したらいいかわからずに、私は黙り込む。
逸らした視線の先に、コックピットの外が見える。
雲が流れ、青い空が見えている。
その空に向けて、加速している船が目に映った。
星空へ、あんなに容易く踏み出せるのに。
私は、自分の人生すら、トラウマに縛られて。
情けない。
「着いたぞ、ほら、行ってこい」
「.....うん、ありがとう、おじさん」
「頑張れ若者!」
私は船のコックピットから降りて、振り向く。
おじさんはコックピットからこちらを見下ろして、微かに笑った。
「ほら行けよ、また親父さんにどやされる前に」
「ぅう.....分かった」
お父さんは怖い。
暴力を振るう人ではないけれど、大昔のしきたりに厳しい人だ。
怒られると長い。
私は受付に急いだ。
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