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きっかけは弟の友人との同居生活だった  作者: 紫音
1章 始まりの同居生活
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6.遥翔の身内と対面


 翌朝になり、雪人に事情を説明した陽奈子。遥翔の学校へも連絡をし、職場から応援を頼むことにした。


『そういうことね、わかったわ。それならそっちにいくから、あんたは準備しておきなさい』

「はい。よろしくお願いします」


 里穂ならばこの家の住所もわかっている。遥翔の状況も説明をしたので、大丈夫だろう。問題は、一向に目を覚まさない遥翔の方だ。陽奈子はあれから一睡もせず、遥翔の様子を見ていた。朝になり体温を再び計っては見たものの下がっている様子はない。上がらなかっただけマシなのかもしれないが、このままにしてはおけないだろう。そんな風に考えていると、玄関の扉が開けられる音がした。


「え?」


 インターホンが鳴ると思っていた陽奈子にとっては想定外だ。一体誰が来たのかと、慌てて陽奈子は玄関に走る。陽奈子が玄関についたのと、扉が開いたのはほぼ同時だった。


「春川」

「里穂先輩……え、なんで? その人は……?」


 そこにいたのは予想していた里穂の姿。ともう一人男の人が立っていた。見たことがない人だ。少なくとも、陽奈子が所属する所轄署にいる人間ではない。知らない男の人ということで、陽奈子の足がすくむ。そんな陽奈子の様子に気が付いた里穂が男の人の前に出た。


「春川、この人は大丈夫。今は瀬尾くんの方が優先でしょ?」

「……っ、は、い」

「詳しいことは後で話すから」

「わかりました……どうぞ」


 恐怖を必死で抑えながら、陽奈子は家の中に里穂たちを招く。そうして遥翔の部屋へ案内した。ベッドに近づいても遥翔はまだ眠ったままだ。すると、男の人が遥翔の下へと近寄った。


「遥翔、聞こえているかい?」

「っ……」

「……なるほど、確かにこれはまずいな。まったく、仕方のない子だ」


 遥翔の顔に手を添えた男の人がどういう表情をしているのか、陽奈子からは見えない。だがその声色はとても優しいものだった。一体どういう関係なのか。名前を知っているということは親しい相手なのだろうか。


「春川巡査、君も出る準備を。この子は私が連れて行く」

「は、はい」

「上次は先に行って、車を回しておけ」

「わかりました」


 そういって男の人は遥翔を軽々と抱きかかえるようにして持ち上げる。陽奈子も慌ててバッグを持ち、その後を追った。戸締りをしてエレベーターへと乗り込む。遥翔がいるとはいえ、見知らぬ男の人と一緒に居ることは陽奈子にとって常に緊張感をもたらすものだ。以前より平気ではあるのだが、どこか威圧感を持つような空気に萎縮するばかりだった。

 いつも以上に長く感じられた地下までの時間。里穂が回していた車に乗り込むと、陽奈子は助手席に乗り、男の人と遥翔は後部座席へと回った。


「それで、どちらに向かいますか?」

「警視庁の近くにある四条病院にいってくれ」

「はい」


 警視庁。という言葉に陽奈子はそこまで行くのかと驚いた。車で行くよりも電車を使った方が確実に速い。今の遥翔の状況からみても近くの病院でいいのではないか。陽奈子は口を挟まずにはいられなかった。


「あの……近くのところの方が遥く――遥翔君の身体にもいいのではありませんか? わざわざ遠くのところにいかなくても」

「……君が見舞いに来ると言うのなら近場ではだめだろう。それに知り合いがいるところの方が私が安心できる」

「……貴方は遥翔君とは」


 どんな関係なのか。はっきりとは言えなかったがニュアンスで伝わっただろう。遥翔の頭を膝の上に乗せるようにして固定させると、男の人は来ていたスーツの上着ポケットに手を入れ、陽奈子が見えるようにとそれを広げて見せた。


「え……」

「私は瀬尾彰人(あきひと)。遥翔の叔父にあたる」


 見せられたのは警察手帳だった。当然陽奈子も持っているもの。そこには間違いなく瀬尾彰人と記載されていた。だが驚くのはそこではない。警察庁、その階級は警部だった。陽奈子が所属しているのは所轄署だ。警視庁に所属する警部の名前など知ることもなければ、会うことだってない。それほど遠くの存在でもあった。まさか遥翔の叔父にそんな人がいただなんて全く知らなかった。


「申し訳ありません。知らなかったとはいえ、失礼を」

「構わない。遥翔が何も言っていないことなど想像できた」


 気にしていないと彰人は手帳を再び閉まった。警視庁に勤めているのであれば、確かにあのマンションは少し不便かもしれない。遥翔に両親はいないと聞いている。であれば、未成年である遥翔を彰人が引き取ると考えるのが普通だろうが……。


「何か?」

「あ、いえその。どうして、遥翔君と一緒に住まわれていないのかと思ってしまって」

「……確かにこの子の保護者は私だが、私と共にいることをこの子は望まなかった。それだけの話だ」


 それだけとはいうが、それ以上に理由がありそうな気がしてならない。しかしこの先は、ただの同居人であり友人の姉でしかない陽奈子に立ち入ることは許されていないのだろう。彰人もそれきり口を閉ざしてしまい、尋ねられる雰囲気ではなかった。



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