第四十一話 迷宮へ
暦一九〇一年、五月十日、午前七時──
ここはトリガルト中央付近、上空。もうこの世界にやってきて一年経った訳だ。正直、この世界には慣れた。でも、慣れないことはある。普通こんなことを一般人に頼むなよ。強い能力有ったって最後は自分次第なのだ。しかもこの数ヶ月、夢にも出てこない。神だろ?もう少し頑張ってくれと思う。
少し、遠目だが都市が見える。
まぁ、あそこに寄ることはまずないけどな。
でも、俺には疑問があった。考えてみるとなぜ魔王軍しかいない国に町が必要なのだ。町より基地が必要だろ。つまり、魔王軍以外にもトリガルト帝国には居る。ということになる。
いや、あそこに行くのは危険すぎる。もしかしたら北センチネル島や犬鳴村みたいになるかも知れない。このまま通り過ぎよう。
――
ここはトリガルト帝国北部。少し肌寒くなってくる。距離的にはアクーラ連邦に近い。
少し前を見るとあるのは山脈だ。確か、カシーム山脈だったか。迷宮があるとして恐らくあそこだろうな。
見れば見るほど遠く感じる。だが実際は意外にもすぐそこだ。
ゆっくりと出力を下げ、高度を下げて地面に着陸する。エンジンを切り、降りるのを確認してから乗ってきたヘリを消す。地面が乾燥しているのが分かる。雪は降っていないが、寒い場所だ。
カラっとした空気が体に触れる。殺風景を背に三人は迷宮へと進んだ。
水が滴り落ちて、中から不気味な音が聞こえてくる。人の気配はしない。
フラッシュライトを手に持ち、あたりを照らす。不安なのかシースが腕をつかんでくる。
「どうした、怖いのか?」
「私、言ってなかった?暗いとこ苦手なの」
こいつは前世の記憶をすべて引き継いでいる。性格も苦手なものも。この世界において、暗いが苦手だとさぞ大変だっただろうな。
まだ特殊能力を与えられた俺の方が気持ちは楽だ。俺は怖いより楽しみだ。不安はある。そりゃこんなすごい能力を持っていても死んだら生き返らないからな。魔王がどんな奴なのかも分からない。弱点も、逆にこんな時に冷静にいられる奴の方が怖い。
「日向、音がしないか?」
「言われてみれば、、水の音じゃないか?」
「そっ、そうか、ならよかった」
と、そんな会話をしていると、
奥からゴワァーっという音がしてきた。
何か居る。それは分かってる。すると、音の正体が姿を現した。それは、まるで神のような、悪魔のような、暗闇に包まれ、大きな杖を持った巨体の者が居た。すると、奴は俺達の存在に気付き、こちらに寄ってきて言った。
「お前達、ここを通るのか」
まるで俺達がここを通ることを知っていたかのように聞いてきた。
「進むのはやめておいた方がいい。忠告する」
此奴は俺達がここを進むことを止めてきた。よくある『ここから先は危険だ』とか言う奴と同じだ。無視していい。と思うが、少し引っ掛かる。というよりは、本当に進んではいけない気もする。
「魔王はここには居ない」
「??何がだ」
ここには居ない、に俺は反応した。そして、そのまま奴は話を進める。
「言葉の通り、魔王はここには居ない」
「それは、、一体?」
「ただの忠告だ。別に気にしなくてもいい。だが、ここに魔王は居ない」
魔王が居ないのか?、いや、奴は信じない。
どうせ魔王軍の引き留め役だろう。居るんだろう、魔王が。
そして日向が歩みを進める。少し怯えながらも後ろの二人も歩みを進める。すると、巨体の者は口を開いた。
「そうか、せいぜい頑張るのだ」
と、言い残し、姿を消した。
三人は歩みを止めることはなく、奥へと進み続けた。




