8 小さな違和感【シルヴェスト視点】
彼女は強いな、と思った。
僕はアンジュに出会うまで、周りの全てを拒絶して自分を否定してあらゆる努力を怠った。
それに対して目の前の令嬢は環境が決して良くないなかで自分を見失わずに侯爵令嬢として磨き続けた。親は最悪だが、彼女の聡明さ、振る舞いその全ては人望に繋がっている。
父親の悪評があっても、彼女は学院の中で皆の憧れの存在として君臨している。
僕は与えられた環境はとても良かったのに、それを活かせなかった。最初のお見合いの時に口下手で上手く話せない、笑えないことを嗤われて人と関わることが怖くなった。
そして自分の殻にこもって出てこない僕を心配した両親が連れてきたのが、アンジェリアだった。
僕はアンジュに出会えたから変わろうって思えた。突然変わったわけでも、口下手で人が苦手なことが治ったわけでもない。
それでも、彼女にとって良いパートナー、良い夫と思って貰えるようになりたくて仕事を頑張った。その結果、業績は上がったし、商会を共同経営することも出来たし、話が続くようになった。(殆どが仕事のことばっかりだけど……)
だから、目の前の令嬢を見て僕にも何か出来るだろうかと思ってしまった。
「──私達のことを心配してくださりありがとうございます。貴女が伝えて下さった言葉を無駄にしないように努めます。その代わり、といってはなんですが、私からも一言宜しいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」
「まだ、諦めることはないと、思うのです」
「?それは、どういう──」
「お父上のことを差し引いても貴女という人が魅力があるということです。現に私の友人からも憧れの人だという話を聞くのは一度や二度ではありません。……私がアンジェリア嬢に出会えたように、貴女にも──」
「──ありがとう」
僕が伝えたかったことはどうやら解って貰えたらしい。
さっきまでのどこか諦めたような表情から、素の表情が垣間見えた。きっと彼女だって、本当は幸せになりたいと思っていたのだろう。
僕は陰ながら、彼女と彼女に恋する侯爵家の友人が出会うきっかけを作ろうと動き出した。
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その頃からだろうか。
アンジュの様子がおかしくなった。何かに悩んでいる素振りを見せるも僕の前ではなんでもない風を装う。
避けられているのかと思ったら、逆に凄く積極的になったりして一貫性がない。
アンジュと離れるなんて、僕にとっては地獄でしかない。二人きりの時に積極的になってくれるのは嬉しいけど、学院でのよそよそしい態度を見るとモヤモヤしてくる。
──いっそ、強制的に離れられないように既成事実を作ってしまおうか──
そう思っていた僕の願望が伝わったのか。
アンジュから誘われた。
僕は何か様子がおかしいと分かっていたのに、アンジュの提案に乗ったのだ。どうせ卒業したらすぐに籍を入れるつもりだった。
万一があったとしても問題はない。それよりも、愛しいアンジュをこの手の中に抱き締めていられるこの瞬間を逃したくなかった。
──本当はちゃんと向き合わなくちゃいけなかった。
何があったのか。どうしてこの行動に至ったのか。
また僕は彼女に甘えて、彼女の愛だけを信じて、ちゃんと言葉にもせず、受け止めるだけの日々を貪った。
そのツケがこんな形で現れるなんて、思いもせず。
──彼女は僕の前から突然消えたのだ──
この回で一旦シルヴェスト視点は終わりです。
再び主人公視点に戻ります。
ストックが切れたので、もしかしたら間が空くかも…ですが、頑張って続きを書きたいと思います(>_<)




