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5 アンジュとの出会い【シルヴェスト視点】

僕は昔から人付き合いが苦手だった。

口下手で、他人の悪意に敏感で、表情筋が死んでいたからだ。

ただでさえ無愛想なのに、上手く話す術を持っていなくて、そんな僕に周りの皆が何を思うかなんて嫌でもわかって余計に話せなくなり、評判は悪くなる一方だった。


10才になる頃には無愛想で根暗な伯爵令息は出来上がった。

周りの後継候補の令息嫡男達はとっくに婚約者や婚約者候補がいるにもかかわらず、僕のもとにくる縁談は悉く不履行になった。

一人息子であり、領地経営も上手く行っているお金のある伯爵家の跡取りにもかかわらず、だ。

それだけ、僕には魅力がないのだろう。

ますます卑屈になった。


そんな時だった。

見かねた両親が僕に婚約者候補の子爵令嬢とのお茶会を企画したのは。


どうせ、また僕を見て話したなら、嫌な顔を無理やり押し込んだ笑顔で断りの言葉を告げるんだろう?

だったら、もう一生独り身で良い。

優秀な親族から後継者を養子に貰えば解決じゃないか。


諦めの表情を浮かべながら対面した。

僕は相当失礼な態度だったと思う。

──それなのに。


「シルヴェスト様、アンジェリアと申します!どうか末長く宜しくお願いいたしますわ!」


そう言って満面の笑みで僕の手を握った。

面食らった僕は、いつも以上に言葉が出てこなくて、勢いに押されたとはいえ、あぁ、なんて同意の言葉を返してしまった。

たった一言。

それしか話さなかったのに、彼女はとても嬉しそうに笑ったのだ。


彼女は、悪意が一欠片もない笑顔で、本当に嬉しそうに僕を見て笑ったのだ。心がざわついたけど、これがどういう感情だったのか、その時の僕にはまだわかるわけもなかった。


向こうから断られないのをいいことに両親は婚約を結んだ。

きっとすぐに飽きる。嫌になる。

そう言い聞かせようとしているのに、彼女は……アンジュはいつだって楽しそうにニコニコ笑って僕の話を聞いてくれた。

聞いてくれた、なんて烏滸がましい。

だって僕がしたのは、彼女が話してくれたことにあぁとかうんとか相槌を打つだけだったんだから。

アンジュはおしゃべり好きだったけど、独り善がりじゃなくて、ちゃんと僕の反応を見ながらしゃべってくれた。

だから、口に出せなくて会話にもなっていないお茶会のやり取りばかりだったのに、誕生日に貰ったプレゼントが毎回僕が欲しかったものばかりだったことに心底驚いた。最初の数年はどうせ家族や侍女、執事達から情報を仕入れて準備したんだろうと思っていたけど、誰にも言っていなかった行商人が持ってきた商品に一瞬目を奪われたその万年筆をプレゼントに選んだとき、アンジュは魔法使いなのかと本気で疑ってしまうほどだった。


『愛のなせる技よ』


なんて言われた時はドキッと胸が高鳴ったけれど、すぐに商人としての洞察力だと言われた時はガッカリしたものだった。

その時に気付いた。……というより自覚した。

僕はアンジュのことを好きだ。


──もうどうしようもないほどに焦がれているのだと。


そこからの僕は必死だった。

政略結婚でしかないこの婚約を確かなものにするために、物凄く勉強した。元々商売に関しては才能があったのか、幼少期から父の手伝いをしていたおかげなのかどんどん業績を伸ばしていった。アンジュの機転とアイデアで新しい事業を産み出すことにも成功し、共同商会ということで新しい商会を作ることも出来た。

商売の話をしているときはお茶会もしっかり会話が成立した。……逆に言えば、その時にしかまともに会話が出来ていなかったんだけど。

このままじゃいけないと社交にも力を入れた。

そうすれば、アンジュとももっと自然に会話が出来る日が来ると思ったから。


商売で相手に好印象を持ってもらうために手に入れた営業スマイルはそのまま社交にも有効活用させて貰った。学院に入る頃には身長も伸び、容姿にも気を遣うようにしたら何故か女性から声を掛けられることが増えた。

正直相手にするのは面倒くさかったけど、アンジュが手掛けている商会の品物は若い女性向けの物が多く、ここで売り込んでおけば後々僕たちの結婚生活が潤うと思って愛想笑いを浮かべては沢山の商品を売り込んだ。

そのお陰で業績はうなぎ登りで王国内の商会の中でも五本指に入るほど有名になり、複数の領地や隣国にまで支店や提携元が出来るまでになった。


だけど、誤算があった。

人付き合いが苦手な性格はそのままで、無理やり愛想笑いを浮かべて社交をしていたら、心に余裕がなくなって結局アンジュといるときにまともに会話が出来なかった。

昔のまま、無愛想な態度でばかり接してしまった。

アンジュも特に何も言わず、いつものようにニコニコ笑いながら僕の話を聞いてくれるから僕は甘えてしまった。





──それが周りからどんな風に見えているのかなんて、考えてもいなかったんだ。


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