29 通じ合う想い
あれからお茶会を続ける雰囲気でもなくなったので、申し訳ないけれど、お二人には、後日改めてお誘いすることにしてお帰り頂いた。
まずはこの目の前の人とちゃんと話さなければ。
シルにもちゃんと話をしましょうと伝えたら頷いたので、お二人を見送ったあと、ユリを呼んで寝てしまったヴェスを託した。そして、私は部屋のソファに並びシルと向き合った。
「……お互いに沢山の誤解があったと思うの」
「そう、だね」
「ちゃんと最初から確認しても、良いかしら」
「僕も、そうしたい」
ぎこちないやりとりだったけど、私たちはちゃんと最初から一個ずつお互いの考えていることとか行動とかを話し合った。
そして、私の勘違いを知る。
まず、家族愛だと思っていたシルの情は、とっくの昔から恋情に変わっていた。前提条件から違ったと知った時には思わず脱力感に襲われた。
私も大概人の話を聞かないダメな人だったわけだわ!
……でもね。普通に考えて、何か大きく秀でているわけでも家柄が良いわけでも絶世の美女でもない。物語のヒロインとは程遠い存在だと思っていたから、ただの政略婚だと思っていてもおかしくはない……わよね?
そんな私の主観をシルに伝えてみたら呆れたようなため息を吐かれた。
「アンジュは自己評価が著しく低いと思う。公爵家とかならいざ知らず、身分的に考えても伯爵家の僕となら釣り合いはとれているだろ。それにアンジュは美しいというより可愛いタイプの容姿だし……学院の奴らだって何人もアンジュに近付こうとするふざけた奴もいたし」
「へっ!?それ初耳なんですけども?」
私が男性にモテていたなんて聞いたこともない。
近付いてくるのはシルのことが好きな女の子ばかりだったし。
「当然だ。誰がみすみす見逃すとでも?」
え。それって……つまり、そういうこと、よね?
嫉妬からくる牽制……てことよね。
「婚約者がいるとわかっていて手を出そうとする奴なんてろくな奴じゃない。そんな人間をアンジュに近付けるわけないだろ」
「そ、なのね。私はてっきり魅力がないからなのかと」
「……つまり、アンジュが自信が持てないのは僕が要因……なのか……?」
あながち間違っていない指摘なので、なんとも返答に困る。でも、モテないと思ってたことだけが要因じゃないからね!そう思って必死に訂正しようと伝えた言葉でシルを更に追い込んでしまった。
「あ、ほら!それはそれとして。シルは私が婚約者に選ばれたのが不思議なくらい魅力的な人になったじゃない?子どもの時ならまだしもここ最近のシルは社交も頑張ってて皆の憧れる素敵な容姿に成長したし。そんな人の隣に平凡な私が……て思うのは普通のことだと思うのよ」
「……それは逆だよ。アンジュがどんどん魅力的な人になっていくから捨てられないように君の隣に相応しい人になりたいと思って頑張ったんだ。──なのに、その結果がアンジュに甘えてちゃんと面と向かって愛情表現もしない碌でなしになるとか、ダメダメすぎる」
言いながらどんどん落ち込んでいくシル。
思ってたよりもずっと愛されていたことに困惑しつつも嬉しいと感じて頬が熱くなるのがわかった。
あのシルの努力は私の為だったなんて、そんなの喜ばない人なんていないよね。
──それならば、覚悟を決めて私の人生最大の汚点にして赤っ恥な告白を致しますか!
どうか、シルが引きませんように。
私はシルの手を握りしめながら目を合わせて話し始めた。
「あのね、私もシルのことが好き。ずっと出会ったあの頃から好きなの。好き過ぎて、シル以外の人との子どもを産む想像なんて出来ないくらい大好き。……でも、好きだからこそ、シルには本当に好きな人とちゃんと結ばれてほしかったの」
「……っそれは」
「ええ、もう誤解だったってわかってるわ。でも、あの時の私はやっぱりね、て納得してしまったのよ。シルのような素敵な人が私を異性として愛してくれるなんて全く思ってもみなかった。ヘスティア様ならお似合いだって。だから、私がいなくなれば二人の間にはなんの障害もなくなるだろうって」
「……アンジュ」
私が重ねた両手は気付けばシルに絡め取られて互いの熱を分け合うように力が込められていく。
「私はバカだから。どうしてもシルとの子どもが欲しくて、でもシルには幸せになって欲しいと考えた結果がヴェスの存在で、私の家出の真実。……冷静に考えれば矛盾してることばっかり言ってるし、エルたちがいなければ今こうして無事に再会していたかもわからないわ」
「……エルに感謝しなければならないな」
そう言いながらめちゃくちゃ嫌そうだわ。
その表情が妙にツボに入ってクスクス笑ってしまった。
「ねえ、そう言いながら眉間に皺が寄ってるわよ?エルと何かあったの?」
「……言いたくない、今は」
この言い方ならきっとそのうち話してくれるのだろう。ならこれ以上詮索はしない。
「……ね。こんな愚かで抜けてる私だけど、それでも……好き……?」
「当たり前だ。アンジュが好きだ……誰よりも」
「私も。本当はずっと言いたかった……愛してるって」
続きは言えなかった。
シルに唇を塞がれたから。
「……愛してる」
頬から流れる涙を隠すようにシルに抱き締められた。
長い長いすれ違いの間違いだらけの道だったけれど、ようやく辿り着いた私達の真実。
人から見れば酷く不恰好な形かもしれないけれど、それが私たちらしいのかもしれないわ。




