11 混乱する心
どうしよう。
いや、何をもってのどうしようなのかもわからないくらいどうしよう。
色々問題はあるのよ。
三年間、家を飛び出してました。ある日シルヴェストが迎えに来て、無事に結婚して爵位を継ぎました!
──なんて、そんな簡単にいくことじゃない。
貴族という身分を取り除いたとしても、非常識過ぎる。
勝手に飛び出しておいて、なんの音沙汰もなくいきなり帰ってきて次期伯爵様の妻の座に納まるとかどんだけ図々しいのよ!
ただでさえ、シルは学院で凄く人気があった。
婚約者という存在がなければ、どれだけの人から釣書が届いていたかわからない。
私が婚約した頃も沢山釣書が届いていたけど、なかなか婚約者が見つからなかったという話は幾度も伯爵ご夫妻から聞いていた。
だからこそ、私に感謝していると。
でも、子供の頃ならいざ知らず、今なら選び放題だったと思う。
口下手なところや人付き合いが苦手なところはあったけど、それを補えるほど優秀な成績や容姿、社交性が身に付いた。
それに比べて『早まったな』と思われても仕方ないくらい、私は平凡だ。
子爵令嬢という身分も、容姿も頭も全て平均値。
商才があったことは唯一の利点だったと思うけど、前世の知識であ、これあったら便利だなとか思ったものがヒットしただけであって、私の成果といわれると正直素直に頷けない。
極めつけは、勝手にシルとの子どもを産んだことだ。
貴族の子どもはそんな簡単に産んでよいものじゃない。
それ以前に人として間違ってるよね……。
いくらシルとの子どもが欲しかったからって、逃げ出す前提でそういう関係になるだなんて……。あぁぁぁ、考えれば考えるほどどうしてシルは私のことを受け入れてくれたのか謎でしかないわ。
シルは一週間後に帰ると言っていたけど、どういうことかとエルに確認してみると、この国に商談の為に出張してきたということらしい。
『でも、それはあくまでアンジェリア様の所に来るための口実ですよ』
とエルは言う。
その言葉通りというか宣言通りというか、シルは毎日私の家に通ってきた。
もういっそ客室に泊まったらどうかと言いたくなるくらい、時間の許す限り会いに来て、贈り物を届けてくれる。
それだけじゃなく、今まで聞いたこともないような甘い言葉も飛び交う。
シルヴェストの皮を被った偽物じゃないかと何度も疑うレベルの変わりようだ。
「この花、好きだったよね?今も変わらず……かな。気に入ってくれると良いんだけど」
「え……っうん、好き。今も好きよ」
「──そっか。なら良かった」
そう言って届けてくれるのは私が好きな花や贈り物ばかり。
今までのお茶会では一方的に私ばかりが話して好みを聞き出していたと思っていたから、びっくりしてしまった。
誰かに聞いたのかもしれないけど、それでも私が喜ぶと思って用意してくれたのはシルヴェストで。
──こんなの、困る。
元々嫌いで離れたんじゃないんだもの。
むしろ好き過ぎて、バカな行動した結果が今の私。
こんな風に優しくされたら、すぐに絆されてしまうわ。
──そんな資格、私にはないというのに。
贈り物と共にやってきてはお茶をして、少し世間話的なことや今の近況的なことを話してくれる。シルが好きな食べ物とか本のこととか。知ってることもあったけど、初めて知る情報に密かに胸を踊らせたりするくせに、自分のことを聞かれると途端に話せなくなって。これでは、昔とまるで逆だ。
これまでの数年間のこと。きっと気になるだろうに、シルは決して無理に聞こうとはしない。
だから、聞かれないのをいいことに私は、その話題を避け続けてしまった。
そうしてヴェスターのことを伝えられないまま、あっという間に数日が過ぎていくのだった。




