〈A Nation of Freedom and obedient knights〉1
WASFとの戦争を、十三神団を使い順調に進めるコウガ王国だったが、WASFの大規模反抗作戦『オーヴァーロード作戦』に翻弄されてしまう。更に新興勢力たるLSUの動向にも目を光らせなければならないため、十三神団は一度本土へ招集された。
コウガ王国本土の西海岸。
巨大な山脈と偉大な海「ベルタス洋」に挟まれる港湾都市「リフテリア」には、西大洋方面軍の第三艦隊と第四艦隊、そして派遣専用艦隊の第七艦隊が停泊していた。
艦隊旗艦の戦艦を中心に完璧に整列した姿は、まさに海の王者を彷彿とさせる光景といえる。
その姿を山の麓から見つめていた少女と少年。
少女たちは母国の国旗を確認すると、はしゃぎながら艦隊に背を向け、山奥へ走り出した。
彼らが山道を進んで行く先には、二階建ての比較的大きな屋敷があった。
少女たちは行く手を阻む大門を“軽々”と開き、屋敷の中に入ると、一目散に屋敷の中に駆け込む。
注意するメイドたちの声など気にも留めず階段を上り、一画の部屋に飛び込んだ。
「お兄様!。今港にたくさん軍艦が!……。」
「お兄様!。何であんなに沢山……。」
だが、少女たちが兄と呼んだ青年の顔を見た瞬間、口を噤んでしまう。
禍々しい雰囲気を漂わせていた青年は、持っていた剣を鞘にしまうと何事も無かったかのように振り向いた。
そして呆れたような、はたまた愛しい姉弟の無邪気さの安心するような苦笑を見せる。
「部屋に入るときはまずノックをしろと、いつになったら覚えてくれるんだ?。
天時、媛時。」
青年にそれぞれ天時、媛時と呼ばれた少女たちは、慌てた様子で謝り始める。
「ご、ごめんなさい、昔時お兄様。嬉しくてつい。」
「ごめんなさい。もう、天時姉様が急かすから……。」
「なによ。媛時だって早く会いたいって言ってたじゃない。」
そして、天時達に昔時と呼ばれた青年は、自分を置き去りに喧嘩を始める二人を、変わらないなとただ苦笑して見守っていた…。
ひとしきり喧嘩をしてぐったりしている天時達は、昔時に寄り掛かってすやすやと眠っていた。
膝の上で可愛い寝息を立てる二人の頭を、昔時は優しく撫でてやる。
するとこそばゆいのか、天時が身じろぎ、撫でている手を掴んだ。
そしてその手に頬を擦り寄せながら、甘えた声をあげる。
「んん…。おにぃさまぁ〜……」
「……。」
しかし、愛おしそうに撫でるその手に反して昔時の顔は曇っていた。
連日戦闘だった昔時に与えられた貴重な二日の休暇。
それはある意味、これから始まる激戦を示唆していた。
「…すまないな。これから寂しくさせる。」
だからせめて今日一日は、天時達のために使おうと、そう思い帰ってきたのだ。
大切な二人の寝顔を眺める濁った赤と青の碧眼 は、未来のそれとほぼ瓜二つ。
唯一の違いは左右の色が反対というそれだけだ。
「俺は……紛い物を屠りに行くんだ。…“神道”の名にかけて。」
その瞳の先に映るのは、同じ二刀流の騎士か、それとも先祖代々受け継がれる宿命か……はたまたそのどちらもなのか……。
今はただ、必要なことをするだけだ。