Everything is for the beautiful emperor 4
「『剣士たるもの、身を刻む覚悟で鍛錬せねばならない』でしたよね。」
アルベルトは、汗の滴る自慢の黒髪をタオルで拭きながら、呆れたような顔で未来を見据え即座に訂正。
「少し違う。剣士の極意三.『剣士たるもの、身を刻む覚悟で鍛錬せねばならない。また、自らの振るう剣に最大の責任を持たなればならない。』だ。この極意は最後の一文も含めるから意味がある。」
「さっ、流石です。あれを全部覚えているなんて……。」
未来とアルベルトが話しているのは、アルマ帝国剣士学院で必修となっている「アルマ剣士二十の極意」だ。
しかし、この極意は文体的に覚えにくく、一言一句覚えている人など、この中じゃアルベルトぐらいだ。
アルベルトは呆れ半分、心配半分といった顔で未来を見据えて話を続ける。
「やはり少し鈍っているようだな…、一度立ち合った方がいいと思うぞ?。」
「う〜ん……。今日は研究から帰ったばかりですし、遠慮しておきます。それに、ジェーシス大尉こそ長旅でおつかれでしょう?。」
未来の様子を見て、立ち合いを申し出たアルベルト。
だが、未来からすればそれ以上の激務をこなすアルベルトの方が心配だった。
「何をいうか、単なる敵地への偵察だ。全体を把握するのに2年もかかったが、これくらい容易いことだ。」
潜入任務に長けたアルベルトはつい先月まで、大陸へ先行進出し仮想敵国などの内情を偵察していた。
土地勘もない場所をたった一人で偵察するには、相当な体力と精神力が必要だろうに、帰還して1週間も経たずして実剣による立ち合い。
常人とは思えない仕事量だ。
「私がいいと言えば良いんだ。今はピンピンしてるし、お前程度なら軽く捻れる自信はあるぞ?。」
「…どちらにせよ先輩はもう休んだ方がいいです。」
どれだけ言っても聞かないアルベルトに、未来が付き合いきれないとばかりに話を切り、帰ろうとアルベルトに背を向ける。
すると今度はアルベルトが挑発した。
それとも…お前は“疲れてる私”からも逃げる臆病者だったのか?。」
その挑発を未来は軽く受け流せる…………訳もなく、分かりやすく反応を見せた。
首からギギギギと音がなりそうなぎこちない動きでアルベルトに振り向く。
その顔は不自然なほど笑っていた。
…………尚、キレてないとは言っていない。
「俺が“臆病者”?。そんなの、ある訳無いじゃ無いですか…。」
未来の発する言葉には、明らかな殺気が込められていた。
明らかに殺る気満々の未来に対して、アルベルトは未だ余裕の表情で対応する。
「ああ、そうだな。まぁ、今私とやらないのなら話は別だが……。」
ニヤついた顔でこれ見よがしと観客たちを指差すアルベルト。
あまりにもわざとらしい煽りに、未来は思わずため息を吐き……しかし、その一角に居たある人物を見て途端に気が変わった。
「…いいでしょう。こんな場で醜態を晒す訳が有りませんし……。」
仕方なくアルベルトの話に乗った。服装を整えながら、未来は仕返しとばかりに、言い返す。
「それは良いとして…ルールは?。」
「双方片手剣。体術、不意打ちなど実戦的戦術ありだ。」
「了解。大尉らしいルールですね。あっ、そうですよね。大尉は“実戦向き”な立ち合いしかできませんものね。」
「私はお飾りな戦いは嫌いだからな。」
未来の放つぎこちない挑発を華麗に捌きながら、二人は五歩離れた位置で向かい合う。
そして双方剣を抜く。
「それじゃあ、徹底的に潰しますから……覚悟、できてます?。」
「ああ、準備万端だ。あと、それは私のセリフだ。」
「…言っていられるのも今のうちです。」
「ふふっ、どうかな?。……それでは、麗しき皇帝陛下のもと、完璧な立ち合いを行うと誓おう。」
彼らの“女帝”が拝見する中、一瞬の緊迫は未来の声をきっかけに破られた。
「ええ、……いざ、尋常に…参る!!。」