Everything is for the beautiful emperor
世界歴1793年。アリャーセス大陸の一角、四方を巨大な山脈で囲まれ、豊富な資源に恵まれたレウセーヌ地方。此処で起きた30年続く戦争も終わりを告げ、戦勝国たる経済帝国アルマを中心とした連合「レウセーヌ小国連合」通称LSUを組織。LSUは次なる戦争のために5年の歳月を掛けて準備を始める………。
経済帝国アルマの皇帝、ロアザエリカ三世はアリャーセス大陸への進出を望んだ。
この要望から始まった大陸侵攻案が、連合会議にて各構成国から提案され、次第に鮮明化した。
しかし、そのすべてが現実的な勝利は得られないと判断された。その侵攻案たちに決定的に足りなかったこと、それは機動力だった。
これを克服するため、各国で戦術研究が始まる。
「………というのはどうでしょうか?。」
「いえ!。やはり馬です!。騎兵隊を増強すれば勝てます!!。」
1年を掛けた研究を終え、最新案の提出に騎士団本部へ赴いた神道 未来中尉が見たのは、まさにそのような光景だった。まだ25にも満たない青年将校たちが押しかけてきては新戦術の提案(?)をしていく。それを苦笑しながらもしっかりと聞いてやる未来の上司、オーウェン・ルイス少佐。しかし、青年将校たちは未来が入って来たことにも気づかず討論を続けるため、流石に助けの目をオーウェンは未来に向けた。それを合図に未来は青年将校たちの肩を叩く。
「二人とも、少佐がお困りのご様子だよ?。」
「え!?。……しっ、失礼しました!、神道中尉!。」
「我々が失礼な真似を……すみません!。そっ、……それではこれで……。」
未来に肩を叩かれたことに、青年将校たちは一瞬驚いて居たが、未来の目を見てから慌てて部屋を後にする。彼らを見送った後、未来がオーウェンに向き直ると、そこには頭を抱えるオーウェンの姿があった。形の良い眉を顰めながら、しばらく考え込む仕草をした後、オーウェンも未来に目を向ける。
「未来。…………あれなんとかならない?。」
「俺にそう言われても……。」
未来も知っている。神道親衛隊なるものが青年将校の間で形成されてる話は。個人を崇拝する組織はあまり好ましくないが、特に何も問題は起こしていないので、上層部も多めに見ている。だが、…………正直言って迷惑極まりない。実際部屋を出て行った彼らも、未来に肩を叩かれた時目が光っていた。
「まぁ、監視は怠って無いし、何かあれば俺が責任をもって抑え込むよ。」
「ああ、それなら今からしてくれ…。毎日部屋に来られては埒が明かない。」
オーウェンの要請に、未来は略式の敬礼で答え、少し対策を考えた。少し考え込んだ後、未来は顔を上げる。そして持っていた分厚い書類を持ち直し、神妙な顔でオーウェンに向き直る。
「……少佐。」
「うむ、言ってみろ……。」
さっきまでの淡い雰囲気の雑談とは違う、どこか緊張した面持ちで未来は続けた。
「まず、長い間待たせたことお詫びします。少佐。そして、各国の兵器を視察した新型戦法研究の試み………見事に成功しました。」
「ほう…………。」
未来の研究していた新型戦法は、圧倒的な火力と機動力を持つ、……つまり現侵攻案の問題をまとめて解決する戦法だった。火力と機動力の両立は、全く新しい試みだったために、長い期間の出張となったが、その分何よりも完成した戦法だと未来は自負している。未来の心を汲み取ってか、オーウェンは澄んだ空色の目を細めながら問いかける。
「………今、この場で聞いても良いかな?。」
「はい……。」
オーウェンの質問に二つ返事で答えると、未来は机に歩み寄り、書類を机の上に置く、そしてそれを開き説明を始めた。未来の提案した戦法は、新兵器として期待を受けている自動車を中心とした、機動攻撃戦法だった。馬よりも高い走破性と、歩兵よりも速い機動性を利用した敵の迅速な包囲殲滅。これを主軸に最近開発中の新兵器、短機関銃を併用することで長大で入り組んだ塹壕の突破を試みる。そのためには、歩兵戦力もただ武装するだけでなく、山地の登頂経験や渡河経験などを積ませ、迅速に行動ができるようにする専用教育カリキュラムの作成など、ありとあらゆる必要事項をその書類に書き込んでいる。
「………簡単な概要は以下の通りです。詳細はこの書類をご覧ください。」
「なるほど。確かにこれなら機動的な攻勢を可能にしてくれるだろう……。だが、一つ見誤ってることがあるな。」
オーウェンは未来の自信気な説明を聞き、書類に目を通した後、すぐさまこの戦法の弱点に気づいた。最新・試作の文字が目立つ書類から目を離すと、オーウェンは不適な笑みを浮かべる。
「そうだな〜。一言で言えば…………信頼性だ。」
「信頼性…………。」
完璧にも見えた未来の戦法。その唯一にして最大の弱点は採用する兵器の信頼性だった。