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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第六章・宙海の恩寵編(前編)
99/117

クロハグループ

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 アカデミー生に与えられる週一度の休日。多くの生徒は、厳しい訓練による一週間の疲れを、次の一週間に向けてゆっくり(いや)す休養日に充てる。

 世間一般的な三年制の学校に通う学生は、国の定めによって基本的に休日は週に二日あるのだが、戦士を志すアカデミー生に二日間の休養は許されない。


 一年で卒業し軍に配属される彼らは、その一年の中で、きつく詰まった実技訓練や学業のスケジュールを消化しなければならず、さらに、そのような生活を様々な制限の下で送らなくてはならないため、あの日々が人生最大の地獄だったと語るアカデミー卒業生も少なくない。


 そんな彼らの貴重な休日。外出を考える者は少数なのだ。


「うん、今日も美少女」

 寮の自室の鏡に映る自分を見て、うっとりと見惚(みと)れる少女が一人。

 鏡の中には、金色の髪の毛を後ろで二つ結びにした、青眼の美少女の姿が映っている。

「やばい、起きるの遅すぎた」


 アルファ・クラス所属、クロハ。

 アカデミーにおける総合成績2トップの一角は、休日でも外出する少数派であった。


 クリーム色のショルダーバッグを肩に掛け、薄手の黒いカーディガンを羽織ると、急いで部屋から出る。アルファ寮のメインホールへと駆け出していった。



「ねえ~、今日どこ行きたい?」

「あんまり遠くには行けないし……、アカデミーって寮に門限あるのダル~い」

 クレネット・ガーベラの問いかけに対し、リリィ・コーンはその質問へ回答する前に、八併軍アカデミーへの文句を垂れる。


「まあ、遠出は夏季休暇に入ってからでも良いじゃない」

 不機嫌なリリィを(みやび)スミレはなだめる。


「なんで戦士研修って任意参加じゃないわけ? 教官に行きたくないって言ったらバチギレされたんですけど~」

「キャハハ、なにそれチョーうける! 現場見たかった!」

「うちがキレられてんのが、そんなに面白いかよ」


 キンキンと甲高い声で笑うリリィを、クレネットは冷めた眼差しで見つめる。

 雅は二人のやり取りを、まるでその場にいないかの如く、温かな眼差しで見守るだけだった。


 クレネット、リリィ、雅の三人は、アルファ寮のメインホールでもう一人の到着を待っている。

 休みの日は、四人でどこかへ出かけるのが彼女たちの日常だった。


「ごめん、遅れた。めっちゃ寝坊した」

 クロハがメインホールに到着し、全員が揃う。


「クロハ遅いよ! あたしら、もう先に行っちゃおうって話してたから!」

「うちは前回遅れたから、今日は許すっしょ」

「それじゃあ皆揃ったことだし、行こっか!」


 彼女たちはアルファ・クラスが抱える問題児四人組、通称クロハグループ。

 四人の中で比較的まともな雅を除けば、無断欠席に無断欠課、アカデミーの規則破りや寮の(おきて)破りなど、日頃の生活態度に難がある。

 (たち)が悪いことに全員が成績トップランカーであり、教官たちは彼女らの規律を乱す身勝手な行動に頭を抱えていた。



 八併軍。言わずと知れた、世界各国の軍事力が結集する連合軍隊。

 その本部は中心球のカイト・エリアに位置し、巨大な本部に付随する形で、広大な珍獣園、アカデミーが併設されている。


 カイト・エリアにおいて、八併軍本部、珍獣園、アカデミー、アカデミー生の寮、戦士たちの住居、研究施設など、八併軍に所縁(ゆかり)あるこれらの建築物や施設が密集している地帯を「戦士の聖地(ウォーリアー・ランド)」という。


「やっぱ遠出は無理って言っても、『戦士の聖地』からは出ないとね~」

「当然、あの中で何ができるっての」

 外の景色を眺めながら呟くリリィに、クロハは横になりながら答える。


 現在クロハグループは、円形の本体にガラスのドームで搭乗者を包む「カプセルキャリー」に乗って、八併軍アカデミーから遠ざかっている。


 カプセルキャリーは、理の国・イアに本社を置く、空路タクシー会社「Ku-ro」が手掛ける最先端移動交通機関である。

 カイト・エリア全域にカプセルキャリー専用のルートが張り巡らされており、空路タクシー同様に運転手を要しない。さらに、機内には弾力のあるソファーが円形に並べられており、ホテルのようにくつろぐことができる。


「シフォンケーキ食べん?」

「いいね、注文しよ!」


 最大の魅力は、機内サービスのデリバリーシステムだ。

 ガラスに浮かび上がるホログラム画面には注文メニューが表示され、注文してしばらくすると、中央のテーブルにその品が「瞬間転送」で送られてくる。


「Ku-ro」は今後、この最先端交通サービスを中心球全土に普及させ、中長期的には全世界に普及させる見通しである。

 専門家の中には、空を空路タクシーが、陸をカプセルキャリーが走り回り、世界の交通が「Ku-ro」に支配される日もそう遠くないと唱えている人もいる。


「行き先決まったっけ?」

「まだ~。ねえ、みやびん、うち新しくできたショッピングモール行きたい」

 リリィが解決していない目的地問題について提起する。

 クレネットは皆の取りまとめ役である雅に、自分の希望の行き先を伝えた。


「何買うの?」

「服、研修に着て行くやつ」

「クレネっち、戦士研修は制服だよ」

「マジ!? ガッビーン!!」


 クレネットは自ら効果音を奏で、カプセルキャリーの床にヘロヘロとへたり込む。

 オシャレやデコレーションなどの趣味を持つ彼女には、厳しい規則の下で、代わり映えのないアカデミー生活を送ることは、味気がなく退屈なものだった。


『なんで戦士研修って任意参加じゃないわけ? 教官に行きたくないって言ったらバチギレされたんですけど~』

 こういった態度を取っているクレネットだが、実際のところ、四人の中で一番戦士研修を楽しみにしていたのは彼女であった。


 しかし、制服着用という事実を雅から聞かされ、クレネットは確信する。

 一般学生にとっての修学旅行とは違い、アカデミーの戦士研修が、あくまで縛りの厳しい日常の延長線上のものでしかないということに。


「なんだよ? アカデミーの規則なんてとっくに破ってんだから、戦士研修でも守る必要ねえだろ? ネイルしてたり、カバン奇抜にしてたり。制服じゃなくてももう良いんじゃねえの?」

 クロハは、すでに何度も指導に引っ掛かっているクレネットが、今更規則に怯える理由が分からなかった。


「それは無理っしょ! 制服まで変えたら、うちだけ仲間外れになっちゃうじゃん!」

「……めんどくさ」

 個性を出したがるも異端になり切れないクレネットに、クロハは(あわれ)みの眼差しを送った。



 カイト・エリア、「戦士の聖地」付近の町「衛星町」―――


「へ~、イア名物の『神ダレつけ麺』。今日オープンだって、美味そうじゃね?」

 人通りの多い町の通りで、新築のつけ麺屋がクロハの目に留まる。


「良いんじゃない? 行ってみる?」

「あたしも賛成!」

 雅もリリィも、つけ麺屋の入店にポジティブな反応を見せる。


「うち、昨日麺だったんだよなー」

「クレネっち、うるさい行くよ」

「なんか酷くね~?」

 若干ネガティブな反応を見せたクレネットだったが、結局リリィに押し切られ、入店を余儀なくされる。


「店主のおっさん! おかわり頼んます!」

「メーちゃんもお願いします!」

「僕も、良いですかっ?」


 店内は広々としており、複数の四人席が用意されているほか、カウンター席もある。

 そのカウンター席には、既に四人の先客がいた。


「あの、僕もお願いします!」

 見覚えのあり過ぎる紺色の髪と鼓膜(こまく)によく馴染む声が、クロハの目と耳に飛び込んできた。


「うーわ、あいつかよ」

 クロハはげんなりとした表情を作ると、一瞬店に入ることを躊躇(ためら)う。


「へい、いらっしゃい! 四名様ですか? 空いてる席へどうぞ!」

 上機嫌で親しみやすい笑顔を来客四人に向けた店主は、右手で店の中全体を指し示す。

 オープンしたての店内は、カウンター席の四人以外には客がおらず、四人席を選びたい放題であった。


「ねえクレネっち、あれってイプシロンの生徒じゃない? アカデミー最下層の。キャハハハ!」

「マジ~、できれば同じ空気で飯なんて食いたくないんですけど~」

 リリィとクレネットは、店に入って先客四人を見かけるや否や、喧嘩を吹っ掛けだす。

 和やかだった店内の空気が一瞬にしてピリつき出す。


「……おい、上手いつけ麺がテメーらのせいで不味くなっちまったじゃねーか。どうしてくれんだよ?」

「メーちゃんの食事を邪魔するやつは、何人たりとも許さん!」

 銀髪の大柄な青年がカウンター席の机を叩き、ゆっくりと立ち上がる。

 隣に座っていた赤毛の少女は、ワンテンポ遅れる形で、足の長い椅子からピョンと飛び下りる。


 リリィとクレネット、メンコとタツゾウは、二対二でお互いを睨みつける。

 店内であるにもかかわらず、その場に一触即発の雰囲気が漂った。


「おいおい、やるなら外でやってくれよ! こちとらオープンしたばかりなんだよ、頼むよ!」

 店主が慌てて厨房(ちゅうぼう)から現れる。

 開店してこれからという時に、変な騒ぎを起こされるのは、彼からするとたまったものではなかった。


「二人とも余計なこと言わないの、失礼でしょ。お食事の邪魔をしてごめんなさい。私たちは別のところで済ませるので」

 宙でぶつかり合う視線の間に、雅が割って入る。


「いえいえ、こういうこと言われるのは慣れっこなんで、大丈夫ですよっ。タツゾウ、メンコ、謝ってくれてるしもう良いでしょ?」

 クロハグループ唯一の善心である雅の行動を受け、サニはタツゾウとメンコに席に戻るよう言った。


「じゃあ皆、出よっか」

 雅は店の出口へ向かおうとした。


「待て、みやびん。話がある奴がいる」

「クロハ?」

 これまで一言も発さなかったクロハが、突如として声を出す。

 そして、戸惑う雅を放置しカウンター席に近寄っていく。


「おい」

「ひいいい!!」

 店内に突然訪れた緊張感に、動くことも声を出すことも、振り向きさえもしなかった紺髪の少年の肩に、クロハはそっと手を置く。


「ずっと思ってたんだよな、お前はアカデミー生に相応しくないって」

「そ、そうかもね、あははは……」

 力なく笑う少年に、少女は話を続ける。


「アカデミー辞めろよ。戦士なるの諦めろよ。イライラするから」

 可憐(かれん)な少女は淡々と告げる。少年はうな垂れ沈黙(ちんもく)した。


「…………、ごめんクロハ、辞めるのは、できないよ」

 少しの間の後、少年は言葉を(しぼ)り出す。少女の出す圧に屈せず言い切った。

 クロハは面食らう。目の前の少年が彼女に反発するのは、本当に久方ぶりだった。


「お前、戦士研修はどこ行く?」

「え……、レンジャー師団のところだけど……」

「私と同じだな」

「うっ……」


 二人の間に気まずい沈黙が落ちる。

 そしてその空気が伝播(でんぱ)するように、周囲の人間からも言葉を奪った。


「……私と勝負しろ。お前が負けたらアカデミー辞めろ」

「へえっ!?」

 いきなりの横暴すぎる提案に、ソラトは()頓狂(とんきょう)な声を上げた。


「勝負って、何するの?」

「戦士研修には、参加者がクリアすべき達成目標があるらしい。それで勝負する。詳しいことはその場で決める」

 クロハは、すでに決定事項だと言わんばかりに一方的に勝負の内容を告げると、ソラトの返事を聞くこともなく、退店すべく出入口へ歩みを進める。


「何勝手にそんなこと決めてんだよ! そんな勝負、ソラトに受ける義理なんてねえだろ!」

「イプシロンの凶星(きょうせい)、いずれお前とも決着つけねえとな」


 一瞬歩みを止め、憤慨(ふんがい)するタツゾウを横目で一瞥(いちべつ)すると、クロハは再び歩き出す。

 そこからはもう振り返らなかった。


「イプシロンのくせに、アルファのあたしらにたてつくなんて、生意気じゃない?」

「それなー、イプシロンはうちらアルファの言うことに『はい』って言ってりゃ良いっしょ」

「イプシロンだの、アルファだの、そんなにお前らが偉いのかよ!」

「アルファなんて、べーっ!」

 リリィとクレネット、タツゾウとメンコはいがみ合う。


「ほら、行くよ二人とも」

 雅が、ムキになっているリリィとクレネット二人の腕を掴み、後ろ手に引きながら先行するクロハを追う。


 クロハグループ四人はつけ麺屋を後にした。

 店内には嵐が去った後のような静けさが訪れる。


「なんだよあいつら! ムカつくの極みだぜ!」

「イプシロンの方がアルファより成績良いもん! ホントだもん!」

「メンコちゃん……、さすがにそれは嘘すぎるかなっ」

「あわわわ……、ついに、ついにクロハに目を付けられちゃったよ、どうしよう……」


 カウンターのテーブルを思い切り叩くタツゾウ、息をするように嘘をつくメンコ、それを流さずに指摘するサニ、ひとり青ざめてクロハの圧に怯えるソラト。


「はいよ、おかわり四人分」

 そんな彼らに、店主は何事も無かったかのように替え玉を出す。

 そして、天井をふと見上げ、物思いにふけった。

「若いって良いなあ……」

お読みいただきありがとうございました。

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