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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第五章・紅茶会編
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雨森ソラトVS痣小路拗太

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 聞こえる。流れが聞こえる。

 戦士貴族たちの高貴なる熱狂が、会場を包み込んでいる。

 視界では見えないが、流れによって画が浮かび上がってくる。


「ふーっ」

 集中を切らさない。出来るだけ細部まで、流れを汲み取る。

 納得がいったところで目を開ける。


「よし。行くよ、カブ太」

「かーふっ!」

 カブ太は昨日の夜からやる気満々だ。

 昨日の夜と違うのは、僕の闘志が燃え上がっていることだろう。こんな(たかぶ)りを感じるのは初めてかもしれない。


 タキシード姿から、いつものアカデミーの真っ白な制服に着替える。

 お家交流戦では、その参加者の所属を示す制服を着用して戦うことが原則らしい。


 僕は自分の番が来るまで、アールグレイ家に貸し出された個室で待機することにした。

 理由は、他の人の戦闘を見ないため。

 ただ、これは怖いからじゃない。自分の試合に集中するためだ。


 これまでの人生、勝負の場で勝利したことなんて、僕の記憶では一度もない。

 今迫ってきている自分の正念場に対して、不安はもちろんある、緊張ももちろんある。

 でも、今回はそれに向けて、ちゃんと準備してきたという自信もある。


 胸を張って個室から出る。

 相手に弱弱しく見られないことも大切です、と畠中教官は言っていた。


「あ! 見~つけた!」

「メンコ!?」

 ドアを開けた瞬間、目の前を通り過ぎたメンコが振り返って僕に気付く。


「応援に来たよ! ソラト!」

 薄桃色の可愛らしいドレスに身を包んだ彼女は、ニイッと真っ白な歯を見せて屈託のない笑顔を浮かべると、廊下の奥に向けて大声で叫ぶ。

「タツゾーウ! サーニー! ソラトいたよー!」


「おっ、マジか! ナイス!」

「良かった、見つかったんだねっ」

 メンコの呼び声に、タキシード姿のタツゾウとサニ君が飛んでくる。三人のその恰好は、なんと言うかとても新鮮だ。


「ソラト、俺たち応援してっからな! 負けんなよ!」

「一人じゃないってこと、忘れないでねっ!」

 タツゾウとサニ君の言葉に、勇気が湧いてくる。


「ありがとう! 僕、頑張ってくるよ。ううん、勝ってくる」

 僕が二人に感謝と意気込みを伝えたところで、唐突にメンコが両腕を掴んできた。

「えっ!?」

 驚き声を上げる僕をそっちのけにして、さらにメンコは額を僕の胸に押し当てる。


「これ、メーちゃんの生まれ故郷の、『大丈夫』のおまじない。ソラト、良いことあるよ」

 なんだか心が温まる。

 うん、確かに大丈夫だ。そんな気がしてくる。


 勝ちたい。

 ここまで来て、僕を勇気づけてくれた皆のために。

 勝ちたい。

 ここまで指導してくれた畠中教官のために。彼を見返すために。

 絶対勝ちたい。

 僕の未来のために、理想の戦士になるために。



 薄暗い控え室のベンチで、僕は手を組んだまま前傾姿勢で出番を待つ。

 時折大きな歓声が聞こえてくるが、全く気にならない。なんだかすごい感覚だ。僕が持つ五感の、いや第六感も含めた全神経が、次に行われる自分の試合に注がれている。


 頭の中では、痣小路君の必殺の一撃が、何度も僕を葬り去る。

 でも、決して悪いことじゃない。勝利するための道筋をイメージの中で組み立てているのだ。


「調子は良さそうですね。さっきまでとは大違いです」

「はい、早く試合がしたいくらいです」

「ふん、未熟者が一丁前なことを言わないでくれたまえ。ただ、気持ちが前向きなのはよろしい」

 畠中教官の僕への対応はいつも通りだった。いつも通り、素直に褒めてくれたりはしない。


 前の試合はあとどれくらいで終わるだろうか。

 僕の出る試合は一回戦の最終第四試合で、出番までに結構待ち時間があった。


「今日の敵は誰ですか?」

「えっ? ……痣小路君です」

 当たり前のことを突然聞かれて、少し答えるのが遅れた。


「違います。それは対戦相手です」

「……?」

 じゃあ、答えは何だと言うのだろうか。


「君の敵は、いつだって君自身です。君が挑戦することを決断し、それを君が阻むのです。君の限界を設定するのは、君しかいない。君の限界を設定しないのも、君しかいません」


「……僕だけは、僕を信じ切ってみせます」

「気張りたまえ」

 その言葉を残して、畠中教官は僕より先に、控え室から戦闘場の方へと出ていった。


「お待たせ致しました。これより一回戦、最終第四試合を行います」


 鉄格子ゲートの隙間から薄暗い控え室に差し込む光。

 その先で、戦士貴族たちによる大歓声が上がる。


「『痣小路拗太』対『雨森ソラト』」


 鉄格子が重く上に持ち上がっていく。

 両頬を叩いてゆっくりとベンチから立ち上がり、戦場へ向けて真っ直ぐに歩みを進める。

 さあ、勝負どころだ。僕の全てをここにぶつける。


    ◇


 今日四人目となる四天王家の代表者の入場に、会場は大きく沸いていた。


「拗太さま~! こっち向いて~!」

「痣小路く~ん! がんばって~!」

 ギャラリーを飛び交う黄色い声援に向け、痣小路家代表者は微笑みかける。


「「「キャー!!」」」

 割れるような歓喜の声が、闘技場全体に響き渡った。

 痣小路家長男・痣小路拗太は、八併軍の戦士顔負けの実力とその秀でたルックスで、他家のご令嬢たちを虜にしている。


「四天王家、痣小路拗太。彼の戦いは見物ですね。レイア嬢に隠れてはいますが、彼も間違いなく剣の天才だ」

「アカデミー卒業後には是非とも、ナイト師団の我が第11部隊に入隊して欲しいものだ」

 現役の戦士たちからも注目を浴びる痣小路拗太は、たびたび卒業後の入隊先についてスカウトを受けている。それほどまでに、彼は即戦力として有望な人材であった。


 珍獣「ガーゴイル」をすでに装備化し、長刀の珍獣装備を腰に携えた痣小路は、腕組み姿勢で対戦相手を待ち構える。


 痣小路よりも少し遅れて姿を現した紺髪の少年は、真っ直ぐに対戦相手の前まで来ると、そこで足を肩幅に開いた状態で静止した。平常を画に描いたような登場である。

 彼は、契約した珍獣「巨人カブ」の幼体を一本の剣へと変化させ、背中に携えている。


 しかし、彼の背中には、その珍獣装備と十字に交差するようにして、もう一本の剣が備えられていた。

「ダブルブレードか」

 痣小路はボソリと呟く。


 アールグレイ家伝統の「火崋山双剣流(かかざんそうけんりゅう)」。

 二本の剣を用いて戦う、アールグレイ家が後世に残すべき、絶滅を危惧される剣術である。


「アールグレイ家が誇る、火崋山双剣流。やはり次の継承者は見つかっていたのか!」

「もう見られないと思っていたけど、また見られるのか」


 話題になっていたアールグレイ剣術の継承者に、会場はざわつきを見せる。

 しかし、そのざわつきはすぐに別のものへと変化した。


「あいつのマナ、めっちゃ小さくね?」

「ここまで矮小(わいしょう)なマナは見たことがない。アールグレイ家当主殿は、本気で彼に継承を?」

 膨大(ぼうだい)なマナの総量を誇示(こじ)する痣小路拗太に対して、アールグレイ家代表者のごく僅かなマナの量を見た戦士貴族たちは、畠中の正気を疑う。


「ねえサニ、なんで皆こんなに騒いでいるの?」

「ソラトのマナが小さすぎるからかなっ」

「小さかったらダメなの?」


「マナの大きさは、その戦士の強さと言っても過言ではない程、戦いの行方を左右する重要な要素なんだよ。戦士貴族の武術の継承者が、あのマナの大きさなことは、まずありえないからね」

 ギャラリーにて、メンコの質問にサニは、この事態がいかに異常であるかを答える。


「ソラトには申し訳ないけど、常識的に考えて、彼のレベルでは戦士貴族の継承者なんて務まるはずがないんだ」

「ふーん、じゃあ、マナの大きい方が絶対に勝つってこと?」

 メンコは、素朴な疑問と共に純粋な瞳をサニに向ける。


「いや、そうとは限らないさっ。あくまでその可能性が高いだけ。マナの大きさだけで勝敗が決してしまうなら、この勝負をする意味は無いよねっ」

 そう言って、サニはメンコに微笑みかける。


「ま、今からそれをソラトが証明してくれるはずだぜ。あいつがどんな戦い方するのか、俺も楽しみだぜ!」

「そっか、そうだよね! ソラト、勝てるよね!」


 タツゾウは、ソラトの普段とは異なる雰囲気を敏感に感じ取り、これから行われる彼の試合に好奇心を向ける。

 メンコも、サニとタツゾウの言葉で、勝負が既に決したものではないことが分かると、ほっと胸を撫で下ろした。


 ピーッ。

 バトルボックスが戦闘場全てを覆うように展開される。八併軍アカデミーにあるものと同様のものである。


「逃げずに来たことは褒めてやろう、イプシロン。だが、君の褒められるところはそこだけだ。君のような劣等なる者が、アールグレイの剣術を使おうなどと……、恥を知るが良い」

 痣小路は眼前の対戦相手を、声と目だけで威圧する。


「認めさせてみせます。畠中教官にも、痣小路君にも」

 ソラトは、痣小路の威圧感に全く動じた様子を見せず、真っ直ぐな透き通る瞳で相手を見据える。


「それでは、両者構えて」

 畠中の掛け声に、同じ真っ白な制服を纏った二名は、開始の合図に備えて武器を構える。


 痣小路は腰に携えた長刀を引き抜き、柄を両の手で掴むと、刃の先端をソラトに差し向けたまま自身の顔の右側に近づけ、腰を軽く落とした。

 対するソラトは、背中にある二本の剣のうち珍獣装備のみを取り出し、両手で前方に構える。


「開始」

 淡々と告げられた開始の合図に、痣小路が即座に反応する。


「悪いが、前のように観客を楽しませるショーを行うつもりはない。すぐに勝負を決めさせてもらう」


 動きを見せないソラトに対し、痣小路は最初の構えから長刀の刃先を右下方に落とし、一瞬で斬撃圏内まで迫る。

 体の下方から振り上げた刃が、天を真っ二つに斬り割くような弧を描き、相手の首元目掛けて空を切る音を奏でる。


『痣小路式剣技・天断ちの弧剣!!』


 痣小路必殺の一撃が、雨森ソラトに迫る。

 痣小路本人とギャラリーにいる戦士貴族たちの誰しもが、この勝負は決したと確信した。

 しかし、試合は痣小路が描いていたシナリオ通りには進まなかった。


「なんだと!?」


 ソラトは痣小路の予想を上回り、彼の一撃を見事防いでみせた。

 斜め上から来る剣筋を、珍獣装備で下方から上に叩きつけて弾き、自身はしゃがみ込んで回避。

 以前とはまるで違う動きを見せる対戦相手に、痣小路は大きく狼狽(うろた)えた。


 これだけに留まらず、痣小路はソラトのさらなる異変に気付く。

 彼の背中にあったはずのもう一つの白刃が見当たらない。


 気づいた時には手遅れだった。

 痣小路は慌てて後ろに回避しようとしたが、間に合わない。


 シュルシュルシュル。

 ソラトの背後の地面から、何かしらの植物の根が出現していた。

 その根が人の手のように剣の柄に絡みつき、しゃがむソラトの上を通り越して刃を前方に振るった。


 ザシュ!

 痣小路の胸から腹のあたりを斜めに切り裂く。


 同時に、バトルボックスがダメージを計測し、会場に備え付けられてあるモニターに、痣小路が受けたダメージが記録、表示される。

 この試合、最初に相手にダメージを与えたのはソラトだった。


「「「ええええええーーーっ!!」」」

 想定外の事態に、観客席からは驚嘆の声が上がる。


「よっしゃー! ナイスだぜ!」

「いいいやったー!」

「すごいよ、ソラト」

 タツゾウ、メンコ、サニの三人は、観客席にて脇目も振らずに歓喜の声を上げる。


「なにーっ!? 何をしているんだあいつは!!」

 痣小路捻三(ねんぞう)は、四天王家専用観戦席から立ち上がり、自慢の息子の失態に困惑が隠せない。


「そんなどこの馬の骨ともわからん奴に、うちの拗太が一太刀浴びるだと!!」

「ほっほっほっほ、面白くなってきたのう。あまり注目していた試合ではなかったんだがのう」

 頭を抱えている捻三を他所に、龍印寺岩丈助(がんじょうすけ)は優雅に試合の行く末を見守る。


「何かが起こりそうね」

「さすがに痣小路拗太による一方的な展開になると思っていましたが、少しわからなくなりました。私としては、どちらにも勝って欲しくありませんが……、気に入らないので」

 闘技場の陰から試合を覗くレイアとファナも、この意外な展開には若干の反応を示した。


 これまで戦士貴族たちが作り上げてきた波が、僅かな乱れを見せる。


「イプシロンの分際で……、凡衆(ぼんしゅう)の分際で……、この俺を本気で打ち負かそうと言うのか」

「痣小路君は強いから、僕の全身全霊を懸けて勝ちに行きます!」

お読みいただきありがとうございました。

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