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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第五章・紅茶会編
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全クラス合同訓練

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「明日の戦闘術は全クラス合同で行う。模擬戦闘の組み合わせも、他クラスの者同士で組ませるため、そのつもりでいるように」


 本日の全授業が終了し、全員が教室に集まったところで、炎天教官がいつも通り明日のおおまかなスケジュールについて伝える。

 その衝撃的な内容に、教室中がざわつき始めた。


「俺たちが他クラスと!?」

「それってもう公開処刑じゃんよ! 恥晒せってことじゃんかよ!」

「はぁ、私たちが勝てるわけないじゃない……」

「う~わ、最悪だ~」


 皆、上の実力者と戦って恥をかきたくないのだ。

 だから、明日の戦闘術の授業は僕だけに限らず、イプシロン・クラスの全員にとって憂鬱なものになった。


「これ以上ゴタゴタ抜かすようであれば、タツゾウと共に罰を受けることとなる! 希望する者は存分に騒ぐがいい!」

 教官のその言葉が、教室の喧騒をピシャリと止める。


「それと、使用する武器は特殊装備のみとする。自分の特殊装備を見つけていない者は、即刻見つけ出し、明日の授業までに用意しておくことだ」


 教官の威圧的な眼差しが、僕に向けられる。

 この中で未だに自分の相棒とする珍獣が見つかっていないのは僕だけだ。これは僕だけに向けられたメッセージなのだ。


「文句は無いな。連絡事項は以上だ。絶対に遅れるなよ!」



 僕はアカデミーから寮へと帰る前に、メンコやサニ君と共に、八併軍が所有する「珍獣園」へと足を踏み入れる。

 珍獣園は、捕獲してきた珍獣たちを保護している広大な自然公園のような場所だ。八併軍に所属する人間しか入ることが許されず、アカデミー生は授業で「使う」珍獣を、この珍獣園で選ぶのだ。

 皆平然と利用しているが、正直に言うと僕はここが苦手だ。なんだか、とても悲しい気持ちになる。


 人の手が加わった自然なだけあって、草木が生い茂る中でも、人が通れる程度には道が整備されてある。

 歩きながら見かける珍獣たちは皆大人しく、出くわした中には危険そうな種もいたが、一匹たりとも僕たちに襲い掛かっては来なかった。


「見つかんないねー。メーちゃんがソラトの特殊装備になってあげよっか?」

「メンコ、僕は今真剣なんだ……」

「メンコちゃん、おふざけも程々にねっ」


 メンコの茶化しを許容できないくらいには焦っている。

 彼女とサニ君にも相棒の珍獣探しを手伝ってもらっているのだが、進捗は一向にない。


「はぁ……」

 不可能だ。今日中に自分と適合する珍獣なんて見つかりっこない。

 これもマナ系譜「無」の弊害なのだろうか。


「まあ安心しなよソラト、明日が怖いのは何も君だけじゃないんだよっ」

 サニ君も、僕や他のクラスメイトと同様に、明日の戦闘術に恐れを抱いているようだった。


 彼は戦闘術の成績に関して言えば、アカデミー最下位を誇る僕が評価するのもなんではあるが、良いわけでもなく悪いわけでもないと言ったところだろう。

 しかし、座学の点に関して言えば結構酷いものだ。僕と良い勝負をしている。

 爽やかイケメンで誰にでも優しく、皆をまとめられるリーダーシップを持つ。そんな完璧人間っぽい彼から飛び出てくるテストの点数とはとても思えない。なんと言うか、彼のキャラクターに合っていない。


「なんで? メーちゃんは楽しみだよ!」

「メンコちゃん、君だけでもその心意気は保っておいてくれよ。そうでないと、僕たちイプシロン・クラスは明日、沈みに沈んでしまうからさっ」

「海に?」

「違うよっ」


    ◇


 アカデミー中央、実技演習場にアカデミー生全員が集められる。

 アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンのクラスごとに列を作り、それぞれのクラスを担当する5人の教官を前に据える形で並ぶ。


「オホンッ! それでは自己紹介からする。イプシロン・クラスを受け持っている炎天カズキだ。俺が、今日の合同訓練全体の指揮を取る」

 僕らはよく知っている炎天教官だが、他クラスの生徒からすると、普段関わりのないイプシロン・クラスの担当教官ということもあり、知らない人も多いだろう。


「皆の衆が入学して一か月、自分のアカデミーでの立ち位置や周りのレベル感など、様々なことが分かってきた頃合いだろう。この時期に全体での合同訓練を行うことで、どのクラスにとっても良い刺激になるのではと考えている」


 はたして、僕は対戦相手になる人に対して、良い刺激を与えられるだろうか。

 絶対無理だ……。クラス内ですらあの有様なのに……。


「それでは早速、一対一形式の模擬戦闘訓練を開始する。一旦全員ギャラリーに移れ。呼ばれた者は、前に来るように」

 学年全員が一度、実技演習場の中央を囲う形で配置されたギャラリーへと移動する。どうやら、そこから名前を呼ばれた人が前に出て模擬戦を行うらしい。


「四組、八人の名前を呼ぶ。開始の合図で、前に出た四組は戦闘を開始しろ」

 中央を四つのフィールドに分け、四組が同時に模擬戦を行う形式のようだ。四つのフィールドには、それぞれ「バトルボックス」が展開されている。


「アルファ・クラス、麗宮司レイア。ベータ・クラス、烏間(からすま)焔児(えんじ)


 あっ、レイアさんだ。

 彼女はこのアカデミーにおける首席である。座学・実技ともに一位の成績を誇るスーパー優等生だ。

 学業や武術鍛錬に励む積極的な姿勢などが、教官たちからも高く評価されており、八併軍総督の娘と言うこともあってか、入学式の新入生代表挨拶も彼女が行っていた。

 完全無欠、才色兼備、これらの言葉は、彼女のような人のためにあると言えるだろう。


「キャー!! レイア様ー!!」

「応援してます!! がんばってー!!」

「おい、今目があったぞ! 俺と目が合った!!」

「えっ、良いな~! こっちも向いて~!!」


 男女問わず、皆の注目の的はもちろんレイアさん。アイドル顔負けの大歓声。

 そういえば、アカデミー試験の仮試験で彼女が登場した時も、こんな感じだったっけ。


「おーおー、すんごい人気、やりずれー」

 黒髪の前の一部分だけに灰色メッシュをいれた烏間焔児は、レイアさんに対してそう告げる。


「全力で行くぜー。あんたのプライドをズタズタに引き裂いちまうかもしれないけど、許してくれよな」

 そう言う烏間君の頭上では、巨大な怪鳥が翼をはためかせ、空を気持ちよさそうに飛行していた。

 大鳥の体は黒く、カラスのような見た目をしているが、大きな(くちばし)から牙を覗かせており、広げると3メートルほどある翼は紅に染まっている。


「当然です。出せる力をすべて出し切り戦う、それが相手への礼儀ですから」

 烏間君の言葉に全く動じないレイアさんの傍らには、色素の薄い女の人が立っている。

 薄ら寒い水色の髪に、肌は青白く、真っ白な着物を纏っている。まるで幽霊を見ているかのようだ。


「ユキメ、準備は良いですか?」

「はい、レイア様。ユキメはいつでも臨めます」


 あのやり取りから察するに、あの女の人はレイアさんの珍獣だ。

 しかし、その容姿も相まって、僕がこれまで見てきた珍獣と同じとはとても思えない。

 あれがレイアさんの珍獣……。あれではまるで、人と同じだ……。


 炎天教官が四組全ての対戦者の名前を読み上げ、位置に着かせる。

「それでは、両者構えて……」

 教官はその掛け声で、バトルフィールドにいる八名を戦闘態勢へ入れさせる。

 会場の多くの視線は、僕を含め、麗宮司レイア対烏間焔児に奪われている。

「開始!」


「珍獣装備『カルーラ』!!」

「珍獣装備『雪女』」


 二人がそう叫ぶと、珍獣カルーラと雪女が光に包まれ、その姿を武器へと変える。

 烏間焔児は、カルーラを両手で抱える火炎放射器へ。

 レイアさんは、雪女を真っ白な剣の姿へと変容させ、対戦相手のいる前方へと構える。相も変わらず隙が一切なく、綺麗なフォームだ。


 ボオオオオオオ!

 烏間君が、手に持つ火炎放射器を開始早々噴射させる。

 その炎は一瞬にして、対戦相手を飲み込んだ。


 レイアさんは、炎の中で剣を上段に構え、一瞬で前進して火の中から抜け出すと、烏間君の横を素通りする。その時には既に剣は振り下ろされている状態だった。

 直後、烏間君の体が揺れ、地面にうつ伏せに倒れる。


 パキキキン!

 遅れてバトルボックス内が凍り付く。

 会場の大画面に表示されている、烏間焔児の体力ゲージが一瞬でゼロになる。

 レイアさんの勝利、そして烏間焔児の敗北だ。


 歓声が沸き起こる。

 僕はこれでレイアさんの戦闘を見るのは二回目になるのだが、やっぱり彼女の動きを目で追うことはできなかった。


「ヤバすぎだろ……」

「全く見えなかったぞ……」

 僕の近くで観戦していたクラスメイトが、驚嘆の声を漏らす。彼らも僕と同じで、あの場で起こった現象を視認できていないようだ。


「キャー! レイア様ー!」

「さすがの剣筋、目で追うのがやっとだったぜ!」

 他クラスの人達の声が偶々(たまたま)耳に入ってきた。

 なんと彼らの中には、レイアさんの剣筋を視認できた人もいるらしい。


「彼女を最初に持ってくるのって、間違っていると思うんだよねっ」

 隣に座るサニ君が順番について意見を述べる。

 それは尤もだ。レイアさんが一番に出てしまったら、それ以降の人達にプレッシャーが掛かってしまう。


「レイアって、やっぱりチョー強い!」

 メンコは目を輝かせてバトルフィールドを見つめる。

 レイアさんのことを敬称なくして名前を呼べるのは、彼女を含め数えるほどしかいないだろう。


「帰りたい……」

 やっぱり僕がこんなところにいるなんて場違いなんだ。ボッコボコにされて、その上で醜態を晒されるに違いない。

 このような僕の弱気な発言に対して、いつも明るく励ましてくれるタツゾウは、いつも通り遅刻で罰を受けている。


 それから無慈悲にも時間は進んでいった。

 いろんな珍獣の異能が、遺憾なく発揮される様を見て、緊張と恐怖で僕は震えが止まらなくなってしまった。

 模擬戦が進行していくにつれ、イプシロン・クラスの皆も当然呼び出されていく。そして、上位クラスの生徒たちにコテンパンにされて帰ってくるのだ。


「そんなっ!?」

「ぎゃああああああ!!」

 それはサニ君やメンコだって同じだ。他クラスの実力者に、完膚(かんぷ)なきまでに叩きのめされてしまった。


「さすがはイプシロン、手応えねえな~」

「デルタとイプシロンで実力にかなりの差があるし、もうあいつらいても無駄だから、退学にして良くねえか?」

「絶対戦力にならないし、優秀な人が出てくるとも思えないわよね」

 言いたい放題言われている。しかし、僕たちには言い返す気力も、見返すだけの実力もない。


「アルファ・クラス、痣小路(あざこうじ)拗太(ようた)。イプシロン・クラス、雨森ソラト」

 ついに僕の名前が呼ばれる。体がビクンと跳ねた。


「へっ!? アルファ・クラス!?」

 対戦相手のクラスを聞いて驚愕する。今までイプシロンのクラスメイト達は、デルタ・クラス、あってもガンマ・クラスまでしかマッチしていなかった。

 ここに来て、僕がアルファ・クラスと戦うの!? お、終わった……。


「おい、アルファとイプシロンが戦うらしいぞ!」

「ははは! おいおい、そんなの見てくださいって言ってるようなもんじゃねーか」

「こーれーはー酷い! 希望を潰しにかかってやがる!」

 最悪なことに、最上位クラスと最下位クラスのマッチとなったことで、大勢の注目を集めてしまった。


 震えながら中央に向かう。人の群れを抜けた瞬間、大勢の目が僕の方に集まってくる。

 四組戦う組み合わせがあるとはいえ、今会場の視線は僕対アルファ・クラスの痣小路拗太に釘付けだ。注目が分散することは無い。


 自分のバトルボックス内に踏み入る。相手はすでにそこに立っていた。

「挨拶は?」

「よ、よろしくお願いします……」


 僕の相手、痣小路拗太はすごく態度の大きな人だった。

 暗い紅紫色の長髪を後ろで束ね、白い制服のポケットに手を突っ込み、ニヤニヤとした表情をこちらに向けてくる。


「今、君はなぜ俺が挨拶を返さないのかと疑問に思っているだろう?」

「えっと……、はい……」

「なぜなのか。それは俺が君に勝る戦士だからだよ。君のような光の当たらない人間と、この俺が戦ってあげるんだ。君が俺に敬意を払うことはあれども、俺が君に敬意を払うことは無いんだよ」


 彼の胸辺りにあるアルファ・クラスのバッジが、金に輝いている。僕の付けている青のバッジとは違い、光沢があり、彼の持つ才能を誇示している。

 そして、連れている珍獣を見ても、僕と彼の差が一目で分かってしまう。


「いくぞ、ガーゴイル。(ひね)り潰してしまおう」

「ガルルルル、ゴルルルル!」


 痣小路拗太の連れているくすんだ青の珍獣「ガーゴイル」は、体長が平均的な成人男性よりも高く、悪魔の翼を広げ、真っ赤な鋭い爪、白く輝く鋭い牙を剥き出しにして威嚇(いかく)してくる。


「ごめんね、カブ太。こんな怖い思いさせちゃって」

「かふぅ……」

 肩に乗るカブ太が、その小さな体を震え上がらせる。


 僕は、自分の相棒の珍獣としてカブ太について来てもらった。

 契約は済ましてあるが、適性がないため、特殊装備の異能を使用した場合体に大きな負担が掛かる。戦闘を続行できなくなり一瞬でゲームオーバーだ。


 つまり僕は、異能を使うタイミングを慎重に計りながら戦い、一撃で勝負を決めなければならないのだ。

 はたして、最上位クラス相手にそれが可能だろうか。

お読みいただきありがとうございました。

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