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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第四章・空の支配者編
70/117

地離の企み、ユウガの企み

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 地離レスル、通称「空の支配者」。


 理の国の一般家庭に生まれ、幼い頃は車などの乗り物が大好きだった。

 学生時代からかなり優秀で、国・地域・学校から手厚い待遇を受けて育ってきた。

 国内の有名大学を卒業後、株式会社「Ku‐Ro」を22歳という若さで設立。


 あらゆる協力者を得て事業を軌道に乗せ、理の国のイアに空路を敷設し、それに沿って走る完全自動操縦の空路タクシーを走らせることに成功。

 それから会社の価値は上がり続け、今では世界有数の大企業に成長し、彼自身も世界的な資産家として知られている。

 経歴を見ると、スーパーエリートの大成功者だ。


 しかし、そんな彼には後ろ暗い闇がある。

 それは巨大闇組織「三長会」との繋がりである。


「貴様の才能に投資してやろう」

「本当ですか!?」


「Ku‐Ro」の創業時、規模の大きすぎる莫大な地離の計画に、世間は馬鹿げていると相手にしなかった。金融機関からの融資も受けられず、資金も集まらなかった。


 まだ先行きの見えない若き地離に、多くの資金を提供して支えてくれたのが三長会の組長だった。

 地離にとっては、苦しい時期を支えてくれた大恩人である。


 そんな彼の誘いで、地離は三長会に入った。

 断りづらかったのもあったが、まだ若かった地離にとって闇の世界は好奇心の対象であり、何よりも三長会の絶大な力に魅入られた。


 彼のために三長会は、「Ku‐Ro」の敵対企業となり得る企業を、既存・新興問わず、闇社会の力で圧力をかけていった。


「どうだ地離? 奴らの弱みは見つけられそうか?」

「いけそうです。そっちの方はお願いしますよ?」

「任せろ。切り口さえ見つかれば問題ない」


「おい! 今すぐその事業から手を引け! 聞けねーなら、三長会がテメーらを消すぞ!」

「は、はいーーー!!」


「かわいらしい娘じゃねーか? 今度、地元の名門高校に入学するとか……。こんなことはしたくねーが、お前の選択ミスだ。しょうがねーよな?」

「待ってくれ!! 娘だけには、手を出さないでくれ!! 頼むっ!!」

「もうおせーよ!! ドアホがっ!!」


 こうして、イアの空は完全に地離レスルのものとなった。

 そしてここから徐々に、彼の空の支配圏は広がっていく。


「地離ー! 闇金で騙し取った利益の一部、黄河さんがお前にくれるってよ!」

「ワタシに? なぜ?」

「そんだけ、上がお前の上納金に期待してるってことだろ! 喜んで貰っとけって!」


 しかし数年経ち、事業が軌道に乗って安定してきた頃、彼の中の不安が徐々に大きくなり始めた。

 地離は、三長会に会社が出した利益の一部を上納金として納めるたび、自分の得た情報を提供するたび、自分と裏社会の繋がりがバレてしまうのではないかという恐怖に苛まれた。


 30歳にして、そんな地離に転機が訪れる。


「ね、今度新しくできるデパート、2人で行こうよ! 『皆さんデパート』だって!」

「あ、ああ、そうだな……」


 結婚である。

 大学時代の同級生を妻にした。愛していた。


「ふぇーん! ふぇーん!」

「あなた見て! こんなに小さいのに、すっごく大きな声で泣いてるわ!」


 一年後、長女が誕生した。ただただ愛おしかった。


 そして、家族を持ったことで恐怖心がさらに増大した。地離は、家族を失うことを最も恐れたのだ。

 その感情が、三長会からの脱退を彼に決断させるのに時間はかからなかった。


 しかし、三長会を抜けるのは簡単なことではない。と言うより、ほぼ不可能なのである。

 地離は、三長会を脱退した者が数日と経たずに行方不明となっているのを知っていた。

 彼は慎重に、時間を掛けてそれが可能になる手段を探した。


 そんなある日、地離の手元に「思念リス」が「ある人物」によってもたらされる。

 地離はすぐに計画を立て、行動を起こした。


「これだ……、これさえあれば!!」

 小さな檻を、希望にあふれた眼で見つめる。


 それにより、「魔王」を誕生させてしまうとも知らずに―――


    ◇


「クソッ! あの腐れ小娘がっ!」

 地離はドアをつま先で蹴飛ばす。想像以上に痛かったため、足を抱えて悶える。


「社長、どうしますか?」

「何がだ!?」

 副社長が地離に尋ねる。地離は怒りの感情をそのままに、副社長に問い返す。


「八併軍が来ています。AKホテルの件かと……」

「ワタシたちはその場に居なかったことにして、子鉄ユウガに全て(なす)り付けろ! 目撃者はいねえ、全員消したからな!」

 副社長は、地離の言葉を聞いて首を縦に振り、すぐに事務所の外に向かって走っていった。


「追うか。あの舐めた小娘。このまま終わると思うなよ!」

 地離は顔を紅潮させ、廊下をドタドタと足音を立てながら歩く。

 ワイフォンを片手に持ち、三長会の黄河派に応援を要請しようとした。


「アタイ、追う」

 そんな彼の後ろから、長江はそう言った。

 地離は赤から青へと血相を変える。


「いえいえ、そんな! 長江様のお手を煩わせるようなことではありませんよ! ええ……」

 彼は得意の媚び売り仕草で、長江を止めようとするが、その魂胆も彼女には見透かされていた。


「お前、思念リス、アタイに渡さない! つもりない!」

 そう言うと長江は、廊下にある窓から外に飛び降りた。

 地離はそんな彼女の姿を、2階の窓から眺めるしかなかった。


「ああ、どいつもこいつも!! ワタシのなんだぞ!!」


    ◇


「いやー、助かりましたよキシさん!」

「ずいぶん派手にやったな。今、カイトエリアは大騒ぎだぞ」

 辺りはすっかり更けて、暗い夜空を私とキシさんは竜に乗って飛ぶ。

どうやら、AKホテルでの一件が表に出たようだ。

「AKホテルは八併軍が調査をしているが、記者やマスコミが押しかけて大変らしい。奇妙なことに、ホテル内には人一人おらず、特に死体が転がっているわけでもない」

「ほえー」

 キシさんの話を聞いて、「もみ消し」の手際の良さに感嘆する。


 キシさんは竜を使って戦う戦士、竜騎士だ。

 いつも真っ黒な重装備を身に纏っており、彼の私服姿は全く見たことが無い。それどころか、私は顔も知らない。黒の兜で顔を隠し、こっちも外さないからだ。

 そんな彼の竜騎士としての相棒が、今私も乗っているこの黒いドラゴン、珍獣「ファフニール」なのだ。


「思念リスも手に入れましたし、他にも色々仕入れてきましたよ!」

「それは楽しみだ」


 突然視界がボヤーッと霞み、体から力が抜ける。

 クラッとして竜から落ちそうになった。


「おい。大丈夫か?」

「すいません……、ちょっとまだ慣れてなくて」

 キシさんが支えてくれる。


 思念リスの特殊装備をまだ上手く扱えていない。

 力のコントロールが難しく、慣れるのには時間が掛かりそうだ。


「目と鼻から血が出てるぞ」

「うわー、可愛くないですね。メッチャはずいです!」

 ポケットのハンカチで、血を拭く。


「特殊装備、解除」

 思念リスが骨伝導ヘッドホンから小動物の姿へと戻り、私の肩にチョコンと乗る。

 長時間着け続ければ、私の身体は持たないだろう。


「猛スピードで何者かに付けられている」

 キシさんが急に眼下の街を見下ろす。私には、そんな様子は全く感じられない。


「2人いるな。一人は時速100キロ、もう一人は60キロ」

 速度まで正確に感知している。私では到底及ばない領域だ。


「車ですか?」

「いや、一人は車だが、もう一人は走りだ」

「60キロで走る人がいるなんて驚きです!」

「いや、走っているのは100キロの方だ」

「えーっ!」


 私を追ってくるとしたら、地離か八併軍、もしくは三長会だ。

 私の予想だが、100キロは事務所に来ていた三長会の長江だ。

 そして、60キロの方は地離の車だろう。顔を真っ赤にして追って来ているに違いない。


「ふひひひ、イーコト思いついた!」

 さっき、もう用はないと言ってしまったが、今、用ができた。


「キシさん、車で追って来ている方に、私を下ろして欲しいんですけど」

「……わかった。一瞬で降りろよ」

「帰りは自分で……、やっぱりまたキシさんにお願いしますので!」

「図々しい奴だな」


 キシさんはファフニールの飛行高度を下げさせて、私が地上に降りられるようにする。

 眼下には真っ白な高級車が見える。その上目掛けて飛び移る。


 ドン!

 車の屋根がへこんだが、無事、着地成功。


「ありがとうございます! また後でー!」

 大きく手を振る。

 キシさんは振り返らずに、再び竜の高度を上げていった。



「おい! 何てことしてくれるんだ!」

 地離は車から降り、へこんだ自分の車の上部を見て頭を抱える。


「高いんだぞこの車! 弁償できるんだろうな!?」

「嫌ですよ。あ! ちょっとその車乗せてください!」


 私は激昂している地離を他所に、運転席に勝手に乗り込む。

 免許は持っていないが、今更そんなことを気にしても仕方ない。


「何勝手に乗ってんだ! 降りろ!」

「嫌ですよ。地離さんは助手席に乗ってください」

 ライフルを突き付ける。地離は手を挙げて、渋々助手席に座る。


「手は挙げていてくださいね。じゃないと撃っちゃいますよ」

「ワタシにこんなことしてただで済むと思うなよ! 三長会が本当に黙ってねーからな! 事実、今三長会の人間がお前を追ってる。終わったな小娘! はしゃぎ過ぎだ!」


「あれ? このボタンなんだろ?」

 ピッ。

 赤いボタンがあったので押してみる。するとボタンは点滅し、車体が徐々に浮き上がってきた。


「へ?」

「何してんだお前はあ!!」


 車が飛んでいる。ジョウト・エリアの人、店、車などあらゆるものが縮小していき、車体に当たる風が強くなっていく。

 まあ考えてみればそうか。空路タクシーを手掛けるKu‐Roの社長の車だ。


「飛ばない方がおかしいか」

「ふざけてんじゃねーぞ! すぐ下ろせ! 今すぐ!」

 焦りと怒りで顔を真っ赤にした地離が、隣から赤いボタンを押そうとする。


「あ、いいです、触らないで下さい。空飛べるなら都合が良いです」

 再びライフルを地離へと据える。彼は「ひいっ」と声を上げ、両手を挙げて元の体勢に戻る。

 うるさいから、もういっそ撃ってしまおうか。


「いやいやいや、中心球はまだ空路が整備されていないから、飛行運転は禁止なんだよ!」

「はぁ……? 関係ないじゃないですか」

「お前にはな!!」


 運転席の左側にあるレバーを引いてみる。運転する人は皆、発進する前にこのレバーを引いていたような気がするからだ。

 ギュイーン!

 浮遊する車体が急に発進し、座席シートに背中が叩きつけられる。


「うわああああああ! あはははははは!」

「やめてくれー!! 止めてくれー!!」

 結構早いスピードで飛ぶ。制御が意外と難しい。


「ゲームでやったことあるので簡単だと思ってたんですけど、難しいですね!」

「勝手が違うだろーが!!」

 地離は、私の運転と下に見える美しい街の夜景を見比べながら、怒りとも怯えとも取れる声で叫ぶ。


「あ、そうだった! 私遊びに来たわけじゃないんです!」

 目的を思い出し、空中でハンドルを手放して本題に入る。


「ワタシの車はもう十分遊ばれてるけどな……」

「これくらいは良いんですよ」

「いやこれワタシの車! 『これくらい』の度合いはワタシが決めるんだよ!」


「地離さん、私の手下になりません?」

 めんどくさいので彼の発言を無視し、こっちの用件だけを簡潔に伝える。


「なんでこのワタシが、お前みたいなガキの手下になんかならなきゃいけないんだ!」

「私見ちゃったんです。地離さんの全て」

 少しの間が生まれる。地離は大きく目を開き、私の顔を見据える。


「あなたは、思念リスで三長会に勝てると思っている。でもそれは違います」

「なに?」

 地離は、子犬のように喚いていたさっきまでのテンションとは打って変わり、静かなトーンで私の言葉に反応する。


「情報は力です。思念リスの異能は間違いなく強力ですよ。でも、それだけじゃ足りないんです」

「じゃあ、あとワタシに何が必要だというのだ! 金もある! 地位も名誉も! これだけ揃えて勝てないというのか!」


 ああ、彼は何もわかっていない。そんなものオマケでしかないのに。

 私の2倍以上の人生を歩んできてこんなことも分からないのか。


「簡単ですよ。力です。シンプルな武力」


 答えは明快だ。強さ。それが三長会を支えている。

 その圧倒的な武力に、多くの人や組織が服従した。これこそこの世の真理なのかもしれない。


 このことは一般人にも当てはまる。

 法だのルールだの存在するが、結局のところ皆強い奴が怖いのだ。「強い」というのはあらゆる場面で有利だ。


 国でも同じことが言えるだろう。

 七か国平等を(うた)ってはいるが、武の勢力が強い国が発言力を持っている。

 弱い人や国が発言力を持つためには、強い人や国の仲間内になる必要がある。


 秩序や法、ルールを重んじるため、皆表では言わないが、心の内ではきっと気付いている。

 誰もが強者に対して引け目を感じているのだ。


「三長会が八併軍に潰されない理由が分かりますか? 三長会がそれだけ強くて、取り締まれないからですよ。地離さんみたいな、たかだか何の武力も持たない、世界に名の知れた大金持ち社長なんてコテンパンにされますよ」


 私の言葉に地離は黙る。

 今は思念リスを装備していないから分からないが、きっと彼もそんなことは分かっていただろう。

 ただ、気付きたくなかっただけだ。力なんて、一長一短に手に入るものではない。


「あなたの持つお金と知名度で協力者を募ったとしても、限度があります。三長会には絶対に届かない」

「どうすれば良いと言うんだ!」

 地離は頭を抱えがちだ。将来は禿げるだろう。


「私たちシンビオシスなら、その武力を補えます。あなたの持つものと私たちの持つものを合わせれば、その計画は成功するかもしれませんよ」

「倒せるのか、三長会を!?」

 地離は再び目を大きく見開き、私の答えに期待を寄せる。


「私たち、『CGW』を制するつもりなんですよ? できるに決まってます!」

 私は、胸を張って自信満々に答えた。


「本当にできるのか? 三長会だけじゃなくて、八併軍もお前らを潰そうとしているんだぞ」

「できます。仲間になってくれるなら、私の考えを教えてあげても良いですよ? 私たちシンビオシスの協力者になってくださいよ!」

 しばしの沈黙の後、地離はゆっくりと口を開いた。


「分かった、三長会は抜ける。お前たちの協力者になってやろう」

 私は地離のその言葉を聞いて、ニヤリと口角を上げた。


 彼に見えない角度で、ワイフォンの画面をタップする。

 ここで、録音停止。今ので十分言質は取れた。


「やったー! 手下ゲットです!」

「手下じゃねーぞ! あくまでも協力者だからな!」

お読みいただきありがとうございました。

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