表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第四章・空の支配者編
67/117

三核・麗宮司コウジロウ

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「お母さーん、見て見て! 100点!」

「おー! 凄いじゃない! お父さんもきっと喜ぶわよ!」


 少女は無邪気にはしゃぎながら、母親に1枚のA4紙を見せつける。

 そこには、右上に赤文字で100と書かれてあった。小学2年の算数のテストである。


 地離家は理の国の大富豪である。

 一家の大黒柱・地離レスルが、一代で築き上げた富と名声により、地離家を理の昔ながらの名家や貴族たちと対等、もしくはそれ以上の地位に立たせている。


 理の国、イアの暁華街という高値の付く土地に、3000(つぼ)の敷地面積を有する大豪邸を住居としている。誰が見ても分かる、大金持ちの住まいである。

 加えて、理の国内に数件別荘を持っており、使用人たちにそれらを管理させている。

 家族構成は当主の地離レスル本人、妻、長女、次女の4人で、豪邸内にはさらに15人の使用人がいる。


「ちょっと遊びに行ってくる」

「あら、気を付けるのよ。暗くなる前に帰ってくるのよ?」

「子供じゃないんだから大丈夫だって!」

 2階から降りてきた長女が、ワイフォンを片手で見ながら玄関を出る。


「あの子、最近帰りが遅いのよね。あの人が帰ってきたら、ちゃんと注意してもらわないと」

「お姉ちゃん、最近なんか怖い!」


 長女は、中学生の年頃の女子である。最近は、家族に強く当たることが多い。

 母親は彼女の反抗期に悩まされているが、自分も過去に同じ思いをしたことがあるためか、あまり強くは言えないでいた。


「お父さん、いつ帰ってくるの?」

「早ければ明日にも帰ってくるって」

「ヤッター! 帰ってきたらおいしいの食べに行ける!」


 大富豪ではあるが、その実態は他の家と何ら変わらない、ごくごく普通の家庭である。


    ◇


「見つかりましたか?」

「今、調査させているわ」


 志の大統領は、地離レスルと会ってはいたそうだが、その居場所については知らなかった。

 今から居場所を知っている人を探すのも面倒なので、ここで、大統領という権力を利用させてもらう。

 まさかこの短期間で、2回も大統領を人質に取るとは思わなかった。


「質問させてもらっても良いかしら?」

「答えられる範囲でなら、良いですよ!」


 私は未だ、彼女の首の頸動脈(けいどうみゃく)あたりに刃を添えている。

 警備隊の皆さんには、この部屋には踏み込まないよう伝えてある。もし踏み込んできたら、私は迷わず大統領の首を切り裂くことだろう。


「私にこんなことをしては、あなたの身が危ないのではなくて?」

「どうしてです?」

「私は大統領よ。八併軍はこの事件を見過ごすことはできないわ。あなたへのマークは()()()厳しくなるでしょうね」


 何だそんなことか。

 今さらですよ、そんなこと。


 ……ん? 「さらに」って言った?


「『さらに』って、どういうことです?」

「…………」

 大統領は黙り込んでしまった。

 どうやら彼女に、もう少し聞かなければならないことがあるようだ。


「七か国会談の内容を教えてもらっても良いですか? ちなみに頼んでるわけじゃないですよ。これは命令です」

「…………」

「ふーん、ダンマリですか」

 ナイフをさらにグッと押し付け、次はないと脅しをかける。


「…………、会談の内容が記録されている資料があります」

「じゃ、それ見せてください」

 彼女に資料を取り出させて、机に置かせる。


 八併軍の財政の話や十奇人の各国駐屯案など、いろいろ書かれていたが特に気を引くものではない。

 しかし、その資料の中には目を引く、いや目を留めるべき事項があった。


「シンビオシス掃討作戦……」

 なるほど、八併軍の上層部は遂に動き出したわけだ。私たちの討伐を目指して……。


「作戦の成功はメンバー全員の討伐完了をもってそれとする、か……」

 八併軍は私たちシンビオシスを、例外なく全員を殺すつもりだ。

 そして、これからその作戦に向けて本格的に進めていくらしい。


「始めの主なターゲットは『子鉄ユウガ』。子鉄ユウガっ! わたしい!」

 スラスラ読み進めていると、自分の名前が出て驚愕する。


 なんと、この作戦のメインとなるターゲットは私だと言う。

 つまり、八併軍が本気で取り組みだした作戦の中で、本気で捜索され、本気で殺される人間と言うことだ。なんということでしょう。


「なるほどねー。だから『さらに』って言ったのか……」

「あなたに逃げ場なんてないわ。今最もホットな犯罪者ちゃん」

「あー、立場分かっていませんねー!」


    ◇


「子鉄ユウガが、大統領を人質に取っている」

「おや、またですか?」


 八併軍本部の総督室に男が二人。

 一人は麗宮司銅亜、机に腰を掛けてもう一人と向かい合う。

 もう一人は、銅亜とそんなに年の変わらない中年男性である。


 麗宮司コウジロウ。

 十奇人であり、「三核」の一人。銅亜とは、近い先輩後輩の関係に当たる。


 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な肉体は、制服越しでもその存在感を隠しきれない。

 タレ目で優しげな顔とのギャップが堪らないと、一部のファンからは騒がれている。


「子鉄ユウガを始末してくれないか?」

「俺にJKを殺せと……」

 銅亜の指令に、コウジロウは渋る。額を手で押さえ、上を向き「うーん」と(うな)る。


「彼女の目的は分からないが、ガキンチョに、コケにされたままという訳にもいかないんだ」

「まあ、それはそうですよね……」

 コウジロウは両手を腰に当て、ガクリとうな垂れる。


「わかりました。引き受けましょう」

 彼は了承し、銅亜に背中を向ける。


「珍獣装備『ビル男』」


 コウジロウは、VRゴーグル型の特殊装備を取り出し、自身の目に装着した。

 彼が契約している珍獣「ビル男」は、建造物の中に入り込み、その建物を意のままに操る異能を持っている。


 VRゴーグルを装着した状態で触れた建物は、使用者であるコウジロウの操作対象となり、ある程度の距離ならば、離れていても建造物の操作が可能である。その範囲は、およそ街一個分。

 これらコウジロウの手中にある建造物が、カイト・エリア内には現在7か所存在する。七か国会談に出席した、各国代表たちの宿泊先である。


「そう言えば、レイアちゃんにおめでとうと伝えといてください。試験受かったそうなので」

「へー、そうなんだ」

 銅亜の反応に、コウジロウは「はぁ、やれやれ」とため息をつく。


「俺はあんたのこと、良い総督と思っていますけど、父親としては最低ですね……」

「そうなの? なんで?」

 純粋な銅亜の質問に、コウジロウはさらに呆れる。


「あんた、娘のことに興味なさすぎでしょ……」

「まあ、あんまり無いかも」

「はあ、レイアちゃんが可哀そうだよ」

 さっきよりも深くため息をつく。


「娘は優秀なんだ。俺が何かしなくても、勝手に強くなると思うし、勝手に立派になっていくよ。これまでもそうだった」

「父親の仕事、完全に放棄してますね」

 コウジロウは床に手をつき、VRゴーグルに、志の大統領の宿泊先であるホテル内の映像を映す。


「放っておいても育ってくれるんだから、親にとってこれよりありがたいことって無いよね」

「銅亜さん、あんたは人情ドラマを見漁るべきですよ」


    ◇


「『AKホテル』にいるらしいわ」

「やった、ありがとうございまーす!」

 地離の居場所が分かった。シビノさんに位置情報を送ってもらえれば直行できる。


「でも、あなたはここから逃げられない」

 志の大統領は冷たくそう告げると、私を尻目に睨んできた。

 まるで、それを確信しているかのような表情だ。


「なぜでしょう?」

 なぜ、そんなことが言えるのか。なぜ、そんな自信ありげな顔ができるのか。

 疑念を抱く。


 ガシンッ! 

 唐突に、私の右足に(かせ)()められる。


「うわあっ!」

 枷が私を振り回す。右足についている枷は、きっちりと嵌っていて、抜け出そうにも抜け出せない。

 振り回されたせいで、大統領が解放されてしまった。


 ブオンブオンブオンブオン!

 足枷は床と繋がっている。

 さっきまでは無かったから、今出現したのだろう。


「誰かの特殊装備!」

 不可思議な状況を整理し、答えを導き出す。それ以外考えられない。


 ゴゴゴゴゴゴ!

 天井から巨大な拳が出現する。

 質感は天井のものと同じ、大きさは人一人ペチャンコに潰せる程度だ。


 足枷で動きを封じられ、天井からの攻撃を避けられない。

「これは、やばいです……」


 キン! ヒュン!

 いきなり硬質な足枷に拘束されたと思ったら、次の瞬間には解放されていた。

 誰かに体を抱えられて、513号室を脱出する。

 急転直下の展開に、脳内が軽いパニックを起こす。


「無事でござるか?」

 しかし、その声が私の混乱を鎮める。


 シビノさんが助けに来てくれた。

 彼はクナイで、私に取り付けられた足枷を一瞬にして切り落としたのだ。

 間一髪、危なかったー。


「本当に! ありがとうございます!」

 もの凄いスピードで駆けるシビノさんに、私は身体を抱えられながら感謝の言葉を述べた。


 廊下がグニャリと回転するように(ねじ)れる。

 5階から1階のロビーへ振り落とそうという意図が感じられる。


「セイヤーッ!」

 シビノさんは、5階のうねる廊下から3階の廊下へと飛び跳ねる。

 着地は静かだ。こういうのも忍の世界では訓練されるのだろうか。


 ジャキン、ジャキン、ジャキン!

 着地した瞬間、私とシビノさんは、壁や天井から生えた無数の槍に囲われる。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン!

 串刺しにするべく、数に物を言わせた攻撃を、シビノさんは私を抱えたまま華麗に避けていく。

 一体今の攻撃で、私なら何回貫かれただろうか。


「地離の居場所は掴めたでござるか?」

「AKホテルらしいです」

「よし、先に行くでござる。ここは任せてもらうでござる」


 そう言うと、彼は再び跳んだ。3階から1階ロビーへ。

 またしても、体幹がぶれない綺麗な着地を披露する。


「じゃあ、先に出ますよ!」

 シビノさんから離れ、入り口の方に急いで駆け込む。


 ドドドドド、ガシャン!

 玄関の床と天井が盛り上がり、出入り口を塞がれる。


 まあ、そりゃあそうだよね。簡単に逃がしてはくれないよね……。

 だって、優先順位じゃあたしが一番だし。


「どくでござる!」

 シビノさんの声を聞いて、咄嗟に塞がれた出入り口から距離を取る。

 手のひらサイズの球状の物体が、ピッピッピッと機械音を発しながら転がっていった。


 ドッガーーーーーーン!

 小さな手榴弾が、耳をつんざくような音とともに炸裂する。

 驚いて細めた目を開くと、さっきまで塞がっていた出口に大きな穴が開いていた。小型ながら凄まじい威力だ。


「私にはダメって言ってたのに、自分だけ使うのズルいです!」

「拙者は良いのでござる。ていうか早く行くでござる!」


 穴が塞がってしまう前に脱出する。

 シビノさんがあのホテルから出られるかどうかは分からないが、少なくとも、私はいない方がやり易いだろう。


「八併軍の戦士のテリトリーだったのかー」

 志の大統領が、人質にされても冷静だった理由がよく分かった。

 考えてみれば、大統領や国王といった重要人物がこの地に来ているのに、警備に八併軍が絡まない訳がない。そこまで考えが及ばなかったことを反省する。


「切り替えて、行きますか! AKホテル!」

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ