晴れのち大嵐
小説家になろうデビュー作です。
よろしくお願いします。
「おはようございます」
「おっ、おはようございます!」
昼、目が覚めると、僕の病室の椅子にレイアさんが座っていた。
眠気が一気に吹っ飛んだ。
「合格祝いとお見舞いを兼ねて来たのですが、悪いと思い、起こしませんでした」
窓際の花瓶に、黄色いバラが置いてあるのに気づく。
「わざわざありがとうございます、レイアさん」
「いえ、大したことではありません」
レイアさんは、手提げのカバンを持って立ち上がる。
「合格おめでとうございます。正直かなり驚かされました。あなたとタツゾウと私、まさかの3人揃っての合格となりましたね」
「はい! まだ僕自身、全然実感が湧いていませんよ」
僕にとってこの合格は、八併軍の戦士になれる喜びよりも、タツゾウやレイアさんの同僚となれる喜びの方が、かなり大きい。
「でも、なぜか不思議と納得がいくんです。なぜでしょう? あなたには、明らかに戦士としての資質が感じられないのに……」
「うう……」
レイアさんの言葉はグサグサと胸に刺さる。分かってはいても、傷つくものは傷つくのだ。
「一つだけ、もう一度聞いても良いですか?」
「はい?」
レイアさんは、真剣な眼差しで僕を見据える。
「なぜ仮試験の時、武器を持って挑まなかったのですか?」
ああ、そう言えば僕は、レイアさんにかなり怒られていたっけ。
武器を持たずにジュガイ・残菊に挑み、瞬殺された。
レイアさんは僕のあの行為を、全力で挑んでいないとすごく非難していた。
「僕は、襲い掛かる理不尽から、人の夢を守るためにここに来ました。守るべき『人』に対して武器を向けることが、どうしてもできなかったんです」
甘いことを言っている。随分と腑抜けた発言だろう。
でも、あの時の僕は、あのジュガイ・残菊を前にしても武器を手にすることができなかった。
レイアさんは、今の僕の発言を聞いて、きっとまた幻滅したに違いない。
「そうですか。私には到底理解できない感覚ですが、それもまた、一つの価値観と言うことですね」
「えっ!?」
意外な返しに、思わず声を上げてしまった。
仮試験の時の反応と随分違う。
「決めたんです。私は、人の持つ価値観だけは否定しないと……」
◇
嵐の前の静けさが好きだ。
嵐の前は天気が良くなるという。
天気予報が無ければ、誰もその日が嵐の前とは思うまい。
「ふふふふふふ……」
俺は一人で笑う。
天気予報が無ければ天気を知ることのできない、無知で愚かな民衆をビルの屋上から見下ろす。
皆、殺す価値のない命ばかり。
「気持ち悪いな、山葵間。何一人で笑ってるんだ?」
気づけば後ろに男が一人立っていた。
笑う俺から、一歩退く。
八併軍の制服を着ている。
ここ数日は、八併軍アカデミー試験でかなり忙しい様子だった。
「ベルゼフ、いるなら言ってくれよ。恥ずいじゃねーか」
「お前はいつも厨二チックで恥ずかしい奴だろ」
ベルゼフ・ブーブ。
俺のただの殺戮仲間だ。金でしか動かない、この世で最も信用できるタイプの奴と言える。
今はガワを被り、正体を隠して軍に潜入している。
「なぜ、あの少年を助けたんだ? らしくない」
ベルゼフの尋ねたことは、少年・雨森ソラトの体内に、なぜ「アンデッドウイルス」を入れたのかと言うことだろう。
俺は、彼の体内にウイルスを忍び込ませることにより、幻覚を仕掛けたのだ。
弱い幻覚だが、麻酔効果があり、おかげで彼は脇腹の痛みを気にせずに、試験に集中できただろう。
まあ、体を騙しているだけで回復はしていないから、その後は大変だろうが、知ったこっちゃない。
「『偉人』が育つのを待つことにしたのさ」
「ほーん」
雨森ソラトが俺の殺戮対象となれるかどうかは分からないが、未来のために種を撒いておくのもまた一興だろう。
「十奇人クログロスの幻覚が、雨森ソラトに対して効果が薄かったのは、お前のアンデットウイルスが先に幻覚を仕掛けていたからか」
その通り。あれは思いがけないことだった。
俺の幻覚に掛かった状態の雨森ソラトにとって、十奇人の中で最も相性が良かったのがクログロスだった。
タイプの違う幻覚作用が一つの体内に併存した場合、互いが反発し合うことになる。
そうなると、どちらも幻覚の効果が薄れてしまうのだ。
雨森ソラトは、第二次試験でたまたまクログロスと遭遇し、合格を勝ち取った。
そうでなければ、他の十奇人や島内の珍獣にすぐさま転送されていたに違いない。
実についている男だ。
「なあ、まだ潜伏続けるつもりか? そろそろお前も派手に動いたらどうだ、ベルゼフ?」
「ああ、近いうちな。それよりもお前、もし八併軍に捕まったとしても、俺のことを『ベルゼフ』なんて間違っても呼ぶなよ」
「わりい、わりい。君嶋くん」
◇
お父さん、お母さんへ
お元気ですか。僕はなんとか元気です。
連絡遅くなってしまってごめんなさい。
なんと、アカデミー試験に合格しました!
4月からは、八併軍アカデミーに入学することになります。
とてもビックリしていることでしょう。僕もです。
これから中心球で生活することになります。
不安がいっぱいですが、同時にワクワクもしています。
実は友達もできました。機会があれば紹介します。
心配しないで下さい。特にお母さん。
元気に頑張ってきます。
追伸 コワンのお世話、よろしくお願いします!
ソラトより
動き出す。
不安定な平和が崩れ始める。
時代の転換期には、常に嵐が伴うものである。
天気予報は、晴れのち大荒れ。
後に「大嵐世」と呼ばれる、嵐の吹き荒れる時代が到来する。
お読みいただきありがとうございました。




