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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第三章・アカデミー試験編
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晴れのち大嵐

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「おはようございます」

「おっ、おはようございます!」


 昼、目が覚めると、僕の病室の椅子にレイアさんが座っていた。

 眠気が一気に吹っ飛んだ。


「合格祝いとお見舞いを兼ねて来たのですが、悪いと思い、起こしませんでした」

 窓際の花瓶に、黄色いバラが置いてあるのに気づく。


「わざわざありがとうございます、レイアさん」

「いえ、大したことではありません」

 レイアさんは、手提げのカバンを持って立ち上がる。


「合格おめでとうございます。正直かなり驚かされました。あなたとタツゾウと私、まさかの3人揃っての合格となりましたね」

「はい! まだ僕自身、全然実感が湧いていませんよ」

 僕にとってこの合格は、八併軍の戦士になれる喜びよりも、タツゾウやレイアさんの同僚となれる喜びの方が、かなり大きい。


「でも、なぜか不思議と納得がいくんです。なぜでしょう? あなたには、明らかに戦士としての資質が感じられないのに……」

「うう……」

 レイアさんの言葉はグサグサと胸に刺さる。分かってはいても、傷つくものは傷つくのだ。


「一つだけ、もう一度聞いても良いですか?」

「はい?」

 レイアさんは、真剣な眼差しで僕を見据える。


「なぜ仮試験の時、武器を持って挑まなかったのですか?」


 ああ、そう言えば僕は、レイアさんにかなり怒られていたっけ。

 武器を持たずにジュガイ・残菊に挑み、瞬殺された。

 レイアさんは僕のあの行為を、全力で挑んでいないとすごく非難していた。


「僕は、襲い掛かる理不尽から、人の夢を守るためにここに来ました。守るべき『人』に対して武器を向けることが、どうしてもできなかったんです」


 甘いことを言っている。随分と腑抜けた発言だろう。

 でも、あの時の僕は、あのジュガイ・残菊を前にしても武器を手にすることができなかった。

 レイアさんは、今の僕の発言を聞いて、きっとまた幻滅したに違いない。


「そうですか。私には到底理解できない感覚ですが、それもまた、一つの価値観と言うことですね」

「えっ!?」


 意外な返しに、思わず声を上げてしまった。

 仮試験の時の反応と随分違う。


「決めたんです。私は、人の持つ価値観だけは否定しないと……」


    ◇


 嵐の前の静けさが好きだ。

 嵐の前は天気が良くなるという。

 天気予報が無ければ、誰もその日が嵐の前とは思うまい。


「ふふふふふふ……」

 俺は一人で笑う。


 天気予報が無ければ天気を知ることのできない、無知で愚かな民衆をビルの屋上から見下ろす。

 皆、殺す価値のない命ばかり。


「気持ち悪いな、山葵間。何一人で笑ってるんだ?」


 気づけば後ろに男が一人立っていた。

 笑う俺から、一歩退く。


 八併軍の制服を着ている。

 ここ数日は、八併軍アカデミー試験でかなり忙しい様子だった。


「ベルゼフ、いるなら言ってくれよ。恥ずいじゃねーか」

「お前はいつも厨二(ちゅうに)チックで恥ずかしい奴だろ」


 ベルゼフ・ブーブ。

 俺のただの殺戮(さつりく)仲間だ。金でしか動かない、この世で最も信用できるタイプの奴と言える。

 今はガワを被り、正体を隠して軍に潜入している。


「なぜ、あの少年を助けたんだ? らしくない」

 ベルゼフの尋ねたことは、少年・雨森ソラトの体内に、なぜ「アンデッドウイルス」を入れたのかと言うことだろう。


 俺は、彼の体内にウイルスを忍び込ませることにより、幻覚を仕掛けたのだ。

 弱い幻覚だが、麻酔(ますい)効果があり、おかげで彼は脇腹の痛みを気にせずに、試験に集中できただろう。

 まあ、体を騙しているだけで回復はしていないから、その後は大変だろうが、知ったこっちゃない。


「『偉人』が育つのを待つことにしたのさ」

「ほーん」

 雨森ソラトが俺の殺戮対象となれるかどうかは分からないが、未来のために種を撒いておくのもまた一興だろう。


「十奇人クログロスの幻覚が、雨森ソラトに対して効果が薄かったのは、お前のアンデットウイルスが先に幻覚を仕掛けていたからか」


 その通り。あれは思いがけないことだった。

 俺の幻覚に掛かった状態の雨森ソラトにとって、十奇人の中で最も相性が良かったのがクログロスだった。


 タイプの違う幻覚作用が一つの体内に併存した場合、互いが反発し合うことになる。

 そうなると、どちらも幻覚の効果が薄れてしまうのだ。


 雨森ソラトは、第二次試験でたまたまクログロスと遭遇し、合格を勝ち取った。

 そうでなければ、他の十奇人や島内の珍獣にすぐさま転送されていたに違いない。

 実についている男だ。


「なあ、まだ潜伏続けるつもりか? そろそろお前も派手に動いたらどうだ、ベルゼフ?」

「ああ、近いうちな。それよりもお前、もし八併軍に捕まったとしても、俺のことを『ベルゼフ』なんて間違っても呼ぶなよ」


「わりい、わりい。君嶋くん」


    ◇


 お父さん、お母さんへ


 お元気ですか。僕はなんとか元気です。

 連絡遅くなってしまってごめんなさい。


 なんと、アカデミー試験に合格しました!

 4月からは、八併軍アカデミーに入学することになります。

 とてもビックリしていることでしょう。僕もです。


 これから中心球で生活することになります。

 不安がいっぱいですが、同時にワクワクもしています。

 実は友達もできました。機会があれば紹介します。


 心配しないで下さい。特にお母さん。

 元気に頑張ってきます。


 追伸 コワンのお世話、よろしくお願いします!


                       ソラトより



 動き出す。

 不安定な平和が崩れ始める。

 時代の転換期には、常に嵐が伴うものである。


 天気予報は、晴れのち大荒れ。

 後に「大嵐世(だいらんせ)」と呼ばれる、嵐の吹き荒れる時代が到来する。

お読みいただきありがとうございました。

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