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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第三章・アカデミー試験編
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七か国会談

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 アカデミー試験が終わった翌日、俺たち十奇人は本部に一度集められ、クルーズからアカデミー試験の結果や様々な伝達事項を聞いた後、その場で解散の許可を受けた。


 元々縛られるのを好まない十奇人メンバーのことだ。

 自由の権利をむざむざ捨てるわけもなく、クルーズとクログロス以外の俺を含めた四人は即座に本部を後にする。


 また会うのはいつになることやら。

 本来全員参加のはずの十奇人会議にもほとんどが姿を見せなかった。

 数か月後か、あるいは一年後か、もっとかもしれない。


「フェンリル、次はどこに行くんだ?」

 本部の大きな自動扉を出た先に、ダリオスが壁にもたれ掛かって立っていた。


「言わねえよ。お前は愛の国に戻るのか?」

「まあな、俺を待ってる奴らのためにも、すぐに戻ってやんねえと。はぁ、人気者はつらいぜぇ~」

 憎たらしい顔を俺に向けて、ダリオスは白々しくため息をつく。

 向こう一年こいつの顔は見なくても良いな。


「そういやフェンリル聞いたか? 今夜の七か国会談で、総督は『三核(さんかく)』を連れていくらしいぜ」

「何じゃそりゃ、あの人戦争でもしに行くのかよ?」


「三核」は、八併軍の上位戦士10人である十奇人の中でも、特に優れたトップ3のことを指す。

 よほどのことがない限り、本部から彼らに指令が入ることは無い。

 つまり、総督が彼らを動かすということは、そこで何かが起こるということだ。


「分かんねーけど、お前じゃ力不足ってわけだな。ドンマイ!」

「おー、ブーメラン投げんの超絶うめーじゃねーか」

 俺は、ダリオスの煽りを軽くいなす。


「で、誰が行くのか分かってんのかよ?」

「お、興味あるっぽいじゃん!」

 ダリオスは、ニヤニヤと口角を上げてこっちを見てくる。

 ハッキリ言って、超絶きっしょい。


 俺は他人に興味を示すことが少ない。

 しかし、滅多に顔を見ることがなく、普段の動向はほぼ掴むことができない、三核の内の一人が本部に帰って来るのだ。気になって当然だろう。


「ノロシマさん曰く、コウさんだとよ。つか、コウさんって何の任務ついてたんだ?」

明石(あかし)博士の御守(おもり)だ。それくらい知っとけよ」


 ダリオスの言う「コウさん」とは、三核の一角「麗宮司コウジロウ」のことだ。

 ナイト師団が誇る最高戦力であり、ひと昔前までは八併軍最強の戦士とまで呼ばれていた。

 テロ組織「ノータリン」の襲撃を受けた偉大なる発明家・明石博士を護衛する任務に就いていたはずだが、どうやらその任は解かれたらしい。


「じゃあな、フェンリル。俺のアメイジングな活躍を見ても、嫉妬すんなよ!」

「超絶くたばりやがれ」


 俺たちは互いに背を向け合い、真逆の方向へと歩みを進める。

 目的地までの道のりは超絶遠い。気が遠くなりそうだ。


 ふと、クルーズが十奇人全員に見せてきた合格者名簿のことを、歩きながら思い出す。

 そこには、自分が推薦したあの少年の名前が載っていた。


「ふっ、やるじゃねえかよ」

 今日は少しだけ気分が良い。酒とたばこが美味くなりそうだ。


    ◇


 八併軍総督・麗宮司銅亜は、八併軍の本部から車で5分程離れたところにある、国際会談所へと向かっている最中である。

 リムジンの窓から見える人々の足取りはせわしない。

「嫌だねー。皆、何かに追われるように生きている。俺と同じ。全く、急ぎたくはないもんだ」


 中心球、カイト・エリア。通称「キューブの中枢(ちゅうすう)」。


 八併軍の本部や国際会談所があるこの一帯は、人、物、金、権力などが集まる中心球の中でも、特段それらが密集している。この地域にオフィスを持つ企業は、例外なく大企業である。


「いくら急いでも急ぎ足りないことだってある。俺は、自分のやりたいことをこの生涯(しょうがい)でやり切れる気がしない。人は急ぐべきだ。自分のやりたいことに関してはな」


 参謀・ノロシマ覚才は、小説から目を離さずに格言染みたことを言う。

 最近賞を受賞した話題の一作である。


 彼は隙間時間を決して無駄にしない。

 移動の時間、待ち時間、することがない時は常に読書をしている。


「やっぱ、お前とは一生分かり合えないだろうな」


 現在、銅亜の年齢は40半ば。

 ノロシマとは、16になる年に、共にアカデミーへと入った同期である。

 彼らは気付けば30年近くの付き合いになっていた。


「理解できないから、人は面白いんだろ」

 ノロシマは、本の内容を頭に入れつつも、銅亜の発言を受けて簡潔にそう述べた。


    ◇


 目を覚ますと、見覚えのある天井がそこにはあった。


「あ……」

 ここ、病院だ。しかも多分……。


「ソラトくーん、失礼しまーす」

 ルーゲさんだ。あの時と同じ部屋。そして彼女の全く同じセリフ。

 時間が戻ってしまったのではないかと錯覚してしまう。


 もしかして、まだ幻覚を見ているのではないだろうか。

 頬をつねる。滅茶苦茶痛い。頬ではなく、引っ張った方の左手が。


「ダメですよ、むやみに動いちゃ。死にかけていたんですから」


 全身が痛い。骨も数本折れてるだろう。

 さらに、脇腹もかなり痛い。試験中痛くなかったのにどうして……。


「目を覚まして良かったです。試験終了から一日も経ったんですよ」

「一日!」

 丸一日寝たことなんてない。こんな経験は初だ。


 僕は、気を失って後のことをルーゲさんに教えてもらった。

 まず、僕は寝ている間に手術を受けたらしい。それも結構大きな。

 特に、第一次試験で巨人カブから攻撃を受けた脇腹部分はひどい状態だったらしく、「こんな状態で試験を受けないで下さい!」とルーゲさんにこっ酷く叱られた。


 訊いてみたところ、彼女の注射に痛みを完全に消す効果は無いらしい。

 じゃあ、なぜ痛みを感じなかったのだろうか……。謎である。


 さらに、試験についても聞くことができた。


 どうやら僕は無事合格したらしい。

 しかも全受験生の中で、今回の第二次試験を最初に通過したと言う。

 僕にとって、合格しただけでも信じられないのに、その事実でさらに驚愕させられた。


「合格おめでとうございます、ソラト君!」

「ありがとうございます。まだ全然実感湧かないんですけど……」

 祝福されながら、あの「治癒(ちゆ)尖角(えいかく)」なる注射を受ける。これで何本目になるだろうか。


 こうして、再びの入院生活が始まった。

 何と言うか、閉まりが悪い。



「よっ!」

「おっす!」

「うわー、めちゃくちゃ満身創痍け」

 タツゾウとマータギ君、キコリ君の3人が、お見舞いに来てくれた。


「わざわざ来てくれたの!?」

 何で僕は毎回見舞われる側なんだろう。


「4人で集まれるのは、多分最後だしな」

「最後に顔を見せに来たけ」


「えっ……」

 複雑な表情でそう言うマータギ君とキコリ君に、僕は驚きの声を一つ上げたが最後、その後の言葉を紡ぐことができない。


「なんか急に南エリアから攻撃が飛んできてよー。あそこの十奇人のパワーおかしいぜ」

「あれはズルだけ。マジありえんけ」

 いつもの調子で話しているが、二人の顔からは悔しさが滲み出ている。


 彼らは二次試験を通過できなかった。

 僕は、僕なんかよりもずっと強いはずの二人を差し置いて、合格の枠を奪ってしまった。

 きっと二人にも、思うところがあるはずだ。


「ソラト、変なこと考えるなけ。これは、単なる俺たちの実力不足だけ。なっ、瞬殺野郎?」

「まだ言うか!」


「…………」

 掛けるべき言葉が見つからない。


 僕はこれまでの人生で、こっち側に立ったことがない。

 いつも励まされたり、(なぐさ)められたりしてきた。

 失意の中にいるであろう彼らに、どう声を掛けてあげれば良いのだろうか。


「また集まれるぜ。俺たちが望めばな」

 若干の沈黙をタツゾウが破る。


「ソラトがこんな状態だから今は無理だけど、今度は世界一旨いカツ丼食べに行こうぜ!」

「天丼な!?」

「いや、マグロ丼け!」


 空気が少し明るくなった。

 キコリ君もマータギ君も相当悔しいはずなのに、明るく振舞っている。

 それなのに、僕だけがうまく笑えない。


 一時間ぐらい話しただろうか。

 内容はどうでも良いことばかりだ。


 試験期間、彼らの存在にどれほど救われただろうか。

 ずっと続いて欲しかった。でも、それもここまでだ。


「二人とも、絶対また会おう!」

 去り際、扉の前で部屋を出ようとする二人に、大きな声でそう呼び掛けた。


「おう! じゃな!」

「またなけ!」


 きっと背負わなければいけないのだ。

 彼らの思いを、夢を……。

 合格を勝ち取ることが、僕の肩におもりが加わるものだということを、ここに来て初めて知った。


「次は、美味しい牛丼を!」

「「「はぁ!?」」」


    ◇


「銅亜君、遅いんじゃないのか?」

 国際会談所には、すでに理の国の大統領が到着していた。

 割と早く出たつもりだったが、先を越されてしまった。


「いやー、申し訳ありません」

 俺はぺこりと平謝りする。理の大統領はずいぶんと機嫌が悪そうだ。


 八併軍は、七か国の支援によって成り立っている。この支援が無ければ、我々八併軍は機能しない。

 これから行われる七か国会談の中で、八併軍の立場は最も低いと言える。


 30分後、全ての国の代表者がこの国際会談所に集った。

 理の大統領、志の大統領、縁の首相、愛の大統領、勇の国王、丈の国家主席、争の国王。

 そして、中心球を代表して、八併軍の総督であるこの俺、麗宮司銅亜が参加する。


「それでは会議を始めます。進行は去年と同じく、私、ノロシマ・覚才が務めさせていただきます」

 ノロシマが権力者7名を相手に会議を進めていく。


 まず始めに行われたのは、八併軍の実績と財務諸表の照らし合わせだ。

 スポンサーである七か国から資金提供を受けられるよう、自分たちの活動実績をアピールする。

 毎年何とか乗り切ってはいるが、今回はそう簡単にいきそうもない。


「理は、八併軍へ提供する資金を減らす」

 理の大統領が恐ろしい発言をする。さあ、どう機嫌を取れば良いだろうか。


「そ、それは……、どうしてでしょうか?」

 俺には彼の発言の真意は分かってはいるが、ここで聞かないわけにはいかない。


「多額の資金提供に見合った仕事が、できてないからだろうが!」

 ドン! と大きな円卓(えんたく)に彼は拳を叩きつける。


「俺の命を危険に晒しておきながら、よくもまあ平然とこの会議に参加できたものだな! 仕舞には来るのも遅い! てめえら立場分かってんのか? ああ!?」


 そう、彼はイア騒動でノータリンに人質にされている。

 自分の身を守れなかった俺たち八併軍に対して、非難を浴びせているのだ。

 でも、来るのはそっちが早過ぎただけでしょ。絶対イチャモンを付けたいだけだ。


「無能共に出す金はねえ。うちの軍事費に回させてもらう」

 どうやら理の国はあの事件の後、自国の自衛に焦点を当てたらしい。

 八併軍がダメなら、自分で守るしかない。確かに自然な考えだ。


 しかし、この動きはまずい。

 なぜなら八併軍の存在意義の一つに、各国の保有する軍事力の抑制がある。


 本来自国の軍事に回すはずだった資金を、八併軍に提供することで、代わりに自国の危機に対処してもらう。

 七か国がそうすることで、軍事力に大きな偏りが出ないようにしているのだ。


 軍事力の均衡が何をもたらすか、それはズバリ、平和である。

 お互い、戦争をしても利が無いことが分かっているからだ。


 ならば、理の国が、提供する資金を減らすことが何を意味するか。

 それは、国家間の不均衡、そして格差の顕現(けんげん)である。


「おい、それはないだろう!」

「それなら我々も軍事費を増大するしかない!」

「待て待て! そうなれば八併軍はどうなる!?」


 理の大統領の爆弾発言により、会議が荒れてきた。

 まずい。「英雄の時代」から続いてきた八併軍が、このままでは終わりを迎えることになってしまう。


「私から一つ、提案があります」

 ノロシマの発言で、会議場の喧騒が鎮まる。


「なんだ?」

 理の大統領が先を促す。


「十奇人を、各国に一人ずつ駐屯(ちゅうとん)させるのはどうでしょうか?」


 七か国の代表者たちは考え込む。

 中々良い案だと思う。これまで本部を介して派遣を行っていたが、これなら問題の起こった場所に十奇人が即座に向かうことができ、早めの対処が可能となる。


 しかしながら、これにはさらなる問題が生まれる。


「なら、我々争の国は『阿天那(あてな)』を貰うぞ」

「それはちとズルくないか、争の国王や?」


 十奇人の中でも最強、すなわち八併軍最強と(うた)われる「阿天那」を指名した争の国王に対して、勇の国王が反発する。

 この案の問題点は、十奇人の争奪戦が起こってしまうことだ。


「まあ、皆さん待ってください。まだ決まった訳ではないので……。この件に関しては、じっくり話し合い、追って連絡したいと思います」


 俺は国同士で揉める話題を先送りにする。解決策は全く思い浮かんではいない。

 まあ、ノロシマの奴が何とかしてくれるだろ。ほんで、理の大統領も上手く説得してくれるだろ。



「では、この件は一度置いておきましょう。今日の本題はここからです」

 ノロシマは、積み上げられた資料に手をかけ、議題を変える。


「我々八併軍は、『シンビオシス』の討伐に関して、本腰を入れて取り組むことにしました」


 シンビオシス。

 11名の若い世代によって構成される組織で、「珍獣との共生」を理念として動き、打倒八併軍を掲げる革命家集団だ。

 過激な動物愛護団体ならぬ、珍獣愛護団体と言ったところだろう。


 ここ数年、八併軍はこの問題をあまり重要視していなかった。

 理由は、国家や民間人への被害が無かったことにある。

 しかし、ある人物の加入が確認されてから、その様子が変わってきた。


 子鉄ユウガである。

 彼女は、現在16歳。今年、縁の国の高校2年生になるはずだった。

 しかし、高校1年の途中で行方不明となっており、地元警察に、両親から捜索願が届けられていた。

 中学では生徒会長などもしており、周りからは成績優秀、スポーツ万能の誰もが憧れる優等生で知られていた。


 シンビオシスに加入してからの数か月、彼女は悪逆の限りを尽くしている。

 窃盗、強盗、詐欺、殺人。この短期間で、よくもまあこれだけ罪を犯せたものだ、と逆に感心してしまう。

 彼女に一体何があったと言うのだろうか。


「これは難易度Sランクの任務となります。それだけ金と兵力が掛かります。皆さんに今一度確認していただきたく思います」

 俺は、各国の代表者たちを見回す。相変わらず凄い顔ぶれだ。


「シンビオシスの構成員はかなり強い。中には、一騎当千の怪物もいます。そこに、あなたたちが提供してくださっている資金を費やしてもよろしいでしょうか?」

 一人一人の目を見て問う。ここは、総督としての俺の本気度を伝えなければならない。


「もちろんだ」

「頼んだぞ!」

「むしろ遅いぐらいだろ!」

「よろしくお願いします」

「うむ、良いぞ」

「大勝負と言うことか」

「お願いしますね」


 全代表者たちから承認を貰えた。

 これで動き出せる。


「まず、我々八併軍が最初にターゲットとするのは、構成員・子鉄ユウガです。彼女によって、民間人に多数の被害が出ています。今回、この討伐作戦に踏み切ったのも、この子鉄ユウガが主な要因です」

 ノロシマが、どのように作戦を実行していくのかを話し始める。


「世界最大の軍事組織に追われる少女か……。哀しい話だな……」

 俺は、誰にも聞かれない声でボソリと呟いた。

お読みいただきありがとうございました。

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