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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第三章・アカデミー試験編
61/117

第二島の珍獣

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「ウボオオオオオオオオオッ!!」


 現在、僕たち元Dグループのいる南エリアでは、超巨大ゴリラが大暴走を繰り広げている。

 土色をベースとし、(こけ)が生えたように緑色が点在する体毛が特徴的だ。

 大きさは20メートルを超えているだろうか。僕の頭の中で、大人の巨人カブが思い出される。


 メンコ曰く「眠ってたから、猫じゃらしで鼻の中をコショコショってやったら怒っちゃった」らしい。

 猛バッシングを受けていた。その場で笑っていたのはタツゾウだけだ。


「きゃああああああ!!」

「ウボオッ!」

 ズドーーーーーーン!!


 巨大ゴリラは、握りしめた大きな拳を振り下ろしてくる。

 当たれば一発アウトなのは、誰が見ても分かる。


「ギャングコング、第二島最悪の魔獣です。討伐に(おもむ)いた八併軍の一般兵20人が、逆に葬られた事例があります」


 レイアさんが冷静に事前情報を述べる。

 それを聞いて、自分たちで戦える相手ではないことを誰もが理解する。


「ファナ、使い時よ」

「承知しました、レイア様」


 ファナさんはレイアさんの指示を受けて、ピーッと口笛を吹く。

 するとしばらくして、ズシズシと重い足音が背後の森から聞こえてきた。

 何かが木々を押し倒しながら、全力疾走しているようだ。


「クォーーーン!」

 やがてそれは姿を現す。


 四足歩行のズッシリとした重戦車のような体躯、頭部には鋭い角と盾のように開いた襟飾り。

 全身が黄金色に輝くその生物は、その異質さから一目で珍獣だと判別できる。


「珍獣装備『オリハルコン・トリケラトプス』」


 ファナさんがその珍獣の大きな腹部に手を当て、呪文のごとき何かを唱える。

 黄金の珍獣は眩い光に包まれた後、その姿を、同じく黄金に輝く大盾へと変形させた。


「ウボオオオオオオッ!!」

 ギャングコングは何か危険を感知したのか、再び拳を振り上げ、眼下のファナさんとレイアさん目掛けて全力で振り下ろしてくる。


不破の大盾オリハルコン・アスピーダ


 ファナさんは拳の着地点にて大盾を構えると、レイアさんを背後にし、逃げるような素振りを一切見せない。

 ズドーーーン!!

 凄まじい一撃がファナさんを襲い、その近辺に土埃(つちぼこり)が舞う。


 あんな攻撃をまともに食らって無事なはずはない。

 しかし(ほこり)が晴れると、そこには先程の体勢から微動だにしていないファナさんの姿があった。

 背後のレイアさんも、まるでこの結果が初めから分かり切っていたかのように、腕を組んだ姿勢のまま動いていない。


「囮!」

「うるせー! 役職で呼ぶな!」


 拳を押さえるファナさんが、タツゾウに対して雑に呼び掛ける。

 タツゾウは、巨大なゴリラの振り下ろされた腕の関節目掛け、大太刀を両手で握り、上段から斬りかかる。


「よっしゃー!」

 威勢よく放たれたその一撃は、見事に狙った部位へとヒットする。


 しかし、巨人カブの時と同様、思わず逃げ出したくなるような圧倒的サイズのギャングコングには、人間の攻撃など屁でもないのだろう。

 タツゾウの斬撃を受けてダメージを負った様子も無ければ、怯むような動きも見せない。

 眼球を動かし、ただじっとタツゾウの方を見据える。


「ウボオオオッ!」

 ギャングコングは、標的をタツゾウに変えて掴みかかる。

 迫りくる霊長類の巨大な手の平を前にタツゾウは不敵な笑みを浮かべていた。


 彼は左足を大きく前に踏み込み、半身の体勢を取る。

 そして左手を前に、右手のみで大太刀を掴み、右肩で担ぐ。


煬香流(ようかりゅう)・青龍流し』


 これまでのタツゾウの硬く力強い剣筋が、しなやかで柔らかいものへと変化する。

 ギャングコングの手の平は、タツゾウの大太刀に触れると、逃げるように攻撃対象である彼の身体から避けていった。

 タツゾウは攻撃を受け流した後、体勢を崩した巨大ゴリラの背中を伝い、その大きな後頭部の高さまで跳び上がる。


『煬香流・白牙破伝(びゃくがはでん)!!』

「ウボッ!?」


 右斜め下から左斜め上へと斬り上げられた強烈な一撃が、ギャングコングの後頭部へと直撃し、まだ体勢を整えていない巨体をさらによろめかせる。


「どうよ!」

 巨大ゴリラは上半身を大きく揺らし、やがて地面に突っ伏した。その頭上で、討伐者は誇らしげに腕を組み、胸を張る。

 僕は彼が繰り出す、見ず知らずの剣技の数々に圧倒されていた。


「あっ、あああ……」

「タツゾウ、ナイス! メーちゃんの作戦通りね!」

 しかし、巨大ゴリラの倒れた場所はこの上なく最悪な場所だった。


 僕とメンコが隠れていた木のすぐ側。

 ギャングコングの顔は、この騒ぎの発端であるメンコが視界に入るほど近くに来てしまう。

 ギロリと瞳が横にスライドし、メンコの目立つ赤髪を捉える。


「ウボオオオオオオオオオッ!!」

 瞬間、ギャングコングは怒りを思い出したように叫声を轟かせると、その怒りをパワーに変えて再び立ち上がる。


「うおっとっと!」

 頭上に乗っていたタツゾウが、突然の大きな揺れに体幹(たいかん)のバランスを崩す。

 そして、遥か高みから宙へと放り出された。


 ズドーーーーーーン!!

 空中で身動きの取れないタツゾウ目掛けて、巨大な握り拳による無慈悲の殴打が撃ち込まれる。


 タツゾウの体は目で追えない速度で飛ばされ、一瞬にしてこの場から強制的に離脱させられた。

 数十メートル先の茂みで、すさまじい音と共に草木が舞い上がる。


「タツゾーウ!!」

 あれは間違いなく人間なら即死の一撃だった。僕の頭の中に「転送」の二文字がよぎる。

 しかし、目の前にいる怪物は友の身を案じる暇さえ与えてはくれない。


「ウボオオオオオオッ!!」

「ぎゃああああああ!!」

「こっち来るなー!!」

 ギャングコングは僕とメンコを見下ろすと、間髪入れずに襲い掛かってきた。

 もちろん逆方向に全力で逃げ出す。


 こうして僕とメンコ、そしてタツゾウの三人は、レイアさん率いる元Dグループの徒党から、脱退する羽目になってしまった。


    ◇


 第二島内・北東エリア―――


 十奇人フェンリル。

 マナ系譜「狼」、通称「野人英雄」。


『氷狼バズーカ!』

 フェンリルの珍獣装備「雪人狼」から放たれた氷の柱が、森の木を(えぐ)り、抉ったところから凍らせていく。

 パキン、パキン、パキキキン。

 今の一撃だけで10人の受験生が転送された。


 ここまでフェンリルは100人以上の受験生を転送している。

 まだ、開始してから30分も経っていない。


「ちったあ根性ある奴いねーのかよ!」

 彼は未だ、見どころのある受験生を見つけ出せてはいなかった。


「グルルルル、おい、手応えがねえぞ!」

「ああ、超絶同感だ」


 特殊装備状態から獣へと戻った雪人狼は、自分が戦う受験生たちに対して不満を零した。フェンリルもその意見に共感する。

 彼らは、逃げ回るだけで反撃してこない受験生たちに、イライラを募らせていた。


「どうやらこっちから出向かねえといけねえようだな。雪人狼、好きに暴れろ。許可してやる」

 フェンリルは、このまま続くであろう鬼ごっこに終止符を打つべく、雪人狼に許可と言う名の指図をする。


「許可だと? 一体何様のつもりだ? まあ良いだろう、手伝ってやる。その代わり二度と俺をここに呼ぶな」

 退屈な仕事を押し付けられ、雪人狼は奥歯をギリギリと噛みしめながらそう言った。



 北西エリア―――


 十奇人ダリオス・アンドレアティ。

 マナ系譜「嵐」、通称「嵐刃狩人(らんばかりゅうど)」。


「おやおや、十奇人最速の俺から逃げられると思うのかい、お嬢ちゃん達?」

 ダリオスは、数名の女子受験生を木の上から悠々と見下ろす。

 彼を目視した途端、一目散に逃げ出した彼女たちを、ダリオスは回り込んで追い詰める。


「ちょっとは遊び相手になってくれたって良いじゃんよ。優しくするぜー?」

 腰を下ろしていた木の枝から飛び降り、物音を立てずに着地する。さながら、森の狩人のようである。


「珍獣装備『エアロジャガー』」


 ダリオスは己の両手に、金の爪と銀の小手という、派手な色合いの鉤爪を装着すると、その黄金の爪を受験生に対して指し向ける。

 逃げられないと悟った彼女たちもまた、それぞれが手に持つ武器を構え、十奇人の動きを注視する。


大気の刃アルティーリョ・デ・アリア!!』



 南エリア―――


 十奇人スブタ・テラ。

 マナ系譜「地」、通称「デブ将軍」。


「おっと、いけねいけね。集中するだす」

 スブタは左右に頭をブンブンと振り、暇を持て余したせいで襲ってきた眠気を振り払う。


 特殊装備であるゴツゴツとしたメイスを片手に、受験生を待ち構える方針を取っていたが、ついにその殴打武器を肩に担いで岩から立ち上がる。

 そのメイス、大きさが大柄なスブタの2倍ほどある。


「そろそろ仕掛けるだすか」

 ドスンッ!

 かなりの重量があるメイスを右肩に担いだまま、相撲取りのように大きくしこを踏み、それを両足で行う。


「珍獣装備『ブラキオ・アンキロ・サウルス』」


 事前動作を終えると、スブタは右肩に担いだメイスを両手で持つ。

 腰を落としてひねり、グッとエネルギーを溜める。


「まずは軽めにいくだす」

 腰は落としたまま、ひねった腰を勢いよく反対にひねる動きをする。

 同時に重い殴打武器を振りかぶってスイングした。溜めたエネルギーが一気に開放される。


殻割一震(からわりいっしん)


 ドッガーーーーーーン!! ズバババババババーーーーーー!!

 スブタを中心に、半径200メートルの木々が次々に倒れ、広がっていくように吹き飛ばされた。

 その一振りは、大地をも揺るがす。さっきまで草木の生い茂っていた場所が、この瞬間、辺り一面切り株だらけの荒野と化した。


「次はさらに広範囲にいくだす」



 南東エリア―――


 十奇人クログロス・トゥーレ。

 マナ系譜「花」、通称「生還特攻兵」。


 森には薄く、しかし広範囲に渡って(かすみ)が掛かっていた。

 見えるか見えないか、ギリギリの濃さの花粉である。


 珍植装備「パウダー・ラフレシア」

 クログロスが所有している、指輪状の特殊装備である。


 花粉を撒き散らすことによって、人間や動物の嗅覚に作用し、強烈な幻覚を引き起こす。

 対象者に、本人にとっての苦痛やトラウマの想起、または、抗いがたい享楽を与え、幻覚の中に意識を閉じ込める。


「こいつがあれば、あいつらは死なずに済んだのかもな」

 クログロスは、テロ組織「ノータリン」が引き起こしたあの騒動を思い出す。

 彼の頭には、今も仲間たちの断末魔がこびり付いて離れなかった。


 当時、クログロスが所持していた特殊装備は「フラッシュ・ラフレシア」のみだった。

 彼は特殊装備を複数所持していたが、別件で破損し、修理に出している最中にあの事件が起こってしまったのだ。


「さあ、一体何人が『幻奇香(げんきこう)』を破ってくるか……。はたまた、誰も来ないのか……。ははは、少し楽しみだな」


 クログロスは脳を切り替え、この二次試験に集中する。

 座るのにちょうど良い高さの切り株に腰を掛け、不敵に笑った。



 南西エリア―――


 十奇人チョウ・判。

 マナ系譜「賭」、通称「博打(ばくち)ジャンキー」。


 サニ・フレワーは、十奇人チョウ・判からできる限り距離を取る。

 彼は十奇人の使用する特殊装備について警戒していた。


(僕はあの人の特殊装備を知らない。まずは様子見からだねっ)


 サニは、判を視認できるかできないかのギリギリのところで見張る。

 その他の受験生も同じことを考えており、彼女に存在を気付かれぬよう木陰や木の上に潜み、様子を窺う者がちらほら見られる。


「シャッフル、シャッフルー!」

 判は、トランプを両手でシャッフルしている。

 複数回混ぜた後、両手に持つトランプが交互になるようにして、パラパラパラと一つにまとめる。


 気の抜けた雰囲気に、様子を窺う受験生たちは困惑する。

 相手は十奇人、戦闘のプロだ。この様子は、かえって気味が悪い。


「何が出るかな~、えいっ!」

 地面にトランプカードを裏返しに並べ、たくさんある中から一枚を選択する。


「あ、『黒のジョーカー』! 大当たり!」


 ポン、ポン、ポン、ポン!

 判がカードを確認した途端、受験生が近くにいる順に転送され始めた。

 異変を察知したサニは、すぐさまその場から離れる。


(一瞬で人があんなに! 彼女は一体何を!?)


 確かなことは、即死級の何かが受験生たちを襲ったという事実である。

 この一連の動きで転送された人数は実に52名。例年よりも、かなりハイペースで失格者が出ていた。



 同じく南西エリア。

 この場所では、これより試験官全員が注目するマッチが行われようとしていた。


「グギャアアアア!」

 第二島名物、怪鳥の奇声。


 大鳥の体は黒く、カラスのような見た目をしているが、大きな(くちばし)から牙を覗かせており、広げると3メートルほどある赤い翼を怪しくはためかせている。

 上空を飛び回り、嘴から火を吹きかけてくるその珍獣の名は「カルーラ」。

 鳥類種は、珍獣の他に「珍鳥」という呼称を併せ持つ。


 パアン! パアン! バリバリバリ!

「グギャアアア!」


 少女はその珍鳥をいとも簡単に撃ち落とす。

 上空に突如現れた巨大な怪鳥を前に、彼女は顔色を変えず、作業であるかのように地に落とした。


「この程度なら、別にどんだけ来てくれても余裕なんだけどな」

 つまらなさそうにそう言うと、前方へと歩を進める。


「さすがね、クロハ」

「ていうか、マジ敵なしじゃん!」

「つかさっきの残菊ってやつ? チョーしつこくてウザくね? クロハの足元にも及ばないくせに」

 クロハの後ろを歩く三人は、彼女の実力をこぞって称賛する。

「ま、無様過ぎてウケたけど」


 クロハの一行は、試験開始から辺りを警戒することもなく、森の中を突き進んでいる。

 途中、彼女たちが出くわしたものの中には、野生の虎や熊、狼の他に、肉食の珍獣や今のカルーラなど第二島の狂暴な生物が多数いた。受験生たちを苦しめる、出会いたくない獣ばかりだ。


 それらも今や、クロハ一行が通った軌跡(きせき)と化している。

 加えて先程も、出くわすや否や襲い掛かってきたジュガイ・残菊、ベシモ、ランチョの三人を返り討ちにし、珍獣の(えさ)として放置してきたばかりだ。


「人を見かけたら、そっこー消しに行く。慈悲はなし! 十奇人だろうと関係ない」

「おー、こわーい」

「もうこの際だから、うちらが最強ってハッキリさせた方が良いっしょ」

「うっし! あたしらに歯向かったらどうなるか、目にもの見せたらあ!」


 クロハが連れている三人も実力者であった。

 一次の桜水争奪戦時に、戦力としてAグループに大いに貢献した者たちである。


 ガサッ、ガサッ、ガサッ。

 突如、前方から葉の擦れる音が聞こえてきた。

 クロハを含む四人はその音に敏感に反応した。


「参ったぜー、あいつらとはぐれちまった。森の中でここがどこだか分かんねーし、どうすっかなー」


 高い背、鍛えられた肉体、そして、赤い目に銀髪。

 茂みから現れたのは、タツゾウだった。


「お、ラッキー人に会えたぜ! なあ、道を教えてくれねえか? 迷っちまってよ」

 タツゾウは、無防備に彼女たちに近寄る。


「必要ない」

「なにが?」

 クロハの応答に、彼はキョトンとした表情を浮かべる。


「今から消えるお前には、必要ない」


 パアン、パアン! ガキイーン!

 クロハは、両手の二丁拳銃をタツゾウに向け、即座に発砲した。

 発砲された二発の弾を、タツゾウは木製大太刀の一振りだけで、二つとも叩き落とした。


「道聞いただけで撃ってくるたぁ、お前も第二島の狂暴な珍獣ってやつか?」

「なんだ……、手応えありそうじゃん」

お読みいただきありがとうございました。

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