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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第三章・アカデミー試験編
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マナ系譜

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 試験開始を告げる銃声が天高く響き渡った。

 一次試験を共に勝ち抜いた、僕たち「元」Dグループは南エリアの海岸に固まっていた。

 今ここにいるグループのメンバーは400名で、第一次試験から100名減っている。全員が通過したCグループの次に残った人数が多い。


「皆さん、注目していただけますか?」

 一次の始めの時と同じように、レイアさんが全員の視線を集める。

「二次試験は団体戦ではありません。試験突破条件をクリア、もしくは試験終了時まで生き残った500名が通過できるという話でした」


 今回は、グループでの通過を目指すわけではなく、個人の力でその500人の中に入らなければならない。

 そのため、皆のおかげでこの場所に立っている僕にとっては、第一次試験よりも苦しい展開になりそうだ。


「個人戦ですので、私が今から言う提案は、皆さんとの取引ということになります」

 全員が「取引」という言葉にザワザワとし始める。


「取引……」

「乗って良いのか?」

「でも、個人戦だぜ?」


 団体戦時のレイアさんはとても頼りになった。

 彼女がいなければ、ここに立っていない者も多いだろう。それどころか、全員いなかったかもしれない。


 レイアさんは凄い人だ。それゆえ、きっと皆怖いのだ。

 今度は利用されてしまうのではないか、彼女の合格のために自分が使われるのではないか、と……。


「いいから聞かせろよ」


 ここで周りの空気に全く影響を受けない男が、レイアさんに早く「取引」の内容を話すよう促す。

「聞くだけ聞きゃあ良いじゃねえか」

 タツゾウの言葉で、ザワザワとした空気が収まる。


「では……、話させていただきます」

 僕はここで、レイアさんの隣に立っているファナさんと目が合った。

 基本ポーカーフェイスな彼女に、物凄く嫌そうな顔を向けられてしまった。僕は、彼女にそれほどまで嫌われるようなことをしたのだろうか。


「私の提案はただ一つ。この二次試験もDグループで徒党を組み、共に合格を勝ち取ろうというものです。個人戦にこそ、集団の強さが発揮されます」


 この提案は、僕としては万々歳だ。

 きっとレイアさんといれば、僕がこの試験を奇跡的に突破することも夢じゃない。


「私はその提案に乗ります! ついていきます!」

「俺もだ! レイア様に従うぜ!」

「レイア様しか勝たん!」

「レイア様と一緒にいた方が、絶対安全!」

「俺も!」

「私も!」

 彼女の提案に一人が賛同すると、他メンバーが次々に「YES」を唱え始める。


「勘違いしないで下さい」

 強い語気に、一瞬でその場が静まりかえる。


「この試験は個人戦です。これもあくまで『協定』なのです。ですので、自分の合否には自分で責任を負わなければなりません」

 声を上げた人たちが、反省したように俯く。

「各々が自分の合格ために動くのです。悔いの無いようこの試験を終えましょう」

 おそらくこの場にいた全員が、自分の中の甘えに気付かされただろう。


「それを踏まえて、私はあなたたちに力を貸します。だから、あなたたちの力も貸してください。それがきっと、良い結果をもたらしてくれると信じています」


「「「うおーーーーーーーーー!!」」」

 朝の明るい時間帯、波打ち際に、少年少女たちの力強い叫びが響いた。


「俺たちは降りさせてもらう。俺はテメーらなんかの力で合格すんのは御免なんでな」

 全員が一丸となる中、ジュガイ・残菊が水を差すようにレイアさんの提案を拒絶する。

 彼は発言した後、取り巻きの二人を引き連れてその場を離れようとした。


「神に勝利を約束されたレイア様の元から去ろうとは、なんと浅はかな。まあ、敗北者にはお似合いの道ですけど」

 ファナさんが顔色を変えずに、明らかに余計な一言を言い放つ。


「おい、そんなこと言ってて良いのかよ?」

 ジュガイ・残菊がものすごい形相で振り返り、ファナさんを睨みつける。

「要は1050人消せば自動的に合格になるんだろ? そのリストに、お前らも加えといてやるよ!」


 何とも恐ろしい考え方だ。

 確かに、受験者数が500人になってしまえば、その時点で残った全員の合格が決まるのだから、自分の力で受験生を減らしてしまえば十奇人が減らすのを待たなくても良い。実に彼らしい発想だ。


「俺は受験者狩りを始めるぜ。この場は温情で見逃してやるが、次見かけたら消す。覚悟しろ、元同じグループでも関係ねーぞ!」


 一次の時と似たような展開だ。

 違うのは、今回は彼らが僕たちに対して、明確な意思を持って攻撃してくるということだ。

 一次の時は、一応同じ目的を共有する味方ではあった。しかし今回は敵なのだ。


 僕の身体が小刻みに震えだす。

 仮試験で彼と対峙した時のことを思い出す。とても大きかった。あの瞬間、ちょっとだけアカデミー試験を受けたことを後悔した。

 彼がまた襲い掛かってくるのだと思うと、怖くて震えが止まらない。



「あなたは契約者でしたよね? 『マナ系譜(けいふ)』を教えていただけますか?」

「何で教えなきゃなんねーんだよ。系譜を教えるってことは、手の内を明かすってことだぜ? そう簡単に教えるかよ」


 レイアさんとタツゾウは、再び僕の知らない何かしらについて言葉を交わす。「契約者」の次は「マナ系譜」と来た。

 レイアさんは、そのタツゾウの物言いにほんの少しだけムッとした表情になる。


「大馬鹿者のあなたに教えてあげましょう。ここでは私がリーダーです。リーダーは戦力を知っておかねばなりません。ここまではさすがのあなたでも分かりますか?」

「なんだそのバカにした言い方は!? テメー舐めてんのかよ!?」

「失礼、大馬鹿者には噛み砕いて一つずつ説明しなければならないと思いましたので」

「お前マジ嫌いだぜ! もういい加減この辺で白黒つけようぜ!」

「構いませんよ。受けて立ちます」


 流れるように言い合いに発展してしまった。

 隣で見ていた僕は、始まってしまいそうな決闘を未然に防ぐべく、二人の間に割って入る。


「二人とも! 決闘なんてダメですよ!」

 レイアさんとタツゾウは互いに顔を背ける。

 意地になって譲り合わないところは、あの廃ビルの時からまるで変っていない。


「ところで、『マナ系譜』ってなんですか?」

「はぁ!?」

「ぶわっはっはっはっは!」


 レイアさんは切れ長の美しい目を大きく見開き、タツゾウは大笑いする。

 こうなることはある程度予想できた。田舎育ちの僕には、いわゆる世間一般の常識が身に着いていないのだろう。

 クロハ、ススム君、ごめん。僕のせいで、ドラミデ町の株をまた一つ下げてしまったよ。


「マナ系譜とは、各個人のマナの性質を意味します」

 レイアさんが説明を始めてくれる。

 しかし、最初で躓いた。


「マナ……?」

「…………」

「わはははは!」

 遂に彼女は無言で額を押さえ、頭を数度横に振り出した。タツゾウはずっとケラケラと笑っている。


「とにかくマナ系譜とは、個人の持つ性質を表すものです。それらの特性は、遺伝による影響が大きく、大体はその人の家柄で決まります」


 興味深い事柄に聞き入ってしまう。

 僕だけが知らないのだろうか。ススム君やクロハは、このことを知っているのだろうか。


「私の場合は『雪』で、麗宮司家でも代々、『氷』『(しも)』『(ひょう)』などの似通った系譜を持つ子が生まれています。珍獣と契約する際は、自分のマナ系譜と相性の良い珍獣と契約することが大事なのです」


「お~」

 説明を終えたレイアさんにパチパチと拍手を送る。

 珍獣との「契約」や「マナ」とやらについてはまだ理解していないが、なるほど……、やっぱり珍獣って面白い。


「まさか、あなたの常識知らずがここまでだとは……」

「わっはっはっは! もちろんお前にもマナ系譜があるんだぜ!」

「ええっ!? そうなの!!」


 無性に気になる。

 僕の性質。一体どんなものだろうか。


「俺のは『熱』だ」

「おそらくですが、グループの中で特殊装備を使用可能なのは、私とファナ、そしてあなたの三人だけです。私が先ほども言った通り『雪』、ファナが『盾』です」

「でもよ、特殊装備を使うにしても、適性のある珍獣をこの島内で見つけないといけねーだろ?」

「その通りです。私達の系譜に適合する珍獣と()()()を結ばなければなりません」


 仮契約。確か廃ビルの屋上で六さんが言っていたやつだ。

 あの時、僕と六さんは仮契約なるものを結んでいた。


「どうすんだ?」

「もちろん探します。特殊装備使いが三人もいれば、この試験を有利に進められることは間違いありません」


 これからの動きを話し合うレイアさんとタツゾウの元に、グループの一人が慌てた様子で走ってくる。

 顔を青ざめさせ、息を切らしている様子を見るに、只ならぬ何かが起こったことが見て取れる。


「や、やりやがった! レイアさん! あいつがやりやがった!」

 彼の報告は要領を得ない。

「落ち着いて下さい。何があったのですか?」

 レイアさんは、木に手をついた彼に、その息を整えさせる。


「赤髪のアホ女が、とんでもなくデカいゴリラを怒らしやがった!」


    ◇


 一方そのころ、元Dグループ以外の他の受験生たちは、2~3人でチームを組み、または個人で、この第二次試験に臨んでいた。


 彼らはなぜ、元Dグループ同様に一つにまとまることが無かったのか。

 その理由は、一次試験の攻略法に違いがあった。


 一次試験の突破には、育成した巨人カブに桜水を掛けることが必須であった。通過するために、多くのグループが桜水の争奪戦を行った。

 しかし、いざ掛ける段階になり、桜水による巨人カブの成長の副作用を知ると、彼らの意見は大きく二分した。


 自分たちが育てた命を「使う」という罪悪感に耐えきれない者たちと、それでも試験を通過したい者たちとの間で不和が生じたのだ。

 多くの場合、通過したい者たちが多数派であるため、結局桜水を掛けることになり、一次試験を通過することになる。


 桜水を掛け、一次通過を決めた後のグループの雰囲気はというと、最悪である。

 少数の意見をねじ伏せ、通過を決めたグループが再び結集することは無い。チーム一丸にはなれないのだ。


 たとえ、桜水を掛けるか否かの論争時に、同じ意見を持つ者同士であっても、仲間として信用できるのかというのは別問題である。

 彼らは真のチームにはなれなかった。


 その反面、Dグループは育てた巨人カブを殺すことなく、一次試験を通過した。

 彼らは未だチームであった。


 結果的にではあるが、雨森ソラトの残した「和」が、人知れずDグループメンバーにアドバンテージをもたらしていたのだ。



 第二島、北西エリア―――


「それじゃあな、委員長」

 クロハはススムに対し、背中越しに語り掛ける。

 その周りには、他に三名の女子受験生がおり、これからクロハと同行する元Aグループの実力者たちである。


「本当に来なくて良いんだな?」

「うん、悪いけどね」

 クロハの誘いをススムは断った。

 彼の試験へ臨む姿勢と、彼女の考え方に違いがあり、同行を拒否したのだ。


「あたしらは十奇人に挑むのと並行して、受かるために受験者を消して回る。同行しないってことは、委員長もその対象になるけど?」

「それも一つの合格の勝ち取り方だから、俺から言えることは何もないよ。でも俺は気乗りしないな。正々堂々、500人の中に入ることにするよ」


「ふん、相変わらずお堅いな」

 クロハはそう捨て台詞を吐くと、他の三人と共に森の中へと消えていった。



 第二島、南西エリア―――


「ひいいい! やめてくれー!」

「逃げ場なんてねーぞ!」

 受験生は逃げ惑い、頭を抱えて目の前の横暴な行為に嘆く。

 ジュガイ・残菊一行は、森で偶々(たまたま)見つけた青年に対して問答無用で襲い掛かった。


「ふ、ふざけるな……」

「あん?」

「ふざけるなあああああ!!」

 しかし、襲撃を受けた側も黙ってやられるわけにはいかない。木刀を握り締め、咆哮(ほうこう)を上げて残菊に斬りかかってきた。

 その血迷った行為に、ベシモはクスリと嘲笑う。


「ぬおらあああああ!!」

 残菊の大木のような腕が真っ直ぐに伸び、斬りかかってきた受験生に向かってラリアットを撃ち込む。


 巨大な肉体から繰り出される大迫力の一撃が、木刀を持つ青年に襲い掛かる。

 ラリアットが木刀に触れると、ポッキリと真っ二つに割れ、その上半分が宙を舞った。


「あぁ」

 ズドーーーン!!

 終わりを悟った青年は、息を吐くような声だけ残し、その場から消滅した。


「受験者狩りに、ターゲットとかいるかい?」

 ベシモは残菊に何と無しに尋ねる。

「見かけた奴から消してやる。だが……」

 言いながら残菊は、一次試験で自分の身に起きた衝撃的な事件のことを思い出していた。


「あの女だけは許さねえ! 奴だけはこの試験内で必ず消す!」



 第五島、運営エリア―――


「この試験で受験生の大体の実力が把握できます。この第二島には、強力かつ狂暴な珍獣が多く生息していますからね。たとえチームを組んでいたとしても、実力の無いものから消えていきますよ。毎年そうです」

 クルーズは、試験を見守る運営スタッフの一人に対してそう告げる。


「受験生を測る基準として、戦闘力、知力、体力等はもちろんあります。しかし、それらはアカデミー試験全体の大前提です」


 一次試験、二次試験にはそれぞれ異なる目的がある。

 アカデミー試験の運営責任者であるクルーズが、その目的に沿うよう試験内容を考えている。


「一次試験には様々な目的がありましたが、実は隠れた目的の一つに、『リーダーシップ』と『リーダーを選ぶ力』の見定めもあったんです」

「そうなんですか、気付きませんでした」

「グループを合格に導くリーダーとしての器があるか、無いのならば、他の受験生がそれを見抜き、適任者を選び出せるかというものです」


 チームをまとめることのできる、そして良い方に導けるリーダーを選ぶ。

 受験生たちは、自分たちのリーダーにふさわしい人物を選ばなければ通過を勝ち取れないため、リーダーの言動や行動に注意を払わなければならない。


 事実、リーダーの変更が途中で起こったグループは存在した。

 グループのメンバー全員で一次を通過することに成功した、Cグループである。

 彼らは自分たちのグループ内にいる、リーダー適任者に気付くことができたのである。


「そしてこの二次試験は、戦士にとって重要な要素が試されています」

「それは何なのでしょう?」


「生き延びる力です。よく敵を討つ力こそ重要だと言う人がいますが、それはあくまで一つの要素にすぎません。敵を討てたとしても、その戦士が生き残らなければ、我が軍の戦力は減る一方ですからね」


 大切なのは、より長く生き残ること。

 生き残りさえすれば人は成長でき、前回倒せなかった敵も、次回には倒せるという可能性が残る。

「長く戦える戦士の養成」はアカデミーの理念でもある。


「生き延びることが、戦士にとって最も重要な要素ですか……」

「君にも、まだまだ働いてもらわなくては困りますよ」

お読みいただきありがとうございました。

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