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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第三章・アカデミー試験編
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第二次試験、ハラハラ! VS十奇人!

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 首長列島・第二島。最終、二次試験が行われるフィールドだ。

 一次試験が行われた第一島から第二島に移動し、二次試験の説明を受ける前に、僕たち受験生には朝食の時間が与えられる。


「「マジか(け)!!」」

 昨日以来の再開となったマータギ君とキコリ君の二人は、僕を前にして同時に大きな声を上げた。


「でも、何でけ?」

「それだよな。一度失格になったのに、それが覆ることなんてあるんだな」

 キコリ君とマータギ君も、僕と同じで疑問が払拭(ふっしょく)できないようだ。


「なんでも良いじゃねーか! やったなソラト!」

 タツゾウは理由には興味が無いらしい。

 彼にとって重要なのは、僕が一次試験に受かったという事実なのだろう。

「うん、ありがとう!」


 支給されるパンを貰うため列に並ぶ。

「やっ!」

「あ! 君はあの時の!」

 肩を軽く叩かれ後ろを振り向くと、そこには印象的な橙の髪に甘いマスクを持つあのイケメン少年が立っていた。


「一次試験の時はありがとう。君のおかげで、巨人カブを助けることができたよ」

「良いさ、君もその巨人カブも無事で良かったよっ」

 彼は見た目だけでなく、中身も良い男のようだ。


「僕はサニ。サニ・フレワーだ、よろしく」

「僕は雨森ソラト、よろしくサニ君」


 お互いの名前を教え合う。

 サニ……。はて、どこかで聞いたか見たような気がする。どこでだっけ……。

 思い出せないので諦めた。僕の経験上、こういう時に思い出すことはほぼない。


「何が良いかい?」

「クロワッサンでお願いします!」

「おー、ラッキーだね! 最後の一つだよ!」


 パンは3種類ほどあり、速い者順に選ぶことができる。

 僕の番になり、クロワッサンを所望すると、なんとラストの一個だった。こんなについていることが未だかつてあっただろうか。


「ラッキー、ラストの一個いただき」

 僕が並んでいる列の横から、突如パンを奪われる。


 クロハだ。他にも3人いる。


「やったじゃん。日頃の行い的な?」

「クロハのために並んでてくれたの? 優男じゃーん、あはははは!」


 ああ、久々のこの感じ。

 このどうしようもない無力感。


「なんか文句ある?」

「…………、ないです……」

 彼女の威圧感のある睨みで凄まれ、僕はいつも通り反抗できずに、朝食のパンを奪われてしまった。

 ふん、と鼻を鳴らして立ち去っていく。本当におっかない。


「良いのかい? 彼女、だいぶ横暴だよっ」

「あはは、しょうがないよ……」


 渋々別のものを選んで、列を離れた。

 きっとどこに行こうと、僕と彼女の関係は変わらないのだろう。


「どうやら君は、自分に全く自信がないようだけど、僕は君のような人こそ八併軍の戦士になるべきだと思うよ」

「へ?」


 サニ君の言葉に困惑する。

 彼は、一体僕のどこを見てそう思ったのだろうか。こんな弱っちくて情けない僕の、どこに戦士に相応しい要素があると言うのだろう。


「それじゃ、また後でねっ」

 彼は額を二本の指でパチンと弾く。これが彼お決まりのジェスチャーなのだろう。

 朝食のパンを抱え、人込みに紛れて消えてしまった。


 タツゾウたちのいる席に向かう。

 四人席で、空いている一角に腰を掛ける。


「俺は、今日勝ちに行く!」

 座ったと同時に、向かいに座るタツゾウの強気な発言が聞こえてきた。


「やめとくけ。返り討ちにされるのがオチけ」

「俺は開始早々、全力で逃げるね」

 マータギ君とキコリ君は、タツゾウとは違って、ごく普通の弱気な思考だ。


 かく言う僕も同じ考えだ。

 僕が十奇人と戦って勝てるはずもない。逃げるので精一杯だろう。いや、もしかすると、逃げられると思っていること自体が、もうおこがましいのかもしれない。


「はあ……、不安だ」

「大丈夫、俺らも不安だからよ。正常だ。あいつがおかしいだけだ」

 隣のマータギ君がタツゾウの正気を疑いながら、大きくため息をついた僕の背中を叩いて励ましてくれる。


    ◇


「受験生の皆さん、二次試験通過おめでとうございます」

 一次試験を通過した受験生を前にして、試験官・君嶋は第一次試験の結果の発表、および第二次試験の説明を始める。


「先の一次試験を通過したグループは、A、C、D、H、Iの5グループ。人数は、Aが300名、Cが500名、Dが400名、Hが250名、Iが100名となっており、第二次試験の受験者数は合計1550名です」


 受験者数5000名の半数以上が落ちることとなった、激しい第一次試験を潜り抜けた者たちの顔つきは、君嶋に、アカデミー試験開始時よりも一回り(たくま)しくなった印象を与えた。

 この試験の最終的な合格者数が500名であるため、二次試験が終わった時には、今いる人数のさらに半数以上が故郷へと帰ることになる。


「本日行われる第二次試験の内容ですが、もう知っている人も多いでしょう。『ハラハラ! VS十奇人!』です。毎年二次試験は、現役の十奇人が受験生の相手となり、八併軍のアカデミーに相応しい人材を見極めます」


 千名を超える受験生に対し、十奇人の数はわずか5名。

 1550対5のサバイバルバトル形式で行われるため、一見十奇人にとってかなり厳しそうな内容ではあるが、八併軍の上位戦士と未発達の受験生とでは、その実力に天と地ほどの差がある。

 自分よりも圧倒的に上の実力者と相対した際、どのように振る舞うかが試される。


「十奇人へ攻撃を当てること、十奇人へ触れること、そして十奇人から承認を得ること。この3つの内、いずれかをクリアすることが合格条件です」

 君嶋が、試験の突破条件を伝える。しかし、これらの方法で合格を決める受験生はごく稀である。


「この試験によるアカデミー受け入れ人数は500名です。つまり、合格条件を満たせずとも、500名のうちに入った場合は合格となります」

 毎年受験生の大半は、十奇人から逃げ切るという選択をし、500名以下になるまで耐え忍ぶ手法を取る。


 彼らが戦うのは、クログロス、フェンリル、判、ダリオス、スブタのクルーズを除いた十奇人5名。

 第二島を5つのエリアに分け、それぞれに十奇人が配置される。


 島の北東にフェンリル、北西にダリオス、南東にクログロス、南西に判、真南にスブタと言った具合である。

 受験者各人にとって一次試験以上に厳しい戦いになることが予想される。


 第五島にある運営本部のエリア内には、治療用テントや失格者用の広場があり、転送された受験生は、ここを利用することになる。

 第二次試験では毎年、始まって10分も経たない内に、100名程度の受験生が転送されるため、運営は試験の初っ端から大忙しである。


「さらに受験生と十奇人、両者の特殊装備の使用が認められています。本来八併軍戦士のみに使用許可が下りる特権を、特例でこの第二次試験の期間において、全受験生に授与します。存分に活用してください」


 受験生による特殊装備の使用が解禁される。

 本来、八併軍の戦士やアカデミー生が、その実績等を評価され、上層部の承認を受けることで手にすることのできる権利である。


 しかし、試験の突破条件と同様に、毎年、特殊装備を用いる受験生の数はごく少数である。

 その理由の大半は、使わないというよりは使えないことにある。受験生の段階で特殊装備を使いこなせる人間が、そういるわけではない。



「それではこれより、第二次試験を開始します」

 君嶋が、右手のピストルを天に突き刺すように向け、左手で自分の左耳を押さえる。


 受験生たちは試験エリア内に広く散らばった後、開始の合図を待つ。

 対する十奇人たちも、何人かは狩人の目をして、発砲の音を今か今かと待ちわびていた。


 パアン!

 第二次試験開始の銃声が、島全体に響き渡る。


「んじゃあ、超絶手加減なしで行くぜ!」

「美人さんには、優しくしちゃうかもな」

「…………、始まったか」

「受験生諸君、私がかわいいからって、油断しちゃだめだぞー!」

「おいら、甘く見たら終わるだすよ」


 十奇人たちが動き出す。


「行きます。これは、私にとって通過点です」

「よっしゃ! 燃えてきたぜ!」

「ま、十奇人相手なら楽しめそうじゃん」

「俺の力を証明する!!」


 挑戦者たちもそれぞれの意気込みを見せる。


「あわわわ、気合、気合入れなくっちゃーーー!」


 第二次試験。

 足りない者は、ただ泣いて帰るのみ。

 ここは「挑戦の墓場」である。

お読みいただきありがとうございました。

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