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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第三章・アカデミー試験編
47/117

それぞれの役割

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「協力しなさい」

「断る!」

 レイアさんとジュガイ・残菊(ざんぎく)が言い争っている。


 僕たちは、種を発見した後、レイアさんのいるところへ運び、彼女の指示通りに栽培を開始した。

 彼女によると、育成手法は主に三段階に分かれているらしい。


 第一段階は、「巨人カブ育成に適した土」を用意し、そこに種を植える。

 第二段階は、水やりをし、芽が出るのを待つ。

 第三段階は、「桜水(さくらみず)」をかける。


 普通に育てるだけならば、最後の工程にある「桜水」は必要ないそうだ。

 しかし、今回は早く、そして大きく育てなくてはならないため、それが必要になるらしい。


 僕たちDグループは、この育成工程をスムーズに行うために、三つの班に分かれて役割を分担し、作業に取り掛かることになった。


 第一班の役割は、「巨人カブ育成に適した土」の作成だ。

 この土を作るためには、肥料として、この島に生息すると思われる珍獣「四鹿苦(しかく)」の(ふん)を使用するらしい。つまり、彼らの縄張りに入らなければならない。


 第二班は、水やりだ。

 川から水を()んできて、それをかけるだけの最も単純で簡単な作業だと言える。

 第二班とは言っても、人員は二人だけだ。レイアさんは、僕をこの班に抜擢(ばってき)したため、彼女の僕の能力に対する信頼度の薄さがわかる。


 第三班は、「桜水」の採取だ。おそらくこれが一番難易度の高いミッションだろう。

 桜水は、桜色をした液体のことで、高所に少量しか湧かず、この島の山の頂上付近にあることが推測されるらしい。


 なぜ難易度が高いのか。それは桜水が少量であるがゆえに、他のグループとの競争に勝たなければならないことが挙げられる。

 言ってしまえば、ここが一次試験を通過できるか否かの分岐点となる。この責任重大な第三班は、タツゾウやレイアさんなどの、戦闘に自信のある人で構成されている。


「なんで俺が第三班じゃねーんだよ!」

 ジュガイ・残菊は荒れていた。

 重要任務である桜水採取のメンバーに、自分が選ばれなかったのが納得できなかったらしい。


「あなたの実力を見込んで、第一班に組み込んだのですよ」

 レイアさんは自分よりも一回り、いや二回りほども大きい残菊に対して、一歩も退くことなく向かい合う。


「意味が分からねーよ! 実力があるんなら、第三班じゃねーのかよ! 俺は俺の実力を見せつけてーんだ! 糞取りなんてつまんねー仕事はごめんだな!」

 ジュガイ・残菊は、眼下のレイアさんに圧をかける。


 彼の恵まれたその巨躯(きょく)は、タツゾウやキコリ君、マータギ君よりもさらに大きい。僕からすると、樹齢千年越えの大木のように感じられる。

 チクチクと(とげ)のように(とが)っているグリーンヘアーのせいか、パッと見ると人ではなく、怪物のようにも見える。

 彼のラリアットを食らって、よく生きていたものだと思う。


「戦力は、バランスよく配分しなくてはならないのです。強いメンバー全員を何も考えずに第三班に入れるわけにはいかない」

「ちっ、クソが! 俺は勝手にさせてもらうぜ!」


 レイアさんの考えを聞いてなお彼の態度は変わらず、不貞腐(ふてくさ)れたまま森の中へ入っていってしまった。

「はあ」とレイアさんは困ったようにため息をつく。


「待ってよ、残菊くーん」

「おいらたちを置いていくなよな~」

 常にジュガイ・残菊と行動を共にする二人組が、彼の後を追う。


「始末しますか?」

 ファナさんが物騒(ぶっそう)な問いをレイアさんにする。僕は、自分のことではないはずなのに、ブルブルと身震いをした。

「やめなさいファナ、物騒よ。それに、彼の力は必ず必要になるわ」



 受験生はそのほとんどが、仮試験・実技の部で使用した武器を所持している。これを駆使して、勝ち残れということなのだ。

 僕も電気ショックガンを一丁、腰に携えている。とは言え、使用は極力控えようと考えている。味方を撃った前科があるからだ。


 第一班と第三班のメンバーは、各々が自分で選んだ武器を手に出発する。

 元いた場所には第二班の二人だけが取り残された。


「ねえ、やっぱりそろそろ……、僕たちも水を汲んで来ようよ」

「う~ん、ムニャムニャ」

 僕は、試験中にもかかわらず、爆睡(ばくすい)を決め込んでいるもう一人の第二班メンバーに話しかける。


 原色に近い赤の髪を後ろで団子のようにまとめた彼女の名前は、メンコ・メンゴ。

 雑草が生い茂る地に寝そべり、よだれを垂らしながら眠っている。ゴツゴツとした石も所々転がっているため、とても寝心地が良いようには思えないが、本人は気持ち良さそうにぐっすり眠っている。


 皆が出立してすぐに水を汲みに行こうとしたのだが……、

「メーちゃん、ちょっと眠いから寝る。五分経ったら起きるから」


 メンコがそう言ってから約二十分が経過している。

 僕はその間、何度も彼女を起こそうと試みたのだが、眠りが深く一向に起きる気配がない。

 何というか、うらやましい。僕もこれぐらい自由奔放(じゆうほんぽう)で、こんなにもマイペースだったらどれだけ楽だろうか。


「メンコ! 起きてよメンコ!」

「くかー、くかー」

 語気を強めて彼女の名を呼ぶ。結果が変わる様子はない。


 僕たちが運んでくるべき水の量は、バケツ四つ分、つまり両手にバケツを持った人が二人いれば、一回の往復で運び出すことができる。

 しかし、片方がこの有様では、一回の往復で巨人カブ育成に必要な水分量を運び出すのは不可能だ。僕一人で二往復しなければならない。


 近くに河川は見当たらないため、まずは探すところからになる。場合によってはかなり歩くかもしれない。水辺を探し、水を汲み、ここまで運んで来るのだ。

 ちょっと大変だけど仕方ないか。皆に迷惑はかけたくないし。


 仕方なく起こすのを諦め、その場を去ろうとメンコから目を背けた時、僕の目の端に、仰向けで寝ている彼女の片目がパチリと開くのが捉えられた。

 急いで振り返る。慌てて開いた片目を閉じるメンコが確認できた。


「くかー、くかー!」

 彼女は起きている。さっきよりも寝息を大きく立て、どうにか僕のことを誤魔化そうとしているが、それで騙せると思ったら大間違いだ。


 彼女が寝たふりをしている理由、それは見え透いている。

 仕事が面倒くさいからだ。できれば僕一人に押し付け、自分は居眠りを決め込んでおきたいのだ。

 何と怠惰(たいだ)で浅ましい魂胆だろうか。


「メンコ、起きてるよね?」

「くかー、くかー!」

 まだバレていないとでも思っているのだろうか。ならしょうがない。

 僕はメンコの腕を掴み、その小柄な体を地面に引きずりながら強引に連れていく。


「うわー! やだ! やだー!」

 なんだかコワンを思い出す。嫌がっていても強制的にさせないといけないことはある。

 まさか、人間相手にそんなことをする日が来るとは思わなかったが……。


「行くよ! じゃないとレイアさんに言いつけるよ!」

「それもやだ! あの人怖そうだもん!」

 とても同級生とは思えない言動だ。子供の相手をしている気分になってくる。アシュ君でももうちょい大人だったと思う。


    ◇


「聞いてないんですけど」

「こいつはまずいけ」


 マータギ・マッケントイとキコリ・ショイト、その他第一班の面々は足を止めていた。

 彼らは肥料となる、珍獣「四鹿苦」の糞を求めてその縄張りの目の前まで来ていた。


 しかし、ここから先に進むのは躊躇われた。

 彼らは丘の上から縄張りを見渡しているが、眼下には数十匹という四鹿苦がウヨウヨと辺りを歩き回っていた。

 四鹿苦は防衛本能が強い。縄張りに侵入したのがバレれば、即座に数十匹から突進を浴びることになるだろう。彼らの角で貫かれでもしたらひとたまりもない。


「ジャンケンにするか。二人選ぼうぜ」

 マータギが、糞を取りに行く人選を運に委ねる提案をする。

 全員がゴクリとつばを飲み込む。ここで負けて糞を取りに行く人には、失格のリスクが伴う。その場にいる第一班全員の拳に嫌でも力が入る。


「けっけっけっ、ジャンケン……、心理戦じゃあ俺に敵はいないけ」

 キコリは、ジャンケンに対して異様な自信を見せる。

「ふん、俺も自信があるんだよな! 悪いけど勝たせてもらう。よし、じゃあいくぞ! ジャーンケーン……」

 マータギが、キコリ同様に全く根拠のない自信のほどを述べてから、タイミングが合うように音頭を取る。

「ポン!!」


 選ばれた二人は、両手に身を隠せるほどの大きさの雑草を持ち、匍匐(ほふく)前進で慎重に進んでいく。

「糞ってどの辺にあるんだ? 縄張りの真ん中か?」

「わからないけ。近くにあることを願うけ」

 キコリとマータギの二人は、周りに聞こえないトーンでコミュニケーションを取る。


「しっ、静かにしろ!」

 マータギが、人差し指を口元に持ってくる。


 近くを全長約2メートルの珍獣が通る。

「キイーーーン!」

 甲高い鳴き声に、二人は身を震わせる。そして見つからないよう、じっと動きをこらえる。


 ガサッ。

 急に、四鹿苦が動きを止めた。

 何か異変を感じたのか、辺りをキョロキョロと見まわす。


 しかし、その高い視界には、伏せている人間の影は目に入らなかった。軽快な(ひづめ)の音は二人の側を無事通り過ぎる。

「はあ」と二人同時に安堵のため息を漏らした。


 キコリとマータギは、見つからないように匍匐前進を続け、やっとのことで縄張りの中央付近に四鹿苦の糞を発見する。

「見つけたぞ!」

「やっとだけ!」

「急いで戻ろうぜ! 時間が掛かり過ぎちまった」

 二人は、一刻も早く他のメンバーがいる場所へ戻ろうと、来た時の倍のスピードで地面を這った。

お読みいただきありがとうございました。

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