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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第二章・イア騒動編
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楽しいとおいしい

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 レイアさんのホテルを出てから、僕はタツゾウと六さんのいる宿泊先に向かった。

 僕も退院したら、彼らと同じその宿泊施設を拠点に試験を受けることになっていた。


 203号室。ここが僕の部屋で隣の202号室がタツゾウと六さんの部屋だ。

 自分の部屋に荷物を置いて、202号室へと向かう。


「おう、ずいぶん遅かったじゃねーか! 約束は12時だぜ!」

「あはは、ごめん。道に迷っちゃってて」

「やっぱそうだったか」


 タツゾウは元気に出迎えてくれた。

 レイアさんと喧嘩したと聞いていたため、不機嫌なんじゃないかと思ったがそうではなかった。


「ここにはたどり着けたんだな」

「ワイフォン、ついさっき買ったんだ」

「やーっぱし持ってなかったか!」

 どうやらタツゾウは、トラブル時の僕の状況がなんとなく分かっていたらしい。


 部屋に入ると、六さんがベットの上で開脚をして、上半身を横に倒しているところだった。

「ソラト君、どうじゃった?」

「お話しできましたよ。来てくれるかどうか分かりませんけど……」

「ご苦労さんじゃい」

「何してるんですか?」

「ヨガじゃい」

 カエルもヨガするんだ。この世界はまだまだ未知で溢れている。



 約束の7時半になった。僕とタツゾウと六さんの三人は、ギリギリ約束の時間に辿り着いた。

 昼食で食べたつけ麺の味を忘れられなくて、また戻ってきてしまった。


「遅かったですね。5分前行動は基本ですよ」

 レイアさんは約束の時間の5分前に来ていた。

「お堅い女だな~、もっとゆったり行こうぜ」

「そう言うあなたはマイペースが過ぎますね」

 出会い頭に二人の睨み合いが始まる。


「二人ともやめましょうよ。せっかくの美味しいつけ麺が、美味しくなくなっちゃいますよ。皆で楽しく食べましょう!」

 せっかくの祝勝会なのだ。おいしいものは楽しく食べれば、もっとおいしくなる。


「へいらっしゃい! ん!? 昼の坊主じゃねーか!」

「また来てしまいました」

「何回来てもらっても構わねーさ! 今回は別のお友達かい?」

「はい! 祝勝会です!」

「何のかは知らねーが、いっぱい食っていきな!」

 店主さんは、昼と同じテンションで温かく向かい入れてくれた。


「えっと、三人と一匹です」

「そっか。んじゃ、空いている四人席に自由に座ってくれ」

「わかりました」


「えっ!? 一匹ってなに!?」


 僕たちは四人席に着く。

 六さんは周りに見えないよう一番奥の席で身を潜めている。


「あのー、祝勝会の前に皆さんに言わなければいけないことが……」

 僕は両手をテーブルの上に置き、脇を広げて謝罪のポーズを取る。

「この度は色々すいませんでした!」

 気合を入れて謝る。大きな声で、はっきりと。


「何がだよ?」

 タツゾウは、僕の謝罪に心当たりがないような顔をする。

「タツゾウには僕の我儘でついてきてもらったのに、後ろから電気ショックを浴びせるという仕打ち……」

「ふはははは、あったなー! 忘れてたぜ!」

 彼が気絶する直前に放った断末魔のような叫び声、「ほんげー」については、本人も嫌がりそうなので黙っておくことにする。


「レイアさんには、屋上でのバズーカの一件と食事会の時間に遅れてしまったこと……」

「食事については怒っていないと言ったでしょう。バズーカに関してはブチ切れています」

 危うく死んでいたのだ。当然だ。


「六さんには、戦闘中に足を引っ張ってしまったこと……」

「ソラト君のせいじゃないわい。それに、最終的にはソラト君のおかげであの場を脱出できたんじゃい」

 六さんはフォローを入れてくれる。


「諸々本当にすいませんでした!」

 テーブルに付くまで頭を下げる。

「よせよ、楽しく食べようって言ったのお前だぜ? 別に怒ってねーって。とっとと注文してつけ麺食おうぜ!」

 タツゾウはそう言ってメニューを取り出し、どれにするか選び始めた。

 向かい合うレイアさんとは目を合わせようとしない。


 しばらくしてから彼が口を開いた。

「悪かったな。お前のこと分かろうとしなくて……」

 レイアさんはタツゾウの言葉に反応し、逸らしていた目を彼に向ける。

「いえ、私こそ口が過ぎました。あなたのことを理解しようともせずに……」


 レイアさんは、さっきホテルの前で持っていた紙袋を取り出し、中から僕が貰ったものと同じような包装された箱を取り出す。

「あの、これ、良かったら……」

「お! チョコレートじゃん! サンキュー!」


 タツゾウはメニューから、レイアさんのチョコレートへと視線を移す。彼は差し出されたチョコレートに、いきなりテンションを上げてみせる。

 六さんはその様子をにっこり笑って、嬉しそうに見つめていた。


「六助さんもどうぞ」

「ありがとうなー、レイアちゃん。あっしの分も買ってくれたんかい」

「チョコレート、食べれますか?」

「好物じゃい!」

 彼は贈り物を受け取ると、満足げな表情を浮かべた。


「皆さん、何食べますか? ここのつけ麺は絶品なんですよ! 僕はこの『極旨! 神ダレつけ麵』にします!」

 僕は、メニューの見開き一ページに堂々と載っている、店内人気ナンバーワンのつけ麺を指さす。

 なんだかとってもおいしく食べれそうな気がする。



「店主さん、ごちそうさまでした! おいしかったです!」

「あんがとよ、坊主! また来てな!」

 帰り際に店主さんに挨拶する。また機会があれば、食べに来たい。


「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

「サンキューな嬢ちゃん!」

「おっさん、ごちそうさま! マジで旨かったです!」

「兄ちゃんもあんがとよ!」

「ごちそうさんでした。美味かったわい」

「まいどっ! また来てくださいねー!」


「えっ!? カエルが喋った!?」


    ◇


 店のあったデパートを出ると、空は真っ暗だった。

 しかし、街から発せられる光が夜の暁華街を照らし、辺りは昼さながらに明るかった。


「本当に一人で大丈夫かいな? 嬢ちゃん一人では危ないんとちゃうんか?」

 六さんが、レイアさんの帰り道を心配する。


「大丈夫です。迎えも来ますので、ご心配なさらないで下さい」

 僕の推測に過ぎないのだが、彼女の「迎え」は、彼女が望めばどこであろうと来てくれるのだろう。

 流石はお金持ち。一般人との違いを自然に見せつけてくる。


「それでは私はこれで失礼します。皆さんも帰り道に気を付けてください」

 レイアさんは、育ちの良さが伝わる丁寧なお辞儀をすると、僕らに背を向けて立ち去る。


「おい! 試験絶対落ちんなよ!」

 タツゾウが、遠ざかるレイアさんの背中に向けて、大きな声で叫んだ。

「私の心配より、自分たちの心配をした方が良いのではないですか?」

 振り返った彼女は、自分はもう試験に受かったも同然であるかのように言葉を返す。


「レイアさーん! 僕らも絶対合格して見せまーす!」

 そんな彼女に僕は大きく両手を振って、さよならの合図を送った。タツゾウ同様に、大きな声で叫ぶ。


「ええ、あなたたちの武運を祈っています」

 レイアさんは、僕らに小さく手を振り、僕らとは反対の方角へと歩いて行ってしまった。


「なんだよあいつ! 自分はもう受かったみてーによ!」

「僕たちも頑張らないとね」

「ああ、あんな奴に負けてたまるかってんだよ! ソラト、あの女をギャフンと言わせてやろうぜ!」

「うん!」


 僕とタツゾウは、前回は合わせられなかった拳を合わせた。


    ◇


「お嬢様、夕食は何をお食べになられたのですか?」

 麗宮司レイアの専属メイド・ファナは、主に尋ねた。


「つけ麺よ」

「ホテルの料理の方が、高級で良質な食材が揃っていましたのに、キャンセルされてよかったので?」

「ええ、良かったわ」

「口の肥えられたお嬢様に、一般の料理人が作るつけ麺など……、合うはずがありません」

「いいえ、そんなことなかったわ。おいしかったわよ」

 レイアは、リムジンの長い窓の外を眺める。


「とっても……」

 誰にも聞こえないくらいの声でボソリと呟く。

 彼女の目には、夜の暁華街のまばゆい光が映っていた。

お読みいただきありがとうございました。

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