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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第二章・イア騒動編
35/117

やってしまったのだ

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「こんなの無理だよ! いくら何でも無理すぎるよー! ぎゃーーーーー!!」

「仕方がないでしょう。それとも何ですか? 弱音を吐いたら、アズマ・タツゾウのミスは帳消しになるんですか?」

「うるせーお嬢様だなー、いつまでもネチネチよ! いい加減機嫌直せって!」

「少しは責任を感じてください。あと、私のことをお嬢様と呼ぶのは止めてください」


 僕、雨森ソラトとタツゾウ、そしてレイアさんの三人は今、廃病院内を30名程度の追手から逃げ回っているところだ。

 4階で居場所がバレ、仕方なく部屋の外に飛び出してからは、敵との隠れながらの戦闘がずっと続いている。


 現在3階だ。テロリストたちに見つかってしまった4階から、なんとか3階まで来られたものの、そこから中々下りるチャンスを見出せず足踏み状態にある。


 パアン、パアン、パアン!

「数が多過ぎます。私たちだけでの突破は不可能です。誰かが囮になって、敵の注意を引き付けでもしない限り無理でしょう」

「そしたら囮の人はどうなりますか?」

「ここで死にます」

「それはダメですよ……」


 僕とレイアさんが、そのようなやり取りをしている間にも、敵は手を休めることなく、銃撃を続けてくる。

 廊下の角の壁に隠れ、射撃の軌道に入らないようにしながら様子を窺う。


 片方のサイドを僕とレイアさんが確認し、逆サイドをタツゾウが確認した。

 挟み撃ちにするつもりなのだろう。じりじりと両端から迫ってくる。

「おい、やべーぞ! これじゃあ挟み撃ちにされちまうぜ」

 タツゾウが、僕とレイアさんに警告するが、そんなことは僕も彼女も分かり切っている。


「そんなことは分かっています。今欲しいのは解決策です」

「おうおう、随分と棘のある言い方するじゃねーか」


 タツゾウとレイアさんは、部屋から出てからずっとこの調子だ。

 おそらくだが、レイアさんはタツゾウに嫌味を言っているわけではないのだろう。しかし、表情が豊かでない分、彼女の言葉には冷気が帯びてしまっている印象がある。


「そのようなつもりで言ったわけではありません」

「じゃあどんなつもりで言ったってんだよ!?」

「短気なのですね。気の短い人と話していると疲れます」

「てんめーーー!」

 だんだんヒートアップしてくる。この状況は、今で三回目だ。


「うわー、二人とも! ただでさえピンチなのに喧嘩してちゃ、生き残れるものも生き残れなくなっちゃいますよ! 僕こんなところで死ぬのなんて嫌ですよ!」

 二人が口喧嘩をやめ、僕の方を向く。


「悪かった。また熱くなっちまったぜ」

「ええ、私も反省します」

 このやり取りも同じく三回目である。


 そんなことをしている内に、敵がもうすぐそこまで迫っていた。

「片方を強行突破しましょう。アズマ・タツゾウと私が前で敵の銃弾を弾きます。雨森ソラト、あなたは後方から電気ショックガンで敵の数を減らしてください」

 レイアさんが、挟み撃ちを回避するための強行突破と、僕たち三人のフォーメーションを提案する。


「僕が倒すんですか? 無理ですよ! 射撃の腕なんてありませんよ。絶対当たらないと思います!」

「いいえ、やってもらわないと困ります。それに、敵はあの狭い廊下に密集しています。撃てば確実に誰かしらに当たります」


 なるほど確かにその通りだ。

 全ての敵を気絶させることはできないにしても、数を少しだけ減らすことには貢献できそうだ。


「……わかりました、やってみます」

 そして僕たちは、前衛二人、後衛一人のフォーメーションを組んで敵を迎え撃つ。


 パアン、パアン、パアン、パアン!

 カキン、カキン! カン、カン!

 タツゾウの木製の大太刀と、レイアさんの木刀が銃弾を零すことなく弾き続ける。

 彼らは後方の僕に当たらないように、自分には当たらない弾まで弾いてくれている。僕は、彼らのその厚意に応えなければならない。


 意を決し、電気ショックガンを放つ。

 この電気ショックガンの弾は、普通のピストルの弾とは異なり、弾の先に吸盤が付けられていて、そこが人体に触れると電流が流れるという仕組みになっている。あくまで相手を気絶させるための武器だ。


 バリバリバリ! バリバリバリ!

「あわわわ!」

「うううう!」

 二人が倒れる。当然狙って撃ったわけではない。たまたまその二人にヒットしただけだ。


「全員、後ろの奴の弾に気を着けろ!」

 敵の一人が、警戒を促す。


 テロリストたちは、なおも手を休めること無く、ひたすら撃ち続ける。

 その様子を見る限り、僕とタツゾウだけでなく、もうレイアさんも生け捕りにする必要はないということだろう。僕たち三人を殺す気で来ている。


「いいぞソラト、その調子だ!」

 生死が懸かっているこの状況を、タツゾウはどこか楽しんでいる節がある。僕には一生理解できない感覚だろう。

「雨森ソラト、手を休めないでください」

 レイアさんは厳しい。この程度は当然だ、と表情で語りかけてくる。


「は、はい!」

 慌てて再び構える。そして、同じように二発発射する。


「あががががが!」

「はわわわわわ!」

 また二人に命中する。よし、この調子ならかなり敵の数を減らせるはずだ。

 しかし、物事はそう上手く運んでくれない。


「挟み込んだぞ!」

 僕の後方から、敵の声がした。反対側の敵に回り込まれたのだ。

 挟み撃ちになる前に前方の敵を突破しきれなかった。


 パアン!

 後方の敵の一人が、僕に向かって一発撃ってきた。

「危ないっ!」

 タツゾウが、僕の眼前で大太刀を振り下ろす。

 間一髪で、命中を免れた。


「あ、あ、あああ」

 今殺されかけていた。死にかけていた。

 膝がガクガクと震えだす。少しだけ和らいでいたあの感覚が再び僕の中で芽生えだす。


 パアン、パアン、パアン!

 カン、カン! カキン、カキン!

 前方の敵の相手をレイアさんが、後方の敵にタツゾウが対応してくれる。

 二人の負担が増えてしまった。


「何をしているんですか、雨森ソラト? 早く撃ちなさい。私たちも持ちません」

 その言葉で我に返り、自分の役割を思い出す。

 少しでも彼らの負担を減らしてあげなければ……。


 タツゾウが相手している方に、もう一度電気ショックガンを構える。

 そして一発放つ。

 見事にヒットした。


 ()()()()に……。


 バリバリバリ!

「ほんげーーーーーーーーーーーー!!」


 やってしまった。やってしまったのだ。

 この重要な局面で盛大にやらかした。


 おそらく直前の死の恐怖で、手が震えていたせいだろう。僕の放った弾は、タツゾウの首に付着した。

 バタン。

 タツゾウがその場で倒れる。


 絶句。その場の全員が絶句。敵味方関係なく。


「それはちょっと……」

「え、普通そんなことなる?」

「俺たちに向かって撃って、外すなら分かるんだが……」

「自分を守ってくれた奴に向かって……」

 今まで攻撃の手を緩めて来なかった彼らが、この時に限り、手を止め、僕の失態に衝撃を受けていた。


「そうはならないはずですよね、普通は」

 あまりのショックで身動きのできない僕に、冷気を纏った言葉が追い打ちをかけてくる。

 レイアさんも、その後ろにいる敵も手を止めたのだろう。銃撃音もそれを弾く音も聞こえてこない。


「…………」

「…………」

「「「…………」」」


 なぜか、気まずい雰囲気が流れる。

 誰も一言も発さない。沈黙。


 僕がいたたまれなくなってきていた時、上の階から何か重いものが迫っているかのような音がした。


 ザアアーーーーーーーーーーーー。


 雨? そう思ったが違った、外に雨が降っている様子はない。

 答えはすぐに分かった。


 波だった。

 ザバアアアアアアアアン!


 階段からものすごい量の水が、突然上階から流れ込んできた。

 あっという間に、僕もレイアさんも倒れているタツゾウも、テロリストたちも全員が波に飲まれる。


「なんじゃこりゃあ!」

「嘘だろ!」

「天変地異!」

 突然の出来事に全員が混乱し、水流に流されていく。


「うわーーーーーー!! ゴボボボボボボボ」

「これは一体!?」

「…………」

 激しい水の流れに、僕たち三人も逆らうことはできない。一人は意識すらない。


「「「うわーーーーーーーーーーーー!!」」」


 水の中で意識が遠のく、視界が霞んでいく。

 ああ、ここまでか。僕の人生、しょうもなかったな。周りに迷惑ばかりかけて……。


 父さん、母さん、今僕がこんなことになっているなんて、夢にも思ってないんだろうな。

 トホホ、出来の悪い子でごめんなさい……。

 静かに目を閉じる。



「ソラトの将来の夢ってな~んだ?」

「えっとね、動物園!」

「ふふふ、動物園になりたいの?」


 懐かしい。儚い僕の最初の夢。

 生き物に囲まれて暮らしたい、その答えが、自分自身が動物園になることだった。

 今の今まで忘れていた母との会話。こんなこともあったっけ。


 当たり前だが、人の身では動物園にはなれない。

 それに気づいたのは、5歳の時。いや正確には気付かされたのだ。


「動物園? ソラト、動物園になりたいの?」

「うん!」

 幼き日のクロハとの会話だ。僕の成長は、彼女とともにあったと言っても過言ではない。


「人間じゃ動物園にはなれないんだよ」

 衝撃だった。子供ながらに絶望した。おそらく生まれてから初めての感情であったに違いない。

 近所の大人の人達にも聞いてみたが、やはり人間では動物園にはなれないらしい。


 母にも尋ねてみた。

「クロハちゃんがそう言っていたの? そう……」

 母が言葉に詰まるのを見て、察した。真実なのだと。

 思いっきり泣きじゃくった。非力な腕で、母のことをポカポカと殴っていたと思う。


「ごめんね。騙しているつもりじゃなかったんだけど……」

「お母さんなんて、もう知らない!」


 すっかり機嫌を悪くした僕は、外に飛び出し、三角錐湖近くの木の下へ走って行った。

 幼い僕は嫌なことがあった時、また、うれしいことがあった時もあの木の下に行っていた。ペットのコワンと出会ったのもその木の下だった。


 木の下ですすり泣いていると、声をかけてくれた。

「お~い、ソラト~。風邪ひくぞ」

 兄だった。

 僕が落ち込んでいるときには、いつも声をかけてきてくれる優しい兄だった。


「あのね……、グスン、動物園なれないんだって……」

「うん。聞いた」

 母か誰かが話したのだろう。


「グスン、なれないんだって……」

 少し声が上ずった。今にもまた大泣きしそうだった。

「なればいいじゃん」

 それを兄の一言がどこかに吹っ飛ばしてしまった。


「え?」

「できない証明ってできないんだぜ」

「え?」

「誰もできたことがないだけで、本当にできないかは分からないだろ?」


 この人だけ、他の人と発言が違った。

 呆気にとられ、彼の方を、赤らんだ眼でずっと見ていた。


「昔の凄い人たちって皆そうじゃん。誰もできなかったことをやったから、凄い人なんだろ」

「動物園なれるの?」

「なれるかもしれない。俺も分かんないけどな!」


 今考えると、人間では動物園には到底なれないけれど、当時の僕には、間違いなく彼の言葉が支えになっていたと思う。


 急にどうしてこんなことを思い出したんだろう。

 ああ、そうか。これが走馬灯ってやつか。

お読みいただきありがとうございました。

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