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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第二章・イア騒動編
34/117

正義

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

「だが、別にもう良い。助けてくれなんて言わない。改革は自分たちで行うからだ。これからの俺にはそれができる。だから、黙って死んでいけや!!」

 鹿馬松は怒鳴る。怒鳴り声が1階の大広間に響く。


 その響きが収まったタイミングで、俺の制服の右ポケットにあった通信機が音を鳴らして振動する。

 相手はおそらく辻だが、通信は遮断されていたはずだ。一体どういうことだろうか。


 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、

 銃を向けられ、身動きを取ることができないため、応答できない。振動が続く。


「俺が取ってやろう」

 15回ほど鳴動した後、鹿馬松が俺のポケットから通信機を取り出し、着信に応答した。

「もしもし~、こちらクログロス~」

 彼は、通信相手をおちょくり出した。自分の立場が上であれば、とことん調子に乗るタイプらしい。


「ハハハハハ、覇気のない声だなレンジャー第2部隊隊長・辻二軍。俺の名前は、鹿馬松角太。ノータリンの頭をやらしてもらっている」

「何用かな、辻君?」

「そうかそうか~ご苦労だったな~」

「…………。え、何だって?」

「えっ……、何だって……?」

「えっ、えっ、人質を救助しただとーーーーーー!!」

 鹿馬松はご丁寧に、通信相手の名前からその伝達内容までペラペラと喋ってくれた。


 でかしたぞ!!

 人質になっていた理の国の大統領を、辻が奪還に成功した。つまり、もうここでおとなしくしている理由は無くなったわけだ。

 敵に包囲されているため、逃げ場はない。自分たちが殺される前に、ここにいるノータリンメンバーを殲滅する。


「お前ら、人質の救出は成功だ! もう何も気にする必要はない」

 テロリストたちは、人質を奪い返されたことに戸惑いを隠せず、狼狽えている。

 絶体絶命のピンチから起死回生を果たすために、この機を逃すことなどできない。


「やっちまえーーーーーーーーーーーー!!」

 低く唸り声を上げる。クログロス部隊全員が一斉に立ち上がる。

「「「うおーーーーーーーーーーーー!!」」」


 ババン、バン、ババン、バン、ババン!

 周囲の敵を一斉に射撃する。1階大広間は、あっという間に血の戦場と化した。

 隠れる物陰などはなく、人も密集しているため、撃てば誰かに当たるといった状態だ。


 パアン、パアン、パアン、パアン、パアン!

 当然、反撃も受ける。味方が一人、また一人と倒れていく。

 敵も味方もあっという間に数を減らす。究極の短期決戦だ。


「ヌオーーーーーーーーーーーー!!」

 ババババババババババババン!!

 俺もガトリングガンで応戦する。


「おわーーーーーっ!」

「ぬうう!」

「ぐわっ!」

 多くの人間の断末魔を生み出す。

 これまでも正義を掲げ多くの命を奪ってきた。そして、これからもそれは変わらない。


「うっ! くっ!」

 二発食らった。脇腹に一発、右の太ももに一発だ。

 大丈夫だ、致命傷は避けた。まだやれる。


「ヌオーーーーーーーーーーーー!!」

 ババババババババババババン、ババババババババババババン!!


 止まない銃声。床に降り注ぐ血の雨。積み上げられた死体の山。

 まさに地獄絵図。一般人なら発狂しているだろう。

 しかし、俺は歴戦の猛者、十奇人だ。この程度のことでは涙一つも流すことは無い。

 生きている人間の数に比例して、銃声の喧騒も徐々に収まってくる。


「…………」

 しばらくして銃声が止んだ。


 俺は、8発の銃弾を受けていた。アドレナリンが出ていたせいか、最初の2発以外は気付かなかった。

 右腕に2発、左腕に1発、右脇腹に1発、左肩に1発、右胸に1発、右太ももに1発、左ふくらはぎに1発といった具合だ。

 どれも致命傷にはならない。戦いの中で、無意識に避けていたのだろう。


 この場に立っていたのは俺だけだった。気づけば弾も尽きていた。

 血塗られた敵と味方の死体の山を見て、胸に迫るものを何とか吐き出そうとする。


「かはっ、がはっ、かあーっ」

 言葉にならない虚しさが、俺の胸を抉った。


「ぐわーーーーーーーーーん、うわーーーーーーーーー!!」


 いい年した大人が、何をそんなに泣いている。

 それも歴戦の猛者が。十奇人が。まるで子供じゃないか。情けない。


 サングラスが落ちる。血だまりにポチャンと音を立て、赤に染まっていく。

 拾い上げはしない。


 良いじゃないか。隠す必要なんてないのだから。

 誰も見ていないのだから……。


    ◇


「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひいい」

 男は、どん底に落ちた気分であった。交渉のための武器を失ったのだ。

 銃撃戦から一人だけ、息を巻いて一目散に逃げだした。


「なぜだ? なぜに奪還されたんだ? 任せていたのは『シンビオシス』だぞ!?」

 彼は表玄関に向かって、走り続ける。そこに味方がまだたくさん残っているからだ。

 そのはずだった。


 カキイン。

 扉を開け外に出ると、そこには彼にとって絶望的な光景が広がっていた。

 屋敷を取り囲むようにして、八併軍の制服を着た数多の戦士たちが立っていた。


「な、なんで!?」

 鹿馬松は動揺を隠せない。表門には自分の味方が厳重に警備をしていたはずであった。人数もかけていた。

 しかしいざ出てみると、まるで逆であった。味方の兵は皆、地面に突っ伏している。


「あなたの疑問にお答えしましょうか?」


 集団の奥から声が掛かる。前方の兵が左右に割れ、声の主が前に出てくる。

 八併軍総督・麗宮司銅亜だ。右手に手のひらサイズの小型のピストルを所持している。


「お前は! 一人で来いって言ったはずなのに……」

「ええ、そうでしたね。人質奪還の一報が入らなければ、あなたのお仲間に奇襲することはできませんでした」


「どうしてだ? 何が何だか……」

「うちの戦士、辻二軍が大統領救出の報告をくれましてね、人質を気にせずに制圧できたわけです。通信遮断セキュリティは、大統領が解除して下さったのでしょう。『シンビオシス』と手を組んでいたというのには驚きましたよ。辻君でなければ、奪還は厳しかったかもしれないですね」


「は、はっ、はあっ?」

 彼は腰を抜かし、四足歩行で屋敷内に戻っていこうとする。


「ダメじゃないですか。大事な人質を、作戦の要を他人に託しちゃあ。いざという時にこうやって逃げられるんですよ」

「あっ、あああっ! うわあ!」


 麗宮司銅亜は、ジリジリと少しずつ鹿馬松に近づいてくる。

 彼の性格は非常に悪い。追い詰められた人間を、ゆっくりと詰め寄っていく癖がある。これは、戦士達にも公認されている事項だ。


「僕の娘、麗宮司レイアを攫った目的の一つは、芯玉との交換交渉に使うため。もう一つは、あなたが連れてきた珍獣を『使役の腕輪』で意のままに操るため。そうでしょう? 麗宮司家の血筋が必要ですもんね。まあ、その珍獣も十奇人相手じゃあ厳しいですよね。クログロスの特殊装備は幻覚を引き起こすものなんですよ」


「く、来るな! 近寄るな!」

 そう言って、鹿馬松は扉を開こうと取っ手に手をかける。


「終幕です。ここであなたを殺します。世界の平和と均衡のために」

「お、お、おい! 待て、殺されるのか!? 裁判も無く!? そんなことしたら……」

 鹿馬松は銅亜の方を振り返り、扉にもたれ掛かる。


「なあに、明日のニュースでは、僕の行いはこう報じられるでしょう。彼が激しく抵抗し、命の危険を感じたため、やむを得ず射殺した。ってな感じで」


 その言葉に、鹿馬松は怒りの感情を爆発させる。

「てめえみてーな奴が、上層部にいるからこの世はクソなんだ!! 今気づいた。お前が死ぬべきだ。俺は本気で弱者を救おうとしたぞ! なのにお前らはなんだ? 上の奴らの味方ばっかしやがって、ふざけんじゃねーぞ!!」


「罪なき民間人を巻き込む弱者の味方が正義なのか、少数を見捨てて世界の平和を保っている我々が正義なのか、僕には分かり兼ねますがね。第一、あなたの行いはすでに『復讐』へと化していたのではないでしょうか?」

 麗宮司銅亜にも分からなかった。彼もまだ、正義を探している最中なのだ。


「クソ野郎どもが! くたばれ! くたばれーーーーーーーーーーーー!!」

 真夜中のイアに、改革者の叫び声が轟き、こだまする。


「どのみち死刑です。こんな危険分子を残しておくほど、ぬるくはないんですよ」

 パアアアン。

 麗宮司銅亜は、主犯の眉間を正確に打ち抜いた。


 午前0時、理の国大統領邸宅前の庭園にて、テロ組織「ノータリン」の頭・鹿馬松角太の死亡が、八併軍により確認された。

お読みいただきありがとうございました。

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